小林稔第八詩集『遠い岬』以心社2011年刊より
アナムネーシス(想起)
ある日、石畳の路地に正面から風がやってきて
昔の情熱をさらっていった。
時間は記憶から血をぬいて、少しばかりの骨を路上にさらした。
いったい私は何をしようとしていたのか
こんなに長い歳月をかけて。
神経のように迷走する人生の道半ばで、繰りかえし聴いていた楽曲が
――コノ哀しみハ何処カラキテ、何処ヲタダヨイ、何処ニムカウノカ
という問いを湧き立たせ、私の胸ぐらをつかんで道に叩きつけた。
彼方から波がしきりに寄せる
やりそこねたことを霧散させるように。
だが消えてしまいそうな現在(いま)の思いを
かつての光と絶望をひきつれ
残された独居で、ひとり書き留める。
私にとって、生きるとはイデアの階梯を昇りつめることだ。
少年の美を捉えた瞬時の想起(アナムネーシス)、つまり肩甲骨のむずがゆさ。
時間をふりかえることは神々への道を辿ることだ。
とにかく私は詩人の道を歩んできた。
――背後で侮蔑と嘲りの声。
荷物と慣習をひとつひとつ棄てこの断崖に立った。
空を仰ぎ息を吐くと、波が岩塊に砕け飛沫をくり返す。
(涙を止めることができない……)
絶望に打ちひしがれているのではない。
私のこころは歓喜で震えているのだ。
アナムネーシス(想起)
ある日、石畳の路地に正面から風がやってきて
昔の情熱をさらっていった。
時間は記憶から血をぬいて、少しばかりの骨を路上にさらした。
いったい私は何をしようとしていたのか
こんなに長い歳月をかけて。
神経のように迷走する人生の道半ばで、繰りかえし聴いていた楽曲が
――コノ哀しみハ何処カラキテ、何処ヲタダヨイ、何処ニムカウノカ
という問いを湧き立たせ、私の胸ぐらをつかんで道に叩きつけた。
彼方から波がしきりに寄せる
やりそこねたことを霧散させるように。
だが消えてしまいそうな現在(いま)の思いを
かつての光と絶望をひきつれ
残された独居で、ひとり書き留める。
私にとって、生きるとはイデアの階梯を昇りつめることだ。
少年の美を捉えた瞬時の想起(アナムネーシス)、つまり肩甲骨のむずがゆさ。
時間をふりかえることは神々への道を辿ることだ。
とにかく私は詩人の道を歩んできた。
――背後で侮蔑と嘲りの声。
荷物と慣習をひとつひとつ棄てこの断崖に立った。
空を仰ぎ息を吐くと、波が岩塊に砕け飛沫をくり返す。
(涙を止めることができない……)
絶望に打ちひしがれているのではない。
私のこころは歓喜で震えているのだ。
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