烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

脳の活性化

2006-06-23 23:41:09 | 随想
 最近は「脳を活性化する」ことがブームらしい。知能テストやら計算問題とかを解いて脳を活性化することが体に、いや脳にいいことらしい。MRI技術の進歩などで、特定の作業を行ったときに脳のどの部位の代謝が活発になるのかがより詳細に分かってきた、すなわちより視覚的に理解することが可能になったことで脳に対する理解がよりポピュラーになったことがブームの一因ではないかと思う。小学生の頃にやったような問題を行うことの意義についてどの程度検証されているのか寡聞にして知らないが、physicalな譬えでいえば、普段使っていない筋肉を使うとその筋肉の衰えを予防できますよという程度のものだろう。しかし話がmentalなレベルになると、とても意味のあることだと受け取られるようだ。
 こつこつと筋力トレーニングをすることは、目にも留まらない剛速球を鮮やかに打ち返す技術の基礎となるのは間違いないが、そうしたトレーニングだけではいつまでたっても好打者は生まれないことも明らかである。知能テストレベルの問題を何問も繰り返し解いたところで、そうした問題に対する解答の習熟度は上がるだろうが、それで人生において遭遇する問題に対する解決ができるようになるわけではないことと同様である。筋力トレーニング用のバーベルを使っていれば、いずれスポーツ万能となるように宣伝しているとすると、それは詐欺というものだろう。同様にクイズのような問題で、脳が「活性化」して「若返る」とか、ひいては驚くほど仕事のスキルが上がるように謳っているとすればほとんど詐欺に近いだろう。仮にそうした望ましい結果が得られなかった場合でも、その個人の「脳の不具合」のせいにされてしまうであろうからより悪質である。
 神経細胞が活動すれば脳の局所の代謝が上がることは、筋肉を動かせばそこの代謝が上がることと同じく当然のことである。それを「活性化」と称してあたかもそれで「頭がよくなる」ように表現するのは、不当表示に値する。そうした表示が欺瞞であろうことを推察するような頭になるようにすることがより意味のある頭の使い方であろう。