「桃介橋(ももすけばし)」。
前回は、保存するサイドの問題を主に「ヘリテージング」への若干の危惧の念を述べてみました。
そこで、今回は「観光する側」の問題を少々。
神社・仏閣への「観光」(ほとんどの人にとって「参詣」じゃあないよね、主な目的は)の場合でもそうなのですが、通り一遍だけ見て、これで一挺上がり、じゃあ面白くない。
「近代化遺産」の場合には、それ以上に、もっと「知的に面白くする」工夫や知識が必要になります。そうじゃないと、ダムや橋梁、工場なんてのは、あまり面白くないよ。
それでは「知的に面白くする」ための方法は?
小生なりの方法を、以下に述べてみましょう。
第1に、人間に対する興味と関連づけること。
これは「プロジェクトX」の方法論とも似ていますね。
例えば、長野県南木曽に「桃介橋」という橋梁が、国指定重要文化財として保存されています。
この名から、勘のいい人はお分かりかもしれませんが、「電力王」と言われた福沢桃介(諭吉の娘婿)が、発電所建設のための資材運搬用として掛けさせたもの(トロッコレールの痕跡が分るようにしてある)。
また、桃介は、川上貞奴との関係でも知られている。
そんなことも分るように、近くには町立の「福沢桃介記念館」も設けられています。
開発物語だったら、現在は一級河川「荒川」と呼ばれている「荒川放水路」にだって、青山士(あきら)という人物とパナマ運河につながる壮大なお話があったりする(お知りになりたい方は、小生のHPで「パナマ運河建設に参加した日本人/青山士(あきら)」をご覧ください)。
第2には、その地域の歴史と関連づけること。
近代化遺産は、建築物よりも、その地域と密接に結びついています。
というのは、近代産業自体が、地域の産物を加工したり、自然条件を利用したりするために形成されたことが多いからです。
例えば、旧富岡製糸場は上州の養蚕と密接な関係があり、先程述べた桃介橋は、木曾川の豊富な水量を生かした発電施設と切っても切り離せない結びつきがあるんですね。
こういうことを、行政が出す広報に頼るだけではなく、自分で調べるというのも、なかなか楽しいものです(それにインタ―ネットの普及もあって、以前と違って情報の入手も楽になっています)。
あとは、建築関係、土木関係などの技術史的な基礎知識もあった方がよい。
そうすれば、広告代理店的な「明治レトロ、大正ロマン、昭和クラシック」などという大ざっぱな表現ではなくて、「擬洋風建築」なのか「様式建築」なのか、それとも「近代主義建築」なのか、なんてことも言えるようになる。
先程の「荒川放水路」の話なら、江戸川区方面の土手の方が、江東区方面の土手より低くなっている理由、なんてことも分ってくる。
まあ、そんなことは面倒くさいとお思いの向きには、この趣味、あまり向いてはいないんじゃないかな。
世の中には、ほかにもお楽しみはたくさんありますので、そちらにお時間をお使いください。