一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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今日のことば(29) ― 藤原定家

2005-11-16 01:55:33 | Quotation
「世上乱逆追討耳に満つと雖も、之を注せず。紅旗征戎吾が事にあらず。」
(『明月記』)

藤原定家(ふじわらのていか/さだいえ。1162 - 1241)
平安末期から鎌倉初期の公家・歌人。藤原俊成の次男。
後鳥羽院の再興した和歌所の寄人となり『新古今和歌集』の撰者となり、また『新勅撰和歌集』を撰進した。『小倉百人一首』の元となった『百人秀歌』を、子藤原為家の舅宇都宮頼綱のために撰んだと言われる。

『明月記』は、治承4(1180)年から嘉禎1(1235)年まで書かれた定家の日記。
これは、定家の19歳から74歳までに当たる。
上記の引用は、治承4年9月の項目。治承4年の源頼朝の挙兵(平氏は慌ただしく福原遷都を決行する)を聞いての感想。
「紅旗」とは平家の赤旗、「征戎」とは戎(えびす:野蛮人)をたいらげること。つまりは、世の中では平家が源氏を討つとか言って騒がしいが、そんなものはオレの知ったものか、との意味になるだろう。

定家自身のノンポリ宣言なのか、それとも文学は政治や軍事には何の関わりもないとの自負なのか、解釈はいろいろあるだろう。
小生、個人的には、後者の解釈を採りたい。つまり、生活人/社会人としては、俗事にまみれて生きていかざるをえないが、文学者としてはそのような俗事を離れた存在(同時代人西行のような、世間から見れば「無用者」)でありたい、という若き定家の宣言と思うのである。

もっとも、この項目自体、後になっての定家の書き入れとの説もあるのではあるが……。

   見渡せば花ももみぢもなかりけり浦のとまやのあきの夕ぐれ 

参考資料 堀田善衛『定家明月記私抄』(筑摩書房)
     今川文雄『訓読明月記』(河出書房新社)