一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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「異郷化」という、ジャン-リュック・ナンシーの現状認識

2006-05-23 09:27:36 | Essay
'06年5月22日付けの「朝日新聞」夕刊に、フランスの哲学者ジャン-リュック・ナンシー(Jean-Luc Nancy, 1940 - ) のインタヴューの一節が紹介されていた。

キーワードは「異郷化」。
われわれを取り巻く世界の中で、古くからの土地と人間との結びつきが失われ、「故郷と異郷はそれほど別なものでなくなってしま」った。その結果として、「同じ土地にとどまっていても居心地の悪さ」を感じるようになる。
それを「異郷化」と言っているわけである。

結果として、「目に見えない不安感や喪失感が人びとの間に広がっている」。
また、「自分がどこに属しているか分らないという『帰属の不安』も広がっている。そのために失われた伝統や愛国心を懐かしむ気分も強まっている」ということだ。

現在、この国に広がりつつある「空気」を、大きな背景の下で捉えると、そいういうことになるのか、と納得させられる。

納得はさせられるものの、「それではどのようにすれば、このような傾向を打ち破ることができるのか」という処方が、現在を生きる人間には、より重要であろう。

とりあえずのナンシーの答えは、こうだ。
「古い世界が衰退に向かっている兆候は、大きな言葉が力を失っていることにも現われている。進歩や正義などの言葉がなぜ衰弱したのか。我々は真剣に考えなければならない」

「大切なのは異郷化を恐れないことだ。あれもこれも失われたと嘆いて昔を美化する人々は、その時代の人間が平気で残酷なことをし、暮らしが貧しくつらいものだったことを忘れている」
また、希望や可能性を彼は、このような点に見出す。
「インタ―ネットによる人間関係は乾いていて冷たいと言われるが、そこから新しい人間の姿が生まれるのかもしれない」
小生は、むしろ新しい「中間共同体」を創造することが必要なのではなかろうか、との直覚があるのだが、はたして、インタ―ネットにそれだけの可能性のありやなしや。

アナタは、いかがお考えだろうか。