一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(17) ― 勝 小吉

2005-11-04 00:00:05 | Quotation
「おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有るまいとおもう。故(ゆえ)に孫やひこのために、はなしてきかせるが、能(よ)く不法もの、馬鹿者のいましめにするがいいぜ」
(『夢酔独言』)

勝 小吉(かつ・こきち。1802 - 50)
言わずと知れた、勝海舟の親父殿。本名は勝左衛門太郎惟寅。旗本男谷平蔵の妾腹の三男として生まれる。7歳にして、貧乏御家人勝家の養子となる。生涯、小普請組(無役・特に役職のない幕臣)の御家人として、市井の無頼漢たちに交わり生活を送る。37歳で隠居、夢酔と号す。
『夢酔独言』は、隠居した小吉が書き留めた自叙伝。

上記の引用のように、口語を元にした語り口が、なんともユニークな一書。しかも、自らの送ってきた無頼な生活を、あけすけに語っているので、当時の江戸の一面(下層社会)をのぞかせてもくれる。

口語での記述という面から見ると、明治時代の言文一致の動きよりも100年近く古い。当時正式なものとされた〈漢字仮名混じり、文語崩し〉に不慣れだったところが、かえって面白い文体を生んでいる。
前に触れた海舟の『氷川清話』が、聞き書きだったことから、彼の語り口が分かるのと同様。父子両者の語り口を比較すると、興味深い点も多々あることだろう(江戸時代後期の江戸下町方言をベースにしているのは、両者共通)。

参考資料 勝部真長編、勝小吉『夢酔独言他』(平凡社)