不定形な文字が空を這う路地裏

Want it.











暗くじめついた廊下に遊び半分に並べられた死体、順番に四肢を欠損させて、水槽の魚の餌にする、悲鳴はひとつも聞こえない、もうその段階はすべて終了している、罪名は伏されたまま、誰もそのことを知らない、執行している連中にしたって、詳しいことはなにも聞いてない、ただ命を受けて、淡々と進行しているに過ぎない、その血の意味を知らない、果てしなく流された血の意味も、年齢がばらばらな理由だって、なにも…俺もそのひとりだった、俺もそのひとりだった、剣を構え、銃を構え、刺し殺し、撃ち殺した、時にはハンマーで頭を砕いたりした、方法に指定はなかった、手元にあるものを使えばそれでよかった、希望すれば大抵のものは手に入った、それはすべてここに至るまでの場所に用意されていた、ずっしりと重く、手入れされていて、美しく、効率よく、残酷だった、ひとつひとつの悲鳴と命が、その真新しい道具に飲み込まれていった、血のにおい、よくわからない体液のにおい、吐瀉物のにおい、小便のにおい、死んだ肉のにおい、様々なにおいが雲のようにひとかたまりになって漂っていた、それはおそらくはランダムに割り振られたもので、俺はただ死ぬ側でなくてよかったとそればかりを考えていた、自分を動かしているものがなんなのかよくわからなかった、忠誠でも、恐怖でも、衝動でも怒りでもなかった、まるで、そうすることしか知らずに生まれてきたもののように、ただひたすらに役目を果たし続けた、不愉快な気持ちはなくはなかったが、動きを止める理由を不愉快のせいにするには少々歳を取り過ぎていた、簡単に言えば、自分が死ぬのでないのならなんだってよかった、そこにいた誰のことも俺は知らなかったし、難しく考えることなんかなかった、落ち着いて仕事を進めないと逆に殺される可能性だってあった、俺が手掛けた何人かはそういう思いを秘めた目のままで光を失っていった、蛍光灯は眩いほど煌々と輝いていたのに、時々ちかちかと目の中で何かが点滅した、俺はそれを断絶だと考えた、俺の中でなにかしらの断絶が行われているのだ、殺しに抵抗などなかった、まして、どこの誰かも知らない相手を殺すことなど…都合がいい、そう言ってしまってもよかった、どうしてそんなことになったのか、誰が自分たちを思いのままに動かしているのか、そういったことはまったくわからなかったけれど、手持ちのコマで役目を果たさなければならないことだけはわかっていた、もしかしたらこのあと殺されてしまうのかもしれないけれど、生きるために殺してしまった以上、そのことを責めても仕方のないことだった、俺は新しい廊下に進んだ、とにかく先へ進むしかない、まだ中学へ上がったばかりくらいの、泣き叫ぶ娘の眉間にナイフを突き刺しながら、俺は運命というものについて考えていた、運命である以上どんなことでも起こり得る、想像出来たか?自分の知り得たものだけが、考えたものだけが運命だったか?答えはノーだ、それはいかにもこちらに関りがあるかのような顔をしながら近づいてきて、突拍子もない世界を差し出してくる、さもそれが必要なものであるというような調子で…泣きながら罵声を浴びせる太った中年の男の頭を叩き砕きながら、いつかこんな夢を見たことがあるような気がした、確かにそんな夢を見たことがあった、そしてそれは一度だけではなかった、あれは正夢だったのか、それともあの夢がこの現実を呼び寄せたのか、支給された服はとても良く出来ていて、返り血はあまり残らなかった、薄く頑丈なゴムのような素材で出来ているみたいだった、欲望、脳裏にはそんな言葉が浮かんだ、それが誰のどんなものかもわからなかった、でもそれは確かに欲望で間違いなかった、俺は銃に持ち替えた、考え事をしながら動くにはそいつのほうが都合がよかった、標的はまだ山ほど残っていた、手当たり次第に引き金を引いた、つまんねえな、そんな言葉が不意に口を突いて出た、一瞬、ほんの一瞬だが、自分のこめかみに銃口を当てたくなった、死にぞこないが蠢いていた、俺は武器を持つことを止めて、そいつらの頭を片っ端から踏みつぶしていった、ブーツは血の海でも滑ることがなかった、俺はその場に胡坐をかき、この後はなにがしたい?とでかい声で誰かに話しかけた、返答を期待したわけじゃなかった、廊下はまだ果てしなく続いていて、死ぬのを待つだけの連中がもがきながらこちらを見ているだけだった。

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