一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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ゼノフォビア(外国人嫌い)の心理的基礎★『快の打ち出の小槌』を読む。

2006-05-02 09:24:09 | Book Review
どうも、日本人には西欧人に対して、威圧感を覚える傾向があるようだ。

小生、それは体格の大きさや、身ぶり手振りなどの肉体的なものによるのだろう、と思っていたが、どうやらそうではないらしい。そこには心理的な機序が働いているようなのだ(中国人・朝鮮人に対する心理的な反応に関しては、また別個扱うこととする)。
「僕にはアメリカ人が怖いんですね、つまり、一対一で向かい合ってる時にななか怖い。なんでもないアメリカ人ですね、普通のアメリカ人、これが怖い、というか、気圧(けお)されるといいますか、太刀打ちできないわけですね、いつの間にかあちらが先生でこちらが生徒になったような関係になってしまう。」
と語るのは、伊丹十三。
ご存知のように、彼はアメリカ映画(『北京の55日』)に出演などもしているのだが、それでもこのような、彼らからの威圧感を述べる。

一方、対談相手の精神分析学者の佐々木孝次も、
「いつも外国人の前でおどおどしてたりするのは不愉快きわまりないんで(笑)。大体フランスにある程度長くいることがいかに不愉快か。(中略)
お前は三歳以前だ、と――まあ、口ではいわないけれども(笑)、でも、フランスにいるってことが、それをいわれ続けているようなもんですから、実に不愉快きわまりない。」
と述べる。

しかし、二人は「気圧される」「不愉快だ」と言い合うだけではなく、そこから日本人の心理構造に話を進めていく。

途中を省略して、佐々木による、結論めいた発言を引用する。
「集団の全員が不快の解消を相手に期待する人間同士であれば、それはそれなりにうまくゆく。ところが、そこへ、不快の解消を相手に求める度合いの少ない人間、つまりヨーロッパの世界がまじわってきたから問題なんです――なんていいますかね――ヨーロッパ人のように、一度自分が一番頼りにする相手から失望を味わった人間、というかな、幼児期に、本当の意味で失望を味わった人間にとって、日本人というのは、その存在自体が『冗談』でしかないわけですよ。なにか自分たちの記憶のとどかない過去の関係のぬくもりを感じ取らせてくれるかもしれないが、実際にはもともと期待できないものを期待し合っているやつらだト、こういうふうに受け取られる危険はいつもあると思います。」

さて、いかがであろうか。
小生、納得できないわけではない。また、この考え方を元にして、黒船によるウェスタン・インパクト以降、人びとが外国人に対して、どのように感じたかに思いを馳せることもできる。
つまり、「攘夷論」の基礎を、ある程度、心理的に説明することができるだろう(岸田秀による珍妙な社会病理的説明より納得がいく)。

とりあえずは、このような意見があるというご紹介に留めるが、もう少し読み込んだ上で、この説に、どこまでの射程があるかを確かめたいと思う。

佐々木孝次+伊丹十三
『快の打ち出の小槌―日本人の精神分析講義』
朝日出版社
定価:960円
*初版発行1980年5月25日