一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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「ヘリテージング」への若干の危惧を述べてみようか。

2006-05-16 01:23:58 | Opinion
「旧・下野煉化製造会社・ホフマン式輪窯」
現在は乗馬クラブの敷地になっている。
国指定重要文化財であり、稼働はしていないが、
内部は構造が分るように保存されている。

また、造語が一つ増えたようで。
「ヘリテージング」。
英語の heritage(遺産) に -ing を付けて、
「近代化遺産を観光資源として楽しむ行為」
を意味させるそうです。

サイトを検索してみると、79件ありましたから、取りあえず定着化しつつあることばなんでしょうか(ヘリテージング研究所所長の阿曽村孝雄氏による造語とか)。

対象となるのは、やはり明治以降の「近代化遺産」がメインのようで、建築のみならず、ダムや鉱山、トンネル、橋梁などの土木関係の構築物も入ってきています(その辺が、従来の「建築探偵」趣味とはダブる部分もあるが、若干ジャンルが異なる)。

扱い方には、大きく分けて2通りあるようで、
 (1) 「観光資源」として活用する方向
 (2) 「文化財」として保存する方向
ということになるんじゃないかしら(造語をこしらえた意図からして、もともとは、(1)に力点が置かれていたらしい)。
まあ、今便宜的に分けただけで、重なり合う部分も当然出てくるわけですけどね。

しかし、(1)にあまりにも重点が置かれ過ぎると、これはこれで問題が生じないことはない。
というのは、経済原則が強く働き過ぎると、外見重視になる可能性が出てくる。つまり、機関車で言えば、動体保存ではなく静体保存になってしまわないか、という危惧があるのです(広告代理店が介入すると、その可能性が大きくなる。また、行政サイドにも、「近代化遺産」の本質が分る人が少ない。したがって「集客」という観点からのみ考えるようになる)。

また、外見重視になって、内部はまるっきり現代風というのでは、動体保存ではないでしょうね。何しろ「近代化遺産」というのは、建築物・構築物の「目的」も含めてのことですから。
もうその目的がなくなったという施設の場合でも、できるだけ、その構造あるいは、広い意味でのインテリア・デザインが分るように保存すべきでしょう。それが(2)に重点を置く方向だと思います。

例えば、JR 総武線の両国駅旧駅舎の場合、現在はビア・レストランになってしまい、内部は駅の構造がまったく分らなくなっています(どこが改札口やら待合室やら)。

また、近代化遺産の場合、システムとして西欧から導入されているケースが多いので、できるだけ、その周辺のシステムも生かす方向で、保存すべきでしょう。
駅舎の場合なら、プラットフォームや線路、信号機、保管倉庫なども含めて一連のシステムになっていますから、スポットとしてではなく、かなり広い範囲での保存が必要になります(本当は、機関車を含めて列車も、と言いたいところ)。
ですから「いいとこ取り」(あるべき環境から引っぱがして)の移築などは、望ましくありません(帝国ホテルなどの「明治村」移築の場合は、緊急避難的に止むを得なかったのだろうが)。

「ヘリテージング」ということばが普及して、身近な近代遺産に眼が向けられるのはいいのですが、反面、安易に「観光スポット」化することには、懐疑のまなざしを持つ必要が、どうやらありそうです。

*ちなみに、小生、産業考古学会の会員であります(ほとんど、総会にも参加していないけどね)。