北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南硫黄島-福徳岡ノ場噴火,九州沖縄漂着の大量軽石は原潜航行を阻害するか-火山と安全保障

2021-11-18 20:01:12 | 防災・災害派遣
■軽石,沖縄から本州に迫る!
 福徳岡ノ場噴火災害、軽石と表現しましたが要するに火山性堆積物のテフラが美しい沖縄の海を襲い沿岸部を覆い海洋生物に大打撃を与えています。

 P-T境界。大量絶滅期として地球史上最大の災厄となった三畳期とペルム期の中間で起こった地球事変は、大陸移動を原因とする巨大火山噴火が原因であったとされます。その影響は白亜紀末の巨大隕石衝突をも超える大量絶滅を引き起こしています。勿論、それを引き起こした火山噴火は現在の大陸配置では地質学的年代でも再発するのはもう少し先ですが。

 小笠原諸島福徳岡ノ場噴火。しかし、地球史上複数回発生した、海中低酸素状態、これは魚類はじめ大量絶滅を引き起こすのですが、今回の噴火規模はここまで至らずとも、西太平洋地域においては、珊瑚礁など海中に酸素を供給する機能が軽石の体積により光合成を阻害され、一般に考えられる漁網に軽石を巻き込む、以上の長期的な被害は考えられます。

 台風、特に噴火から台風の接近が少なく、台風の波浪による海中の循環機能も期待できず、冬には台風が日本周辺まで北上しませんので、海中生態系は漁業含め影響が及ぶでしょう。一方、長期化するかは、噴火規模を示しますVEI火山爆発指数が、現在の規模で収まるのか、VEI5やVEI6の水準まで今後もテフラを排出するかにより変わります。そう海中だ。

 南西諸島に大量漂着する火山堆積物、テフラのなかでも空気を含んだ軽石の大量漂着が続き、まもなく本州太平洋岸にも到達するとして警戒が続いています。南硫黄島近傍の福徳岡ノ場今回の噴火は1913年桜島大正噴火、湾が巨大な軽石で埋まり鹿児島港を対岸まで上を歩いて行けたという、巨大噴火と並ぶ規模のものであったとされ、まだ噴火は続きます。

 軽石、これは海中にも相当な悪影響を及ぼす懸念があります。具体的には、海中を航行する原子力潜水艦の二次冷却水への影響です。アメリカと中国の原子力潜水艦は軽水炉、ロシアも重水炉は退役し軽水炉が主流、これらの原子力潜水艦の冷却システムのフィルターは、これほどの大きさの軽石が海中を漂流する状況での取水を想定しているのでしょうか。

 原子力潜水艦の二次冷却水に危険が及ぶならばテフラが漂流している危険海域を航行しなければよい、こう思われるかもしれません。しかし、テフラは潜航中、ソナー探知が難しいのです。厳密にはテフラの密度の濃い海域では砕氷音と似た音が形成されるようですが、海中を漂うテフラについては、潜水艦に影響する密度の段階で探知できるかは未知数だ。

 原子炉冷却水への影響については、既に本州及び九州太平洋沿岸の原子力発電所について、経済産業省が二次冷却水へ影響が及ばないようフィルター準備をおこなうよう、電力各社に情報を発しています。沿岸の原発への影響が及ぶのであれば、潜航中目視が使えず原子炉を搭載し海中を航行する原子力潜水艦へも影響が及ぶのは必至と考えるべきでしょう。

 グアムのアプラ基地、中国人民解放軍南部戦区、この地域の原子力潜水艦部隊は福徳岡ノ場テフラ漂流の影響が及ぶ可能性があります、アプラ基地は小笠原諸島から南に、そして南部戦区の寧波基地や舟山基地などは沖縄南西諸島から近く、軽石の漂着という可能性が否定できません。我が国の横須賀基地や佐世保基地には原潜が無いため、影響は限られる。

 台湾情勢。今回の福徳岡ノ場火山噴火が即座に影響する規模の噴火ではありませんが、アメリカ海軍や海上自衛隊と、オーストラリア海軍やカナダ海軍、各国鑑定が瀬取り監視を含め任務に当たっています、これは同時に台湾海峡情勢へも、軍事力による現状変更を認めない国際規範を示していますが、ここに影響が及べば、台湾情勢に波及の可能性もある。

 原子力潜水艦への影響。実は10月2日にシーウルフ級攻撃型原潜コネティカットの海中衝突事故が今年発生した際、実際には海底に衝突しただけでしたが、最初に危惧したのは、海中のテフラの存在でした。アメリカ海軍は事故海域の正確な位置を発表していませんが、例えば海山と潜水艦の位置をパッシヴソナーで標定する際、テフラの影響があり得ます。

 水上戦闘艦への影響は現在のところ限定的でしょう、皆無ではないのは、やはり冷却に海水を用いているためです、そして飲料水に逆浸透膜方式装置を用いていますので、このフィルターがテフラの大量漂流を想定しているとは考えられません。水は航行に不可欠で、これは洋上補給か寄港し真水補給を行う頻度の増加を意味し、長期航海に影響しましょう。

 P-3CやP-1哨戒機で、せめて海上を漂流する軽石の動向だけでも探るべきです。理想としてはこの種の任務にはグローバルホーク無人偵察機やガーディアン無人偵察機が理想なのですが、まだ配備されていません。距離は遠すぎますが、哨戒機が不足するならば陸上自衛隊のスキャンイーグル無人偵察機が、小型でも軽石警戒には寄与するのかもしれません。

 しかし、この規模の噴火が人口密集地隣接の火山でなくて良かった、この点を喜びましょう。日本は地熱発電で世界第11位、国立公園や温泉事業者との関係から地熱発電開発の遅れが指摘されていますが、温泉利用の無い浅海域の海底火山を熱源に地熱発電を行い、メガフロート方式の海上水素プラントと重ねれば、液化水素生産で、資源大国も夢ではない。

 人口密集地で無く幸いでしたが、重ねてテフラが軽石主体であったのも、視点としては僥倖でした。これが発泡爆発しサージ状物質主体の火山灰となっていましたら、エンジンが止まり、航空機運航に影響する規模です。アイスランドのエイヤフイヤットルヨークトル火山が欧州全域の旅客航空路線に深刻な影響を及ぼしたことは、まだ記憶が鮮明でしょう。

 サージ状の火山灰は旅客機の運航を阻害しますが、これは防衛用航空機も同じ事、特に米本土から北東アジア地域への緊急展開部隊の機動を阻害しますし、水上戦闘艦に主流となっているガスタービン艦は大量の吸気を必要とするため、航行できなくなる可能性もあります。東日本大震災から今年で10年ですが、地震だけでなく火山災害も警戒が必要だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【京都幕間旅情】等持院,秋空... | トップ | 令和三年度十一月期 陸海空... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

防災・災害派遣」カテゴリの最新記事