学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

『更級日記』

2011-07-21 22:28:14 | 読書感想
平安時代、菅原孝標(たかすえ)の娘が書いた日記。日記の始まりは13歳位からで、作者の晩年と思われる50歳代前半までの出来事が書かれています。「日記」と言っても、日々の出来事を綴ったわけではなくて、印象に残ったことを後年になってから書いたというもの。ですから、13歳から日記を続けていたわけではなし。むしろ自叙伝に近いものなのかもしれません。

物語は、一家が上総国(千葉県中部)から京へ目指すところから始まります。陸地版の『土佐日記』といったところでしょうか。当時13歳の作者は、本がとても好きだけれど、周りには読むべきものがなくて残念がっています。そこで薬師仏に京へ行ったらありったけの本を読ませて欲しいとお願いするような子供でした。京へ向う道中に見た景色の描写は『土佐日記』にはなかなか見られなかったもの。山が屏風を立てているように見えるとか、富士山が色の濃い紺青の衣に白いあこめを着たように見える、といった言葉で彩られます。(夜になると富士山の頂から火が燃えるのが見えるとも!)京についてからは、薬師仏への願いがかなったか、夢にまで見た『源氏物語』を読むことが出来て、昼は日が暮れるまで、夜は目がさめているときまで、ひたすら読んだようです。

ただ…序盤の明るさに比べて、次第に日記は悲しい方向へ。火事にあったり(猫の不思議な話があります)、姉が亡くなったり、最後には夫も他界します。どうも作者の晩年は寂しいものであったよう。現在でもありそうな話ですが、晩年の夢の中に仏様で出てきて、その仏様は作者以外の人間には見えない。作者は非常に恐ろしくなったけれども、仏様は「今日は帰るとして、また今度来よう」と言って消えてしまう。ようするにお迎えに来たけれども、今日のところは帰りますということなのでしょう。ちょっと怖くはありますが…。

『更級日記』は平安時代を生きた一女性の姿が書かれています。作者の生涯は置くとして、景色の描写がことさら綺麗な日本語で書かれている点が、私の好きなところです。『更級日記』も『土佐日記』同様に手軽に読める本。平安時代に旅しているような気分にさせてくれる作品です。