一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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「都市の記憶」の消滅- 今度は「三信ビル」が危ない!

2006-05-12 00:01:26 | Opinion
今回は、ローカルな話題。

人が自分の記憶の一部なりとも、誰か他人に消されるようなことがあれば、重大事である(歳をとると、自然に忘れてしまうことはあるようですけどね)。
それが、きのう食べた昼飯のメニューであろうが、おととい電車からかいま見た欅の若葉のみずみずしさであろうが。

ところが、人は、都市に関する記憶の一部であるランド・マーク(建築物や自然物などの、地域の特徴的な存在)の消滅には、あまりにも無関心なのではないか(われわれの都市についての記憶は、少なからずランド・マークに因っている)。

晴海通りと日比谷通りとの交差点にほど近い所に、古風なビルが建っているのをご存知だろうか(実にローカル!)。
千代田区「有楽町日比谷地区」のランド・マークである〈三信ビル〉。地上8階、地下2階、塔屋1階、1930(昭和5)年6月竣工の、周辺では数少ない、戦前派の面影を残すビルである。

このビルの解体が、所有者である三井不動産?Mによって決定されたという(小生、みゃおさんのブログ「みゃおの雑記帳」で知った)。

中に足を踏み入れた人ならお分かりであろうが、内部には、戦前の雰囲気が残されている。
1階の吹き抜けになった商店エリア、そのエリアを見下ろせる2階の回廊、その上の天井にある扁平アーチと、そこここに、アールデコや表現主義などのデザイン要素がちりばめられている。
そのようなデザイン要素とともに、現代のビルの明るい内部空間とは異なり、やや薄暗い空間は、なんとも言えない落ち着きを感じさせてくれる。

小生、建築に関しては門外漢だが、これが当時のオフィス・ビルの一つの類型だとすれば、戦前の建築技術も、まんざら捨てたものではないと思わせる(デザイン・コンセプトで言えば、戦後、一世を風靡したインターナショナル・スタイルは無装飾を好む。その揺り戻しが「ポスト・モダン」だったのだが……)。

さて、外観も、エッジをシャープに取った、かっちりした立体ではなく(敷地が変形気味)、角にはアールが付けられているし、出窓のように両脇に柱のある突き出し部分さえ設えられている(外装はスクラッチ・タイル貼り?)。

これだけ特徴のある建築物なのであるが、周辺の元の帝国ホテルも今はない「有楽町日比谷地区」では、ほぼ唯一の過去の「都市の記憶」を残すものであろう。
〈三信ビル〉の消滅は、小生から「有楽町日比谷地区」を思い起す〈よすが〉がなくなることになる。大仰に言えば、記憶の一部を他人の都合で消されるのとほぼ同一。
よって、解体には反対する。

とは言え、以上は、あくまでもごく私的な理由。

そのような個人的な理由からではなく、公共的な視点から、この解体に反対し対案を出しているグループもある。
このビルを少しでも知っている方は、ぜひ一度、このサイト「三信ビル保存プロジェクト」を見てください。