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ヒーメロス通信


詩のプライベートレーベル「以心社」・詩人小林稔の部屋にようこそ。

謹賀新年ーあけましておめでとうございます。

2015年01月01日 | お知らせ

 いよいよ新しい年の幕開けです。昨夜からジャックデリダの『プシュケー』(岩波書店)を読んでいます。言葉の広がり、コノテーションの奥深い意味を繊細に辿る筆致に感動しています。

 昨年は、『来るべき詩学のために(一)』を刊行しました。今年は『来るべき詩学のために(二)』を前半に予定しています。(五)までは原稿はできているのですが、推敲と編集で時間がかかっています。校正のミスがあるので、慎重にしなければと自ら戒めています。

 もう一人の注目している作家は柄谷行人氏です。「世界共和国」の構想は魅力的です。昨年の「現代思想」1月増刊号の「柄谷行人の思想」と「思想」12月号「10年後のジャック・デリダ」を読み込んでいます。

 

 


詩誌「ヒーメロス」28号12月25日発行なる!

2014年12月31日 | お知らせ

ヒーメロス28号発行なる!

詩 痕跡を追う―若き闘士へ  小林 稔

  金の鍼を研ぐ日は     原 葵

  時の始まりの前に     天野 英

  百合Ⅰ、Ⅱ        高橋紀子

評論 「自己への配慮」と詩人像(二十)

    47 来るべき詩への視座

       アルチュール・ランボーにおける詩人像(一)  小林 稔

 


若き闘士、羽生結弦よ。

2014年11月12日 | お知らせ

若き闘士、羽生結弦よ。

 

 十四歳の羽生結弦が、テレビの画面を通して私の前に現れたときのことを鮮明に覚えている。全エネルギーを出し切ってスケートを終える彼の姿に、ほかのアスリートにはない魅力で私のこころはぐんぐん引きつけられていった。それ以来、毎年、彼の雄姿を目にするたびに、女の子みたいな外見を裏切る男らしさに感嘆の声を上げるしかない。このひたむきな情熱は彼の身体のどこに潜んでいるのだろう。

 11月8日の惨事、試合直前練習に起きた中国選手エンカンとの激突で、二人はしばらく倒れた身体を立ち上げられずにいた。うつろな視線を氷上に落としていた羽生結弦の額と首は、真っ赤な血で染められていた。

 

 氷上はリングに豹変し、ノックアウトされ血を流す敗者のようではないか。

 

 誰もが試合の棄権を思い描いていたとき、一度抱えられ退場した羽生は、頭部にテープを巻き、出血した顎をテーピングして六分間練習に姿を見せたのであった。「危ない。いったい彼は誰と闘おうとしているのか、棄権すべきだ」と叫んだ解説者の松岡修造は、二十分後の彼の滑りを見て、羽生は自分と闘っているのだという事を知ることになる。結弦は冷静に出場の判断を計っていた。

 蒼白の顔面に少し虚無的な形相を見せて現れた羽生結弦の横顔に、私は詩人ランボーの幻影を一瞬目撃した。

 

 羽生は己れ自身の弱さと闘っている。彼の宿命と闘っているのだ。彼の身に降りかかった東日本大震災の惨事と闘ったのだ。死者と生者を鼓舞するため闘ったのだ。宿命から自由を勝ち取るために。私にとってひとまず、アスリートはメタファーに過ぎない。詩人とは「存在」の深淵を覗き込み、思わず言葉を発する生きものであるのだが、己の「現存」のすべてを一瞬に賭ける羽生結弦というアスリートの雄姿が、同様に「現存」のすべてを生きる詩人である私の内部に棲息する「少年」と共振し合い、おお、同志よ、とそいつが叫びをあげている。

 

 詩の世界にスポーツのような判断の公平さはない。したがって、他者である読み手の心をいかに動揺させるかにすべてはかかっている。無名性を武器とする詩人の挌闘は休みない実践を強いられる。人は羽生結弦の勇気にヒロイズムを讃えるだろう。偶像を見るだろう。しかし、羽生よ、そのようにしてヒーローに仕立てることによって、君に泥(安易な賞賛)を投げつける群衆から遁れよ。詩人に賞を与え、凡庸な詩人を育ててしまうように、君から闘争心を奪ってしまうから。だが、私たち人間への慈愛をもって、私たち人間に内在する情熱と勇気を掘り起こすため、跳び続けよ。君の繊細にして粗野な舞いに、私は私の身体にうごめく「少年」の躍動の跡を追い、言葉を発信する詩人であることを止めない。おお、同志よ。君は跳ぶことによって、私はエクリチュールを織り成すことで、ともに自己変革(自己との闘争)をし続けようではないか。「苦悩はたいへんなものですが、しかも強くあらねばなりません」というランボーの声を聴きながら。

 

copyright 2014 以心社

無断転載禁じます。


詩誌「ヒーメロス」27号刊行なる!

2014年09月05日 | お知らせ

詩誌「ヒーメロス」27号刊行なる!

Content

 

 詩 タペストリー 6 小林稔

  トビーの壜 河江伊久

  寝台の下の暗闇 原 葵

  長いほうのたましいは 原 葵

      小雨の降る庭園は 天野 英

 

評論

  長期連載エセー『「自己への配慮」と詩人像』(十九) 小林稔

    ボードレールにおける詩人像(二)

      ボードレールの強度

      扇動者の形而上学

      パサージュ、遊民、パリ大改造

      アレゴリーの詩学

      ボードレールのモデルニテ

      ベンヤミンのモデルニテ批判

      ボードレールとワーグナー

      流動するアウラの活用


「ヒーメロス」26号編集後記

2014年06月08日 | お知らせ

編集後記

★「ヒーメロス26号は遅れに遅れてやっと発刊になった。今回、天野英氏が参加することになった。昨年、評論集『たわむ鏡』で周囲を驚かせた詩人である。

★詩とは何かという問題を廻って様々な憶測が各人にあるのだろうが、感動という一言がなければ何も始まらない気がする。

★書き手との出会いは、刺激という意味で重要なことである。内面を探求するために孤独であることは必要であるが、書かれたものは必ず読まれることを何処かで望んでいる。この逆方向のベクトルに詩を読み解く鍵がある。「個別」から「普遍」のプロセスには詩人それぞれの戦略がある。

★私の長期連載エセー「自己への配慮と詩人像」は後半をスタートすることになった。前半もそうであるが、書き終えた後かなりの修正を迫られそうであるが、とにかく書き進められるうちは続けるしかない。日本の新体詩以降の詩人たちも登場させる予定である。

★「ヒーメロス」のレギュラーメンバーである原葵氏の掌編集『裏地とボタン商会の猫』(以心社)がまもなく発刊される。奇想天外な話から人生を深く考えさせる話まで網羅した素晴らしい作品集になっている。

★私の初めての評論集『来るべき詩学のために(一)・井筒俊彦研究「意識と本質」を読む』は入稿に向けて推敲を重ねている。今年度中には発刊を予定しているが、評論集の構成で二転三転し、完成に近づけている。