山の頂から

やさしい風

マフラー

2008-01-23 22:00:59 | Weblog
 美恵の父親が2年前に癌入院をした。
80歳になる父の一大事と両親を姉妹で必死に支えた。
退院の目鼻がついた頃のことだった。
美恵の友人が日帰り温泉先で夫が女連れでいるところに出くわした。
いや、正確には目撃したのだ。
すぐ側で会話の一端も聴いたという。
二人は親しい関係であること、女は日本人ではなかったことを教えてくれた。
美恵は聞いて情けなく思った。
嫉妬の感情と云うよりも冷めて見下したような感情だった。
そして脅し半分、成り行きでは本気に離婚届の用紙を突き出してやった。
夫は少し青ざめた顔をして黙っていた。
そして半年ほど碌に口をきかなかった。
用紙はというと事務用のゴミ箱に捨てられていたが、美恵は拾っておいた。

 君絵はグズグズと10日間ほど患ってどうにか元気を取り戻した。
その間、美恵は又、あの離婚届用紙にすっかり書き入れて、
雅夫の目につく処に万年筆と一緒に四つ折りにして置いてやった。
勿論、離婚などする気は全くなかったが嫌みの仕返しだった。
「母さんは、もうすぐ会えなくなっちゃうけど元気でね」と
これまた雅夫に聞こえるように飼い犬のモモに話しかけた。
だが何事もなかったように日が過ぎて行った。

 掃除をしながらゴミ箱に件のマフラーが丸めて捨てられているのを発見。
美恵は次にどう懲らしめようと内心浮き浮きするのだった。
所詮、亭主なんて女房の掌で握りつぶせるものである。
美恵は幼馴染でもあるメル友の勇次に「元気?」と送信した。

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