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大水害時代にLAV-25とBvS.10が必要だ【6】レッドサラマンダーの憂鬱とハイドラトレック

2020-10-09 20:17:34 | 防災・災害派遣
■消防庁水陸両用車の全国配備
 レッドサラマンダー、否定的な話題が多いものの必ずしも的を射ているものばかりではなく、当事者としては憂鬱でしょう。全五回の予定でしたが追記的に議論します。

 M-1A2戦車が一両だけ陸上自衛隊の本州のとある普通科連隊に全国を代表する虎の子装備として配備されてしまった、レッドサラマンダー位置づけはこれに近いでしょう。M-1A2では普通科連隊に配備されている重レッカー車では回収できませんし、強力ですが少しはしるだけで重整備が必要ですが、本部管理中隊では整備しきれない、というようなもの。

 レッドサラマンダー。総務省が保有する全地形対応車両の愛称です。このレッドサラマンダー、一般に理解されている点では大型であり身動きが難しいため、あまり活躍できていない、という印象的なものがあるようです。一概に間違いとも言い切れないのですが、総務省から岡崎市消防局に貸与されているという特殊性を加味せねば実態が分らず装備として憂鬱でしょう。

 警視庁特別車両機動隊のようにレッドサラマンダーも総務省消防庁特別車両支援隊として、せめて10両程度を集中配備し、そのうえで車両整備小隊を配置していたならば、もう少し評価は変わったようにも思います。特にレッドサラマンダーは輸送車での移動が基本、しかし50km/hで路上を走れるのですから自走範囲内で活動できる配備密度が必要でした。

 岡崎市消防局は職員数約370名、消防署3カ所と分署及び出張所を7カ所配置していまして、消防車15台とはしご車など特殊消防車8台、救急車14台を保有しています、そして緊急消防援助隊に参加しており、ここに総務省からレッドサラマンダーを貸与されている、要するに消防車のような岡崎市だけの装備品ではなく総務省が運用する車両なのですね。

 ブロンコ全地形車両、この日本仕様がレッドサラマンダーなのですが、日本国内での運用にあわせて国内法に依拠した改修が行われています、そして、総務省消防庁の説明では60cmまでの段差と1.5mまでの水深の被災地域を踏破する、としています。全地形車両ですが日本の国内法では水陸両用車として運用することに問題があることを意味しています。

 しかし、緊急消防援助隊派遣を総務省が決定した際には現地へ進出するため、2017年九州北部豪雨災害、2018年西日本豪雨災害、現地へ緊急消防援助隊の一員として派遣されています。問題は現地での運用で、レッドサラマンダーと支援車Ⅰ型及び輸送車が配備されているだけで、この支援車は整備車両ではなく生活支援車、キャンピングカーだけです。

 レッドサラマンダーの運用支援、自衛隊でいう野整備用の装備が総務省から派遣されておらず、そして一両だけですので浸水地域での走行不能からの離脱というものを考えていないのですね、もちろん消防には装軌車回収車もありません、一両しか無く整備車両も配備されず回収車さえない、レッドサラマンダーの運用を大きく阻害しているのではないか。

 ハイドラトレック。しかし全地形車両全般が消防から三行半を突きつけられているわけではなく、中型水陸両用車としてアメリカのハイドラトレック社製全地形車両が全国に薄く広く配備が開始されています、これは2019年の千葉県北部豪雨に際して、この時点ではまだ全国に2両のみ、千葉県山武市の孤立幼稚園救助に派遣され、もう実績があるのですね。

 千葉県北部豪雨では64名の孤立者があり、ちょうどこの全国に2両のみが配備される車両の一両が山武郡市広域消防組合に配備されていたことで派遣要請があり、あまり大人数を輸送できるものではないのですが8往復で全員を救助しています。ハイドラトレックは装軌式車両ですがスクキュープロペラを搭載しており、文字通りこれは水陸両用車でもある。

 徳島県と千葉県に配備されているのみであったハイドラトレック中型水陸両用車ですが、東三河新聞2020年3月29日に豊橋中消防署への配備、河北新報2020年5月30日付消防では6月に宮城県大崎郡鳴子消防署へハイドラトレック配備が報じられており、更に小型水陸両用車としてスパキャットの導入も、ゆっくりとしてですが開始されています現状が。

 自衛隊では少数配備されている全地形車両は活躍しています、輪島分屯基地や佐渡分屯基地、積雪地域のレーダーサイトに配備されています。この車両は冬季には必須の装備といわれていまして、監視小隊が標高の高いレーダーアンテナ付近まで交代する際、食料や生活必需品とともに危険な積雪下の山道を登攀するにはBV-206は必須といわれ、重要です。

 装軌式車両への整備性能力。自衛隊にBvS.10が必要だ、という視点に戻りますと、78式雪上車や10式雪上車を700両保有する自衛隊は全地形車両のような装軌式車両の整備能力がもともと高いのです。前述のM-1A2の視点でいえば、餅は餅屋、戦車部隊、特に機甲教導連隊に配備していれば特に問題はなかったでしょう。いわば適材適所の視点なのですね。

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2 コメント

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Unknown (ドナルド)
2020-10-10 00:06:32
全くです。レッドサラマンダー一台で何をするつもりだったのでしょうね。

当然、レッドサラマンダーが岡崎市にあって役に立っていないことと、Bvs10が役に立たないかどうかとは、全く関係のない話と思います。組織の整備能力、兵站能力に合わせた装備でないと、何の役にも立ちません。岡崎市が持つべきだったのは、むしろ、ヤマハの4輪ATVとか、昔で言うSPACATの6輪ATVなどでしょう。

というか、普通にトラックとゴムボート+徒歩の組み合わせは、災害救助ではかなり最強です。まさに消防局の兵站能力にあっているし、平時から尋常で無い訓練をしている消防署員の身体能力にぴったりですよね。。。(消防士は本当の意味で平時から命がけなので、その訓練は非常に厳しいとのこと。友人の警察機動隊員が、40kg装備をかついで10km走を1日何本かしていたそうなのですが、その彼をして「訓練の厳しさは、消防士にはかなわん。あいつらは異常だ(褒め言葉です)」と言っておりました。。。(笑)

組織の力、というか「兵站の力」で物事を解決することこそ、軍隊の真骨頂でしょう。
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Unknown (軍事オタク)
2020-10-12 18:24:03
レッドサラマンダー一台ではお話にならないですね。
全国配備すべきですね。

でも海上機動できない国内法体系ですか、船としての装備を追加しないと海上運航できないなんて欧米諸国にどんだけ日本は遅れてるんですかね?
菅政権は今までおかしいと思うところを直すんですよね。
投書すべき案件ですね!

そうそう、津波だけではなくて火山噴火時は噴煙が積もるから4WDでも大変ですからね。
自衛隊も水陸両用装甲車も含めて多数装備化すべき。

踏破性は装軌の方がいいのだが、まあそこはいい塩梅で装輪式と配分を。
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