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【防衛情報】チリ空軍E-3-AWACS取得とカナダCT-114チューター老朽化,AT-6 ウルヴァリン軽攻撃機

2022-11-07 20:00:34 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今週は空軍関連の話題を小型攻撃機から無人攻撃機の練習機転用攻撃機と戦闘機まで集めましたが、最初は自衛隊のE-767と同じAPY-2レーダーを積む元祖ことE-3の話題です。

 チリ空軍はイギリスよりAWACS,E-3早期警戒管制機3機を中古で取得しました。E-3早期警戒管制機はイギリスではE-3D-AEW-Mk1として長らく運用されていた機体ですが2011年から退役が始り、後継機としてE-7ウェッジテイルが決定し退役が加速、チリ空軍は3機を取得しました。この他にアメリカ海軍が練習機としてイギリスから中古取得しています。

 EL/M-2075ファルコン早期警戒機、チリ空軍は1994年にE-3と同じボーイング707旅客機を原型としたファルコン早期警戒機を採用しています、これは機首に巨大な球状アンテナを持つ、イスラエルがE-2C早期警戒機後継に開発したもので、E-3と比較してもAESA方式の先進的なレーダーを搭載し370km圏内の航空機を索敵可能という航空機ではある。

 E-3早期警戒管制機は1992年に製造終了し、チリ空軍が今回取得した機体はファルコン早期警戒機と比較して圧倒的に古いものですが、運用互換性や能力向上計画ではE-3の方が遥かに頻度が高く又安価となっています。なお、チリ空軍では3機の内、運用は2機のみとし1機は予備部品用とします。運用はプダウエル空軍基地の空軍第2航空団が担います。
■曲技飛行部隊スノーバーズ
 アクロバット飛行部隊は軍の広報で重要な意味を持つ事は無くなってから往々にして気付くものですが流石にT-4練習機よりも遥かに古いCT-114チューターではなあ、と思います。

 カナダ国防省は8月10日、曲技飛行部隊スノーバーズの無期限飛行停止措置を発表しました。これは8月2日にフォートゼントジョンでの墜落事故を受けての事です、幸い脱出が間に合い死傷者は出ませんでしたが2020年5月17日に墜落事故で死者が、2019年10月13日と2017年8月26日にも火災事故と墜落事故というトラブルが相次いでいます。

 カナディアCT-114チューター練習機9機から成るスノーバーズの歴史は古く、搭乗員教育を行う部隊として1942年に編成されています、戦後一次廃止されましたが1954年にF-86戦闘機の曲技飛行部隊として再編制され、1969年にはカナダ軍飛行訓練学校教官から成る専門部隊となりスノーバーズという名称は1971年に正式に命名され、今日に至ります。

 CT-114チューター練習機、問題はこの練習機です、初飛行は1960年でありカナダ製ですがカナダ空軍での練習機としての運用は2000年に終了しており、22年間曲技飛行用のみとして維持されているのみ、カナダ統合軍空軍部隊のジェット練習機はイギリス製CT-155ホーク練習機です。古いCT-114を安全に運用継続できるかが、飛行隊の将来を左右します。
■イギリス,ユーロファイター改良
 F-2戦闘機の場合は開発時点でAESAレーダーの開発が間に合いましたが逆にこの一部でも秀でている部分が在った事が、日英の戦闘機共同開発へ繋がった。

 イギリス国防省はユーロファイター戦闘機2040年までの能力向上に23億5000万ユーロの予算を計上すると発表しました。これはフェアフォード空軍基地において行われたロイヤルエアタトゥーの会場で記者会見に当ったイギリスのジェレミークレイン国防相が表明したもので、少なくとも2040年以降まで既存の運用基盤維持を発表したかたちです。

 2040年までの能力向上最新鋭のAESAレーダーであるECRS-Mk2レーダーの搭載などが含まれており、遅れに遅れたAESAレーダー搭載のタイフーン戦闘機部隊が完成します、ユーロファイターの運用と能力向上にはイギリス国内だけで20000名の正規雇用を支えているといい、次期戦闘機開発が開始されるなかでの雇用維持はイギリスの重要な課題です。
■ AT-6 ウルヴァリン軽攻撃機
 要するにプロペラ式の練習機を実戦機に改造して投入するという発想なのですが。

 アメリカ空軍はビーチクラフト AT-6 ウルヴァリン軽攻撃機へ型式証明を交付しました、これは空軍と海軍で運用されているT-6テキサンII練習機を原型としたもので、この機体の設計も、スイスのピラタス社製PC-9練習機をもとに再設計したもの、機体形状はPC-9と共通点が多いものですが設計自体は大幅な変更により90%が再設計されているとのこと。

 AT-6 ウルヴァリン軽攻撃機は所謂COIN機で、国際平和維持活動や対テロ作戦と麻薬密輸監視任務等に対応する航空機、アメリカ空軍は2020年に2機の導入契約を結んでいます。アメリカ空軍ではこれを第一線兵力としてではなく、同盟国の同等の装備品との運用強力等を経て協力の強化を想定すると共に、航空機搭乗員の経験蓄積にも期待されています。
■IA-63パンパⅢblockⅡ
 イギリスと関係が悪化してフォークランド紛争の戦後処理が終わらない事には国産機しかまともな軍用機を買う事が出来ないという。

 アルゼンチン空軍はFADEAより最新のIA-63パンパⅢblockⅡ高等練習機を取得します、パンパ練習機は軽攻撃機としても運用可能です。パンパ練習機は元々、ドイツのドルニエ社の技術協力を受けアルゼンチンが独自に開発した航空機であり、フランスのダッソー社が開発したアルファジェット高等練習機を単発小型化したような形状が特色となています。

 IA-63パンパⅢblockⅡ高等練習機は2013年にFADEAが提唱した第三世代型パンパの改良型で、飛行データを地上に自動送信し地上シミュレータ訓練へ反映させる機能を追加しています。2018年にアルゼンチン国防省がblockⅡ40機の導入を発表、今回導入された機体はブエノスアイレス州タンディル航空基地の第 6 航空旅団に配備されるとのことです。
■イギリス,チェコ製練習機
 小口だが必要な機材というものはこうして柔軟に調達する選択肢もあるのですね。

 イギリス空軍は戦闘攻撃訓練にチェコ製L-159-ALCAラーテル練習機を採用する、これはイギリスのフェアフォードにて2022年7月15日から二日間にわたり行われたロイヤルインターナショナルエアタトゥーにて発表されました。既に機体製造のAeroVodochody社と仮設敵機運用での訓練支援を行うドラケンインターナショナル社と契約を結んだという。

 L-159は練習機としてイギリスに採用されるわけではありません。L-159-ALCAラーテル練習機は冷戦時代にチェコスロバキアが開発したL-39練習機の改良型ですが、チェコのNATO加盟と共にNATO標準弾薬等への改良が行われたのがL-159となっています、既にNATOでは近接航空支援の前線航空管制訓練用航空機として採用され、実績はあります。
■チェコ軍ヘロン1無人機採用
 無人航空機により小国でも大規模な航空作戦を現実的な予算で実施できるようになりました。

 チェコ空軍はイスラエル製ヘロン1無人機3基の導入を決定しました、これはチェコ国防省が8月8日に発表した将来計画に基づくもので、チェコ空軍では戦闘機などの航空打撃に先んじて目標情報収集を行う為に高性能も無人偵察機を必要としていました。チェコ政府は9月にもイスラエル政府との間で無人機導入に関し政府間交渉を開始する予定です。

 ヘロン1無人機は高高度滞空型の無人機で高度10500mにおいて52時間にわたる対空飛行が可能となっていて、完全自律飛行やALR空中回復自律飛行等も可能であり、最大1000km先まで進出、各種センサーなど250kgまでを搭載できるとのこと。ヘロンⅠについては既にドイツ連邦軍は採用を決定しており、国境を接する両国の共通運用も可能となる案です。
■ミノタウロス II+実験失敗
 この種の装備は維持するだけで良いと考えられてきましたが開発技術に空白期があるとこのようになるのですね。

 アメリカ宇宙軍の将来型大陸間弾道弾として開発されているミノタウロス II+が7月6日、ロケット部分の発射実験中に爆発しました。この事故はカリフォルニア州のバンデンバーグ宇宙軍基地において実施された発射実験の際に起こり、発射後10秒後に爆発したとのこと、実験用ロケット部分の開発実験過程であり水爆などの核弾頭は搭載されていない。

 ミノタウロス II+は発射直後に爆発した為、破片は発射台付近に集中しており、死傷者が出なかったのは僥倖ですが宇宙軍は原因調査を開始しました。ミノタウロス II+はミニットマンⅢ大陸間弾道弾を置換えるLGM-35A センチネル大陸間弾道弾のロケット部分、ミニットマンは配備開始から半世紀が過ぎて老朽化しており、2029年から代替が開始されます。
■イラン製無人機の問題点
 イランは無人機の数は多く実績も所々で挙がっているのですが稼働率などについては謎のままでした。

 ロシア軍はイランから数百機の無人機を導入したが多数の不具合に直面している、アメリカ国防総省が8月30日に発表しました。これはウクライナ侵攻に際しロシア軍は無人機不足に直面しており、ロシアへの経済制裁を背景に何処からも無人機を調達できず、また同じく経済制裁によりロシア製無人機に外国製部品を搭載出来ない為の代替案でした。

 ロシア軍が調達したのはイラン製シャヘド無人機とモハジェル無人機を数百機とされています。不具合の詳細は不明ですが、考えられるのは運用思想の違いであり、またペルシャ語の運用基盤を有するのかという教育面や、ロシア軍とイラン軍とでの無人機運用思想の違いが表面化している可能性も。ただ、訓練完熟後には評価が変わる可能性があります。
■AT-802Uスカイウォーデン
 農業航空機にこうした使い方が在るのは驚きですが特殊作戦航空機となるとなにか特殊な航空機ゆえに納得してしまう。困ったのは類似の機体が日本になく参考写真無し。

 アメリカの合衆国特殊作戦軍はAT-802Uスカイウォーデン多用途機を特殊情報収集機として採用します。AT-802Uスカイウォーデン多用途機はテキサス州オルニーに本社を置くエアトラクター社が1990年に開発した農薬散布機で、機内に4.1tの農薬や水などを搭載可能、農薬散布は勿論山火事にも対応可能で、専用フロートを装着し水上発着も可能です。

 AT-802Uの特殊作戦機への改修はL3ハリス社が担当し1億7000万ドルの予算が計上されます。今回先ず8機を取得しますが最大で75機の導入を計画、使いやすい割には搭載能力が大きく更に滞空時間も370km圏内で6時間の飛行が可能、GBU-12レーザー誘導爆弾やグリフィンミサイル、ヘルファイアやAPKWS誘導ロケット弾等が搭載できるとのこと。
■台湾へAIM-9XblockⅡ供与
 AIM-9XblockⅡサイドワインダーは従来のサイドワインダーより射程も機動性もまさに新世代といい日本ではAAM-5の改良型に相当します。

 中華民国台湾はAIM-9XblockⅡサイドワインダー100発の有償供与許可をアメリカ国務省より通知されました。AIM-9XblockⅡサイドワインダーはアメリカのアリゾナ州ツーソンに本社を置くレイセオンミサイルディフェンス社製、100発の取得費用は8560万ドル、台湾空軍では新しく導入したF-16Vへの先進的な空対空ミサイルを必要としていました。

 AIM-9XblockⅡサイドワインダーの特色は従来型と比較しロケットモーターの改良とLOBL発射後ロックオン方式の採用により赤外線誘導方式の空対空ミサイルとしては射程を延伸している点で、また既存のF-16戦闘機の他、ノースロップF-5E、台湾製AIDC F-CK-1、フランスより導入したダッソーミラージュ2000戦闘機等からも運用が可能です。
■イスラエル,KC-46A採用
 自衛隊にも配備が開始されているKC-46A空中給油輸送機の新しい採用国が現れました。

 イスラエル航空宇宙軍はボーイングKC-46A空中給油輸送機を4機9億2700万ドルで取得します。イスラエル軍は長らくKC-46A空中給油輸送機の導入を希望していましたがイスラエル国内の地方選挙や連立政権樹立に伴う混乱と国防費の限界などから他の優先防衛事業へ振り分けが行われた為、導入決定が何年も遅れていた中、漸くの決定となります。

 KC-46A空中給油輸送機はボーイング767を原型として開発した機体で、アメリカ空軍は179機を導入するとともに輸出では日本の航空自衛隊が導入を開始、イスラエルの導入は日本に続いて二カ国目となります。2025年と2026年にかけ納入される見通し、イスラエルのボーイング707空中給油型は老朽化が進み、KC-46Aは更に4機の追加が検討中です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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