一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『昭和史発掘 4』を読む。その2

2005-06-28 00:04:48 | Book Review
●「京都大学の墓碑銘」
いわゆる「滝川事件」または「京大事件」の顛末を描いた章。

「滝川事件」とは、『日本史辞典』では、
「文部省が京大法学部教授滝川幸辰の休職を強行した事件。1933(昭和8)年4月鳩山一郎文相は、滝川の著書や講演内容が共産主義的であるとして小西重直総長に罷免を要求、法学部教授会は拒否したが5月末滝川教授の休職を決定した。」
と記述されている。

松本によれば、次の章で扱われる「天皇機関説」と並んで、「学説問題を起点としながら」「大学と文部当局との争い」となり、大学における学問の自由や、大学の自治が後退を余儀なくされた事件ということになる。

大きく言えば、大正時代に確立したかのように見える自由主義(官立大学では総長公選制が法的に認められる)が、この時代に「ファッショ勢力」の攻勢によって、圧殺された、とも言える。

滝川の著書で問題になったのは『刑法読本』という、BK(JOBK」たもの。
その中にある、内乱罪と姦通罪の説明に関する部分であった。

内乱罪に関して滝川は、
「行為者の動機は必ずしも擯斥すべきものではない。かえって彼らは人類のより幸福な社会の建設を目標として現実の社会の破壊を企てるものであって、結果からいうても、もし、内乱が成功すれば、行為者が支配者の地位にとって替るわけである」
と述べている。
これが、鳩山文相によって「実に怪しからん」とされたのである。

また、姦通罪についても、
「現行刑法は妻の姦通を犯罪とするにすぎない。妻は経済的に夫に従属しているので所有物と同視されたのである。(中略)立法論としては全然罰しないのが最も望ましいのが、そのためにどうしても男女平等の経済的地盤が前提となる」
という一節について、「滝川は姦通を奨励している」と鳩山文相に発言させた。

その背後にあったのは、簑田胸喜などの右翼理論家と結びついた文部官僚がいた。
松本によれば、「京大事件における鳩山のやり方をみると、むしろ、それは彼の発意ではなく、側近の文部官僚に操縦されていたふしがある」とする。
しかし、文相として、衆院予算総会で、
「大学におきまして国体観念を破壊するがごとき教授をしておりまするならば、何らの容赦もなく法の適用によってこれを阻止いたします」
と答弁したのは、鳩山である。
それが、たとえ官僚の作った答弁資料を読んだだけとしても、立場上の責任は取らねばならないだろう。

京大教授団の、これに対する抗議活動については、本書を読んでいただくとして、
「京大七教授(滝川と滝川擁護のために免職となった教授たち)の免官によって、簑田胸喜、三井甲之など『原理日本』系の右翼理論家は意気軒昂、滝川教授を葬った勢いを駆って、美濃部達吉、田中耕太郎、横田喜三郎、宮沢俊義、末弘厳太郎の諸教授への攻撃に移った」
のである。

この項、つづく。