萩原朔太郎を読む(5)小林稔
地面の底の病気の顔 萩原朔太郎
地面の底に顔があらはれ、
さみしい病人の顔があらはれ。
地面の底のくらやみに、
うらうら草の茎が萌えそめ、
鼠の巣が萌えそめ、
巣にこんがらがってゐる、
かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
冬至のころの、
さびしい病気の地面から、
ほそい青竹の根が生えそめ、
生えそめ、
それがじつにあはれふかくみえ、
けぶれるごとくに視え、
じつに、じつに、あはれふかく視え。
地面の底のくらやみに、
さみしい病人の顔があらわれ。
「地面の底の病気の顔」
詩集「月の吠える」の詩篇から、一気に疾患(病気)が詩作の動機になっていきます。実存の根底にまといつく精神疾患は朔太郎には振り払えないものであるが、むしろすべての人間に宿る不安や怖れの感情を浮き上がらせる方法論として積極的に向かい合うことで、「無の深淵」に降りて行こうとしたようです。
ここは
(詩集「月に吠える」の詩篇から、)
だと思いました。