小林稔第八詩集『遠い岬』以心社2011年10月20日刊行
黙祷、海へ。
海原に突き出している桟橋から、還らない月日の闇に手首を入れて
記憶のかけらを絡めとる一個の起立した白い彫像のために。
逝くひとは忘却の淵のひろがりに沈む
此方の事象から放たれ船出していく
死者のかそけき頭髪のために。
寄せる波と微風にひたされて、午睡のとぎれかけた空隙に
赤いベルトを締めつけうしろ向きに立つ弟のために。
岩盤に敷物をひろげたように小さな花々が咲く
海に命を亡くした猟師たちの追悼碑の礎のために。
青春を奪還するため、アンダルシアの岸辺からソレントの断崖
オールドデリーの要塞からパドカオンの王宮と庭の仏塔へ。
捨て置かれた私たちの足跡のために。
きみの震える軀が私の横腹にしがみつく。眼下には薄水色の海上に
浮かぶ群島。ごらん、岩陰を裸で歩いているのは私だ。
降下するにつれ海は群青に染まり、未生のきみと滅後の私の
その約束された邂逅のために。
抽斗に眠る少年の銃。忘れられた銃口の夜にテロリストの声を聞く。
海の破片はてのひらから舞い散れ、悔恨と永訣するために。
水が流れている。脊髄を伝って落ちる。踝からあふれ河に注いで海
と交わるところ、たましひの鍵盤をうつ、喪われたピアニストの燃
える十指のために。
〈峡湾をガラガラ蛇のように這いながら疾走する列車に横殴る瀑布。〉
なんだ、こんなことだったのか。
帰路は異邦、行先は切り岸とこころえよ。
しずくを滴(したた)らし昇る太陽と別れいく海、その友愛のために。
黙祷、海へ。
海原に突き出している桟橋から、還らない月日の闇に手首を入れて
記憶のかけらを絡めとる一個の起立した白い彫像のために。
逝くひとは忘却の淵のひろがりに沈む
此方の事象から放たれ船出していく
死者のかそけき頭髪のために。
寄せる波と微風にひたされて、午睡のとぎれかけた空隙に
赤いベルトを締めつけうしろ向きに立つ弟のために。
岩盤に敷物をひろげたように小さな花々が咲く
海に命を亡くした猟師たちの追悼碑の礎のために。
青春を奪還するため、アンダルシアの岸辺からソレントの断崖
オールドデリーの要塞からパドカオンの王宮と庭の仏塔へ。
捨て置かれた私たちの足跡のために。
きみの震える軀が私の横腹にしがみつく。眼下には薄水色の海上に
浮かぶ群島。ごらん、岩陰を裸で歩いているのは私だ。
降下するにつれ海は群青に染まり、未生のきみと滅後の私の
その約束された邂逅のために。
抽斗に眠る少年の銃。忘れられた銃口の夜にテロリストの声を聞く。
海の破片はてのひらから舞い散れ、悔恨と永訣するために。
水が流れている。脊髄を伝って落ちる。踝からあふれ河に注いで海
と交わるところ、たましひの鍵盤をうつ、喪われたピアニストの燃
える十指のために。
〈峡湾をガラガラ蛇のように這いながら疾走する列車に横殴る瀑布。〉
なんだ、こんなことだったのか。
帰路は異邦、行先は切り岸とこころえよ。
しずくを滴(したた)らし昇る太陽と別れいく海、その友愛のために。
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