北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アメリカの対中国A2/AD接近阻止領域拒否戦略マルチドメインドクトリンとミサイル防衛ミサイル増産

2024-06-10 20:10:27 | 先端軍事テクノロジー
■防衛フォーラム
 今回はアメリカのインド太平洋方面重視構想の一環として進められるマルチドメインドクトリンとその関連した話題についてです。

 アメリカ軍第1多領域任務部隊の中距離ミサイルがフィリピンへ初展開しました、これは恒久的な部隊配備ではなくサラクニブ米比合同演習の一環として実施されたもので、第1多領域任務部隊は4月11日にワシントン州ルイスマッコード統合基地より展開しました。特筆すべきは空軍のC-17輸送機により僅か15時間で太平洋を渡ったこと。

 第1多領域任務部隊の中距離ミサイルはMIRM移動式中距離ミサイルとして研究されていた装備の延長線上で、ATACMS陸軍戦術ミサイルの発展型として射程499㎞の地対地ミサイルが開発されていますが、従来それ以上の射程を有する装備品はINF中距離核戦力全廃条約により廃止されていたものの、トランプ政権時代に条約を離脱しています。

 MRCシステム、今回展開したのはMRCシステムという海軍のMk41VLS垂直発射装置の地上発射型で、トマホークミサイルやスタンダードSM-6ミサイルを投射可能となっています。トマホークミサイルは射程2000㎞に達するとともにSM-6は艦対空ミサイルで最大射程は370kmに達するとともに水上目標へも誘導が可能となっています。■

 アメリカ国防総省はペトリオットミサイル年産650発を目指す計画を推進中です。ロッキードマーティン社は2018年の段階で年産350発のペトリオットミサイルを製造していましたが2022年の初頭、ロシアウクライナ戦争開戦直前にはペトリオットミサイルの生産増強により備蓄規模を増強すべく年産500発への増産計画を進めていました。

 ロッキードマーティン社のブレンダディビットソン副社長によれば2022年12月には年産500発への拡充を完了しましたが、ロシアウクライナ戦争の開戦により、500発の量産計画を立てたものの毎日用いられる多数の迎撃によりミサイルの消耗は予想をはるかに超えており、下請け企業各社と協力し現在650発への増産を進めているという。

 ペトリオットPAC-3-MSEという迎撃能力を高めたミサイルの製造には、アメリカ政府が製造強化へ7億5000万ドルを提供、ボーイング社のシーカーとアエロジェットロケットダイン社のロケットモーターなどが必要であり、現在ペトリオットミサイル組立てを担当するロッキードマーティン社カムデン工場に隣接してこれらの工場が設置中です。■

 アメリカの本土ミサイル防衛システムはロッキードマーティン社案が採用されました。アメリカ本土を狙う大陸間弾道弾を警戒するもので、冷戦時代にはABM制限条約によりこの種のミサイルは米ソ間の保有制限が行われていましたが、近年は中国の大陸間弾道弾と、何より北朝鮮の大陸間弾道弾開発が進み核攻撃の懸念がありました。

 ロッキードマーティン社はエアロジェットロケットダイン社とともにアメリカ国防総省の本土ミサイル防衛計画への提案を実施、ロッキードマーティン社のほかにはノースロップグラマン社がレイセオン社とともにミサイル防衛システムを提案していましたがミサイル防衛局が選定したのはこのロッキードマーティン社のシステムとなりました。

 NGI次世代迎撃ミサイル、ロッキード社によれば2028会計年度までにNGIミサイルの初度作戦能力付与を目指しています。現在ミサイル防衛にはGMD地上配備型中間段階迎撃ミサイルとTHAAD終末高高度迎撃システムが充てられていますが将来的には統合するとのこと。大陸間弾道弾は落下速度が非常に早く迎撃は困難とされていました。■

 アメリカ陸軍は2028会計年度までに多領域任務部隊師団を編成する計画とのこと。多領域任務部隊とはマルチドメイン部隊としても知られ、この計画は現在完全に決定したものではないようですが、インド太平洋軍は2018年に西海岸のワシントン州ルイスマッコード統合基地に初の多領域任務部隊を編成した後、多領域任務部隊拡充を進めています。

 多領域任務部隊の新編はもう一つ、2021年にも編成され2022年には続いてハワイに配備されています。当面は4個多領域任務部隊体制を目指していて、これにより実質師団規模の部隊を構成します。これらの部隊は有事の際には中国本土を射程内とすべく日本本土やフィリピンへの中距離ミサイル部隊の展開などを想定している部隊のひとつ。

 A2/AD接近阻止領域拒否戦略を中国軍がドクトリンとして完成させる中に在って、アメリカ軍は冷戦時代のエアランドバトルを発展させたエアシーバトル構想を進めるものの、その基点となる地域へそもそも部隊を展開させることが難しいことから、戦車やヘリコプターよりも射程の長い装備により陸軍が戦闘を展開するのが多領域任務部隊の狙い。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ まや
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ウクライナ情勢-フランスマクロン大統領ミラージュ2000戦闘機供与方針とロシア軍の概況

2024-06-10 07:00:06 | 国際・政治
■防衛情報-ウクライナ戦争
 ミラージュ2000はラファールとの置き換えにより退役機が中古市場用に残されているものもあるといいますが空軍力は重要です。

 フランス政府はウクライナ軍事支援としてフランス空軍が運用するミラージュ2000戦闘機の供与を発表しました。これはマクロン大統領主導のもので今回供与されるのは空対空戦闘能力の高い、ミラージュ2000-5戦闘機で、フランス政府によれば機種転換訓練の所要期間を考えた場合、今夏から訓練を開始する場合年内に完了するとしています。

 ミラージュ2000戦闘機はフランス空軍では順次ラファール戦闘機へ置き換えが開始されていますが、ミラージュ2000-5の場合、F-16block50程度の空中戦能力を発揮できる見込み。フランス政府はどの程度の機数を供与するか具体的筋は示していませんが、一定数を供与するとしています。F-16戦闘機供与とともにウクライナには朗報でしょう。

 F-16戦闘機供与について、やはりF-16はMiG-29とは根本から異なるため訓練期間が長引いている。開戦当時ウクライナ空軍には170機程度の戦闘機がありましたが、長期にわたる戦闘により半数以上を喪失しているとのことで、F-16戦闘機とミラージュ戦闘機、そしてスウェーデンのアーガス早期警戒機の供与により空軍を建て直す事を期待しています。
■防衛情報-ウクライナ戦争
 退役装備は保管しておく必要性を改めて。

 ロシア軍は毎月ロシア兵5000名が戦死している、これはISWアメリカ戦争研究所6月6日ウクライナ戦況報告においてプーチン大統領が不作為で5000名戦死者という数字を口にしたことを紹介したもので、負傷者の比率から毎月1万5000名が負傷している事を示します。この数字はウクライナ国内報道の戦果に関する下限とほぼ一致しているという。

 ロシア軍はこうした中でクピャンスク南東とヴォフチャンスク南西、チャシブヤールのシヴェルスキードネツドンバス運河東岸、アウディイフカ北西のドリヴカで前進しているという。現在ウクライナ軍は人員不足に見舞われていて、ウクライナ人権社会復帰委員会のボルベンコ副委員長によれば2024年に10万から11万の兵員入営を必要としている。

 ウクライナ軍の悩みは人員不足と共に装備不足も挙げられ、10万から11万の兵員により旅団を複数編成しようにも、欧米からの軍事物資供与に依存している為、短期的には新編部隊を作戦水準に到達させる事は難しいともボルベンコ副委員長が発言しています。ウクライナ軍は国産装備や老朽装備復旧も並行して実施していますが、やはり不足しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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