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インドネシア津波スラウェシ島北西部地震,中部スラウェシ州パル市中心に犠牲者1400名以上

2018-10-04 20:15:46 | 防災・災害派遣
■スラウェシ島北西部地震
 インドネシアで先月末に発生した地震は、時間が経つにつれて被害の大きさが判明しています。

 スラウェシ島北西部地震、9月28日にインドネシアスラウェシ島において発生したマグニチュード7.5の地震は直後に発生した津波により中部スラウェシ州パル市などで大きな被害が発生しました。インドネシア政府は救助活動を急いでいますが、パル市への主要道路が全て通行不能となり、唯一の空港施設も被害を受けている事から被害全容も掴めません。

 我が国では安倍総理がインドネシアのジョコ大統領へ最大限の支援準備がある事を表明しており、インドネシア政府の要請を受け航空自衛隊小牧基地よりC-130H輸送機が緊急人道支援任務へ出発しました。海上自衛隊最大の護衛艦かが、が現在来月まで南シナ海からインド洋へ親善訪問と訓練航海を実施中で、場合によっては派遣もあり得るのでしょうか。

 被災地スラウェシ島とは何処か。旧称セレベス島、北部に旧軍が空挺強襲作戦を成功させたメナドがあり、西側にボルネオ島、南西にマカッサル海峡を経てジャワ島、スラバヤ沖海戦で有名なスラバヤ市が立地しています。インドネシアは2004年にはインド洋大津波の被害を受けたように、過去にも多くの地震津波災害と巨大火山災害に見舞われてきました。

 地震の規模と震源は何処か。マグニチュード7.5の地震は震源の深さが10kmと非常に浅く、アメリカ地質調査所による分析ではスンダプレートとモルッカ海プレートの境界で発生した南北走向左横ずれ断層型地震であるとのこと。マグニチュード7.5の本震から遡り三時間前にマグニチュード6.1の前駆地震が発生し、この地震でも若干の被害が発生しています。

 パル市津波被害は、スラウェシ島の地形がH字とK字を重ねたような複雑な地形、津波被害が歴史上多い三陸地方沿岸部と似た湾、これは同時に波浪を遮る良港の条件ともなるのですが、この深部にパル市が位置していた事で、非常に大きな被害が及ぶ事となりました。しかし、津波被害はパル市に集中し、インドネシア防災当局は死者数千人を示唆している。

 地滑り被害の発生も報じられています、パル市とドンガラ市にマムジュ市の山間部では地震に伴う土壌液状化が発生し、オーストラリアABC報道によればこの地滑りにより数百人が被害を受けている可能性があるとのこと。市内山間部で発生の地滑り被害はそのまま泥流被害として標高の低い地域へ大きな被害を及ぼしています。津波以外にも被害は大きい。

 被災地は地域孤立と物流途絶により住民は危険な状態にあります。報道では略奪が始っているとの事ですが、略奪とされる映像には商店入口に警察官が警戒し、秩序だった物資持ち出しが行われている映像もある為、非常事態宣言に基づく非常措置が採られている可能性もあります。一方AFP通信によれば治安出動の国軍に略奪への発砲命令が出ているとも。

 ムティアラ空港はパル市内にある唯一の空港で、標高は86mあったことから津波被害からは免れる事が出来ました。しかし、地震により空港管制塔が倒壊し管制官が殉職するとともに、2500m滑走路にも500m以上の亀裂が発生、翌日から滑走路一部を用いた暫定運行を再開、先月30日に滑走路が全面復旧しています。ターミナルビルは倒壊を免れたという。

 空港施設が復旧した為、被災地から脱出を試みる被災者で空港は大きな混乱に在る様子が報道されていますが、パル市は人口34万名で中部スラウェシ州人口280万の州都となっています。被災地救援へ、現在必要なのはヘリコプターです。インドネシア軍はAH-64E戦闘ヘリコプター8機を最近導入しましたが、多用途ヘリコプターの数は充分ではありません。

 インドネシア陸軍は30万名、と規模は大きいのですが空中機動力は限られており、その中で多用途ヘリコプターはロシア製Mi-17中型ヘリコプター10機程度とUH-1/ベル412多用途ヘリコプターが60機程度、この他空軍がフランス製中型ヘリコプターSA-330/EC-725等を29機、空軍はこの他C-130輸送機20機とスペイン製C-295輸送機を15機保有する。

 インドネシア政府は被災地支援へ各国支援受け入れを表明していますが、自衛隊がC-130を派遣したほか、シンガポール空軍はC-130輸送機2機に救援物資を搭載し派遣、イギリス海軍は極東地域へ派遣中のフリゲイトアーガイルを派遣すると共に本土からA-400M輸送機の派遣を決定、豪州、韓国、マレーシア、台湾が救助専門部隊派遣を決定しました。

 津波警報が地震発生直後に発令されたもののインドネシア当局は一時間後に解除したという報道があります。実際には津波は海底地滑りによるもので、地震発生数分後に発生し十数分でパル市内に到達したものと考えられており、しかも横ずれ断層型地震であると共に震源深さが10kmと浅かった為、海溝型地震に起因する津波発生の条件ではありません。

 海底地滑りを起因とする津波は海溝型津波が沿岸部に達すると速度を落とすのに対し、近距離であれば水深に関係なく速度を維持したまま沿岸部に達するようです。一方、被災地周辺には津波警戒装置も設置されていましたが、予算不足により機能不随のまま放置されたものが多く、正常機能していれば最大波到達数分前に警報を発令できたかもしれません。

 八重山地震、1771年の歴史地震ですが、今回のスラウェシ島北西部地震津波災害と重なるものがあります。1771年4月24日に発生した地震は石垣島東断層を最大推定マグニチュード8.7のエネルギーと共に揺れ動かし、琉球海溝に巨大な海底地すべりを誘発させたと考えられています。石垣島等周辺部の震度は現在換算で4程度と推測される程のものでした。

 明和大津波はこの海底地滑りにより発生し、八重山諸島において最大遡上高30m程度という破局的な巨大津波が発生し、死者行方不明者9000名以上、実に住民の三分の一が犠牲となりました。民間伝承では石垣島内陸部の津波縦断や津波岩の到達標高から遡上高85mというものもあり、近年の地質研究により否定されていますが、伝承に残る程の津波でした。

 石垣島東海岸津波石群という津波痕跡は現在、天然記念物指定を受けていますが、沖縄本島や九州では大きな被害がなく、千葉県にて潮位変化の記録が残るのみ。この為、明和大津波は海溝隆起沈降に起因する津波ではなく海底地滑りであると考えられています。津波被害は局地的、しかし、極めて遡上高の高い破局的な津波が発生する事を示しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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