(「河北新報」令和6年1月30日付記事より引用)
社会福祉法人「チャレンジドらいふ」(仙台市泉区)が宮城県美里町で開設準備を進める野菜工場が、障害者福祉関係者の注目を集めている。運営が公費で賄われる既存の就労継続支援B型事業所を廃止。利用者を雇用し、売り上げで給料を賄う一般事業所に転換するからだ。全国初となる「脱福祉」の試みで、障害者の待遇改善と社会保障費抑制の二兎(にと)を追う。
(報道部・大泉大介)
ホウレンソウを養液栽培する工場(約2800平方メートル)は3月に稼働予定。播種から収穫まで年17回転を計画し、年54トンの収量を見込む。大手コンビニチェーンなどに卸して4000万円の年間売上高を目指す。
機械化や自動化は一部にとどめ、手作業を残す。白石圭太郎理事長(40)は「一人一人の特性に合った仕事内容や勤務時間を用意できるのが野菜工場の強み」と説明。障害の有無を超えて多様な人が社会的役割を果たす「ソーシャルファーム」と位置付ける。
同法人は2014年から現地でB型事業所「ボーノボーノ大崎東」を運営してきた。近隣に暮らす精神・知的障害者約20人が通所。育てた野菜を売ったり、企業から軽作業を受託したりして、1人月1万3000円の工賃を得てきた。
B型事業所は職員人件費など基本的運営費が国や県、市町村の支援費で賄われる。ボーノの場合、年3600万円。B型事業所からの切り替えは安定を捨て、業績が浮き沈みする経営の世界に乗り出すことを意味する。
新工場では希望する利用者のほか一般からも広く求職者を募る。給料は月額10万円前後の見込みで工賃からは大幅に増える。
白石理事長は「支援費は運営側には安心だが、そのために働ける障害者まで事業所で囲ってきた面もある」としつつ、「ソーシャルファームは脱福祉の一歩。社会保障費を減らしながら、働ける障害者の経済的自立も促す」と語る。
今回の転換は県と日本財団が20年に結んだ障害者の就労機会拡大と工賃アップを目指す連携協定に基づく。工場の建設費などハード整備の2億6800万円は財団が全額助成。県も初年度の運営費を支援する。
白石理事長は「いい野菜を作り、ちゃんと売っていかないと行き詰まるので怖さはある。ただ、それは働く意欲や生きがいと表裏一体。障害者と一緒に味わっていく」と意気込む。
「取り組み、全国の先駆けに」 日本財団の竹村氏に聞く
チャレンジドらいふが開く「ソーシャルファーム」の意義を、支援する日本財団公益事業部の竹村利道シニアオフィサー(59)に聞いた。
―障害者就労の「脱福祉」を訴えてきた。
「日本には障害のために企業では働けず福祉就労の現場にいる人が30万人いて、平均工賃は月1万6000円超に過ぎない。一方、そうした福祉就労事業には年4000億円超の税金が投じられている。それなのに全障害者の工賃は合わせても400億円。ここだけを見ても現状の障害者福祉が当事者ファーストとは言い難いと分かる。だから脱福祉を叫んできた」
―工場整備費の全額を補助する。
「今回の宮城での取り組みを脱福祉の全国の先駆けにしたいと支援を決めた。全国には1万6000の障害者就労事業所があるが、誤解を恐れずに言えばその多くは支援費漬け。公金のぬるま湯に浸っている。その点、チャレンジドらいふは安定に見切りを付け、経済の土俵で戦う意志を示した。他の事業所も転換を望むなら同様の支援をする」
―なぜ野菜栽培か。
「種をポットに植えたり、収穫した野菜をパレットに並べたり、汚れたパレットを洗ったり…。野菜工場の仕事は多様で、障害者に合った仕事を担ってもらいやすい。今回は植物工場の建設や運営の知見が豊富な三菱ケミカル・アクア・ソリューションズ(東京)の協力を得て販路も安定させ、事業を成功に導きたい」
―「チャリティーではなくチャンスを」が持論だ。
「率直に言って、福祉が障害者の自立を妨げている。『障害者には大変な思いをさせてはいけない』という思考を改めないといけない。重度の障害者まで働けと言っているのではない。働ける人まで保護して軽作業を担わせ、低賃金を強いるのはもうやめにしたい。障害者も試行錯誤して働き、スキルアップして成長する。必要なのは保護ではなく機会と声を大にしたい」
―描く将来像は。
「稼げる事業所が増えれば社会保障費は減らせるし、障害者は税金を食う側から納める側になる。現状の負のスパイラルを正に反転できるよう、国にも先を見据えた予算配分を提案していく」
社会福祉法人「チャレンジドらいふ」(仙台市泉区)が宮城県美里町で開設準備を進める野菜工場が、障害者福祉関係者の注目を集めている。運営が公費で賄われる既存の就労継続支援B型事業所を廃止。利用者を雇用し、売り上げで給料を賄う一般事業所に転換するからだ。全国初となる「脱福祉」の試みで、障害者の待遇改善と社会保障費抑制の二兎(にと)を追う。
(報道部・大泉大介)
ホウレンソウを養液栽培する工場(約2800平方メートル)は3月に稼働予定。播種から収穫まで年17回転を計画し、年54トンの収量を見込む。大手コンビニチェーンなどに卸して4000万円の年間売上高を目指す。
機械化や自動化は一部にとどめ、手作業を残す。白石圭太郎理事長(40)は「一人一人の特性に合った仕事内容や勤務時間を用意できるのが野菜工場の強み」と説明。障害の有無を超えて多様な人が社会的役割を果たす「ソーシャルファーム」と位置付ける。
同法人は2014年から現地でB型事業所「ボーノボーノ大崎東」を運営してきた。近隣に暮らす精神・知的障害者約20人が通所。育てた野菜を売ったり、企業から軽作業を受託したりして、1人月1万3000円の工賃を得てきた。
B型事業所は職員人件費など基本的運営費が国や県、市町村の支援費で賄われる。ボーノの場合、年3600万円。B型事業所からの切り替えは安定を捨て、業績が浮き沈みする経営の世界に乗り出すことを意味する。
新工場では希望する利用者のほか一般からも広く求職者を募る。給料は月額10万円前後の見込みで工賃からは大幅に増える。
白石理事長は「支援費は運営側には安心だが、そのために働ける障害者まで事業所で囲ってきた面もある」としつつ、「ソーシャルファームは脱福祉の一歩。社会保障費を減らしながら、働ける障害者の経済的自立も促す」と語る。
今回の転換は県と日本財団が20年に結んだ障害者の就労機会拡大と工賃アップを目指す連携協定に基づく。工場の建設費などハード整備の2億6800万円は財団が全額助成。県も初年度の運営費を支援する。
白石理事長は「いい野菜を作り、ちゃんと売っていかないと行き詰まるので怖さはある。ただ、それは働く意欲や生きがいと表裏一体。障害者と一緒に味わっていく」と意気込む。
「取り組み、全国の先駆けに」 日本財団の竹村氏に聞く
チャレンジドらいふが開く「ソーシャルファーム」の意義を、支援する日本財団公益事業部の竹村利道シニアオフィサー(59)に聞いた。
―障害者就労の「脱福祉」を訴えてきた。
「日本には障害のために企業では働けず福祉就労の現場にいる人が30万人いて、平均工賃は月1万6000円超に過ぎない。一方、そうした福祉就労事業には年4000億円超の税金が投じられている。それなのに全障害者の工賃は合わせても400億円。ここだけを見ても現状の障害者福祉が当事者ファーストとは言い難いと分かる。だから脱福祉を叫んできた」
―工場整備費の全額を補助する。
「今回の宮城での取り組みを脱福祉の全国の先駆けにしたいと支援を決めた。全国には1万6000の障害者就労事業所があるが、誤解を恐れずに言えばその多くは支援費漬け。公金のぬるま湯に浸っている。その点、チャレンジドらいふは安定に見切りを付け、経済の土俵で戦う意志を示した。他の事業所も転換を望むなら同様の支援をする」
―なぜ野菜栽培か。
「種をポットに植えたり、収穫した野菜をパレットに並べたり、汚れたパレットを洗ったり…。野菜工場の仕事は多様で、障害者に合った仕事を担ってもらいやすい。今回は植物工場の建設や運営の知見が豊富な三菱ケミカル・アクア・ソリューションズ(東京)の協力を得て販路も安定させ、事業を成功に導きたい」
―「チャリティーではなくチャンスを」が持論だ。
「率直に言って、福祉が障害者の自立を妨げている。『障害者には大変な思いをさせてはいけない』という思考を改めないといけない。重度の障害者まで働けと言っているのではない。働ける人まで保護して軽作業を担わせ、低賃金を強いるのはもうやめにしたい。障害者も試行錯誤して働き、スキルアップして成長する。必要なのは保護ではなく機会と声を大にしたい」
―描く将来像は。
「稼げる事業所が増えれば社会保障費は減らせるし、障害者は税金を食う側から納める側になる。現状の負のスパイラルを正に反転できるよう、国にも先を見据えた予算配分を提案していく」