学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

夏目漱石『二百十日』

2011-07-23 20:09:55 | 読書感想
今日もとても涼しい一日。帰宅の途上、東の空に虹が見えました。久しぶりの虹。とても綺麗でした。明日、いいことがありますように。

昨日ブログで書いた『十六夜日記』、旅の動機は土地の紛争問題のためであったようです。原文ではなかなか分からなかった(泣)。ただ紛争問題であるならば、作者の文章に緊張感があっていいはずだし、ましてや京を離れて東へ向うのだから、相当の覚悟があったはず。でも、文章からはそうしたものがなかなか伝わりません。憂鬱だったら、あれだけ周りの土地の印象に気持ちが向かないと思うのだけれど…。当時の作者がどんな気持ちだったのか、もう一度『十六夜日記』を読む必要がありそうです。

さて、今日は夏目漱石の『二百十日』(にひゃくとうか)です。「二百十日」とは、立春から数えて210日目、9月1日頃を指します。この時期は台風の襲来がありますから、農家にとっては厄年にあたる。漱石は、災難の意味でタイトルに使ったのかもしれません。

この小説はとにかく変わっていて、文章のほとんどが会話文から成り立ちます。話は圭さん、碌さんが、九州の阿蘇へ旅し、山を登るというもの。会話文が中心なので、2人の軽快なやり取りがとても面白いです。落語を聴いているよう。漱石は落語が好きだったといいますから、それがこの小説の流れになっているのかもしれませんね。話のキーは豆腐屋対華族、金持ち。いわゆる上流階級へのアイロニーです。小説のいたるところに、この会話が出てくるから、漱石が相当主張したかったことに違いありません。

ごく個人的なこと。私、とある場所へ旅行をしたときに持っていった小説が、この『二百十日』でした。そのせいか、『二百十日』を読んでいると、旅行先の記憶がよみがえるのです。マドレーヌを食べて、記憶が呼び覚まされる『失われた時を求めて』に似ているかもしれない。似ていないですね(笑)

これもまた、気楽に読める本です。