一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(23) ― 山口昌男

2005-11-10 00:00:45 | Quotation
「(境界は)内と外、生と死、此岸と彼岸、文化と自然、定着と移動、農耕と荒廃、豊穣と滅亡といった多義的なイメージの重なる場であった。境界にまつわる習俗はこうした多義性に形の上で対応したものと考えることができよう。」
(『文化と両義性』)

山口昌男(やまぐち・まさお。1931 - )
北海道生れ。文化人類学者。
著書には、『アフリカの神話的世界』『人類学的思考』『文化と両義性』などの文化人類学に関するもののほかに、近年は『「敗者」の精神史』『「挫折」の昭和史』『内田魯庵山脈』などの近代日本を対象とする〈歴史人類学〉ものが多い。

〈秩序〉と〈混沌〉という形で「〈中心〉と〈周縁〉」モデルを提示したロトマンなどは、「境界は、内部空間か外部空間のどちらかのみに属し、一度に両方に所属することはない」と説いた。一方、この定義は、集合論のアナロジイに忠実過ぎ、形式的であるという批判も強い。
山口は、この後者の立場を、道祖神、宿神、サカド神、橋姫などの日本民俗学の成果を踏まえて、境界は両義的な領域であるとみた。
江戸の街構造でいえば、〈悪場所〉(廓と芝居町との組合わせ)という存在は、空間的にも境界に属し、
「日常的な世界を超越する聖性と、定住民から賤視の標的に供される不浄性との両義的な意味がこめられていた」(前田)
のである。

参考資料 山口昌男『文化と両義性』(岩波書店)
     前田愛『都市空間の中の文学』(筑摩書房)