学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

『伊勢物語』

2011-07-26 21:53:39 | 読書感想
日中は太陽が照りつける暑い一日でしたが、夕立があって、今は涼しい北風が吹いています。ここ数日は日中が暑くとも、夜になると大分涼しくなるので、それほど寝苦さは感じず。近頃は暑さよりも地震のほうで目が覚めてしまいます。少しの揺れでも反射的に起きてしまうのですよね…。

今日は『伊勢物語』をご紹介しましょう。『伊勢物語』の成立は平安時代、あの『源氏物語』よりも前に書かれていることがわかっています。歌人在原業平(ありわらのなりひら)の歌物語で、125段の短編から構成されています。「昔、男ありけり」と文章の出だしが特徴的です。

この『伊勢物語』、文章自体は短いのですが、読むときに少しやっかいなところがあります。それは125段の短編すべてに歌が詠まれており、この意味がわからないと内容がさっぱりわからないということ。現代語訳のついた『伊勢物語』で読み進めていくのがベストな読み方ではないかと思います。

本書を読んでしだいに分かってくることは、在原業平のプレイボーイ(この言葉も古いような気がするけれど!)っぷり。とにかく多くの女性と関係しています。京だけでなく、東の武蔵国や陸奥まで出かけても、それはおさまることなし。物語の第47段では、女性からあなたのプレイボーイっぷりはよく聞いていて知っているとまで言われています(笑)何時の時代もそういう話は世間に広まりやすいらしい(笑)

『伊勢物語』で私の好きな場面は、在原業平らが三河国を訪れた時、たくさんの川が流れていて、八つの橋が掛けられている。そうして、橋のそばには、いくつものかきつばたが咲いているというところです。とても素敵な情景!

でも、実は後年、この場面を想像して屏風や工芸に取り入れた人がいるんです。それは江戸時代の絵師、尾形光琳です。現在国宝になっている《八橋蒔絵螺鈿硯箱》がそうなんですね。かきつばたの花が螺鈿になっているのがまたにくいところで(笑)。おそらく《燕子花図屏風》も『伊勢物語』からの着想でしょう。尾形光琳も『伊勢物語』が好きだったようです。

在原業平のプレイボーイっぷりだけではない『伊勢物語』の魅力ですね。