Takekida's log

千里の道も一歩から

無脊椎動物にみる生物デザイン戦略

2017-06-18 00:10:59 | Books
ウニはすごい バッタもすごい - デザインの生物学 (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社


 動物にスポットライトを当てた本は数あれど以外にも人間とは遠い無脊椎動物に視点を当てた本というのは少ないようにも思います。この本はそんな無脊椎動物に脚光を当てた本です。130万あるという動物の種の内脊椎動物は6万種と5%程度ですので自分たちの方が地球上ではマイナーな存在なわけです。体のつくりから分類する34の門のうちこの本で紹介されるのは5つの門:刺胞動物、節足動物、軟体動物、棘皮動物、脊索動物の紹介になります。

 刺胞動物はサンゴが紹介されています。言わずと知れた動物、生物の共生の代表例です。サンゴ礁の海では透明度が高く植物プランクトンが少ないことが想像されるのですが生物が集まる場所になっており、褐中藻をサンゴという石のマンションの中にすませて排せつ物の処理と栄養の受け取りという共生を成り立たせてつつサンゴから剥がれ落ちる粘液がほかの動物の栄養になっているという循環があるわけです。ただこの共生自体も微妙なバランスから成り立っており、海水温が1-2度高くなるだけで共生関係は破綻してしまうとのことで温暖化を測る指標にもなりそうです。

 地球上でも7割を占める動物が昆虫でそれらが甲殻類と共に存在するのが節足動物部門。人間とは異なり外骨格を持つのが特徴でクチクラという高分子材料、有機物をうまく使い強度と軽量化を両立できたことが成功のカギです。このクチクラをバネとして利用してハチの羽ばたきのような高速動作やバッタの跳躍のような人間から考えると脅威とも思える動作を可能にしています。また見逃せないのがここでも植物との共生。植物の中で7割を占める被子植物が昆虫との共生関係で進化をして種を増やしていったという事実がさりげなく示されています。
 
 軟体動物は節足動物に次ぐ種を持つ動物。昆虫と似ていますが貝が代表的に記されるようにかたい殻を以て身を守る生物です。貝は対数らせんの構造を持っていますがここにも秘密が隠されており中身の拡大に大きな構造を変化させずに対処するための方法として巻き始めからどの状態で切り取っても変わらないプロポーションを保てる構造を取り入れたということでアンモナイトといったわかりやすい巻貝の例だけでなくアサリなどの2枚貝の仲間も1枚づつ対数らせん構造をしているわけです。
その貝を閉じる力が「キャッチ筋」という聞きなれない機構で成り立っています。この機構は機械で言うとラチェットのようなイメージで留め金をかける機構を持っているもの。軟体生物にはそんな貝を捨ててしまったウミウシ、イカ、タコとかの生物もいたりして戦略としてはおもしろい所だと思います。

 棘皮動物門はヒトデやウニといった さかんに動く動物と、まったく動かない動物との間で、ちょっとだけ動く生活をしています。ちょっとだけ動ければ、どちらの動物も手に入れることができなかった餌を独占できる。いわば『隙間産業』で身を立てているとも言えそうです。 棘皮動物には脳がない。だから脳死はない。心臓や血管系がなく、肺がなく、眼ももたない。・・・棘皮動物には中心になる器官が存在しないのが特徴。一方で体のリーダーシップを脳とかで取っているのが我々で中央集権的ともいえます。対して動かない生物は、いったん場所を定めた後は、いわば環境のなすがまま。ウミユリのように、基盤に固着して流れが食物を運んできてくれるものでは、食物の粒子の含まれている流れが体に当たったら、当たったその部分の管足を活性化すればいいのであり、体の各部が局所的に判断するだけで生活が成り立っていく言わば地方分権という戦略を採用しているとのこと。棘皮動物門のヒトデが星形をしている理由が追究されています放射状というだけではなく5放射相称5回の回転対称、つまり中心軸のまわりに72度(360°÷5=72°)回転させるとまったく同じになる形で滑走路仮説とサッカーボール仮説が紹介されています。滑走路仮説は獲物に対して機能する手の数を最大限にするように進化したのではということで球に近い立体を平面で覆うとするとやりやすいのが5角形だったというのがサッカーボール仮説です。

この本で改めて気づかされたのは生物の多様性のすごさと生きるということに対しての戦略の立て方にも奥深いものがあることがわかります。
なお各章の末尾に生き物歌がついていてこれまた面白いです。
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