北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

欧州海上事前集積船MPSRON-1廃止,バイデン大統領副大統領時代施策が生んだ巨大防衛空白

2022-02-17 20:22:47 | 防衛・安全保障
■海上事前集積船隊とは何か
 本日の第二記事は少し話題を変更します。2012年のアメリカといえば今のバイデン大統領がオバマ政権の副大統領職に在った時代の話なのですが。

 アメリカのMPSRON-1第1海上事前集積船隊廃止、10年前の実施された施策ですが、最早ヨーロッパではロシアと軍事対立する事は有得ない、というオバマ政権時代の施策が、現在のバイデン政権による東欧地域へのアメリカ本土からの空挺部隊増派、つまり“軽装備の空挺部隊で重装備の戦車部隊と対峙する”難しい任務を強いているのかもしれません。

 海上事前集積船。冷戦時代には大型のRORO船に一個機械化師団相当の戦車や装甲車等を搭載している海上事前集積船を欧州地域にも配置していました。車両は定期的にバッテリー点検やエンジン暖機運転と整備を受けており、有事の際には操縦する兵士だけを迅速に空輸展開させ、海上事前集積船の装備と合流させるという即応体制が採られていました。

 輸送艦や揚陸艦とは全く異なる艦です、いや輸送艦は自衛隊用語ですので事前集積船を米軍用語として再翻訳すると輸送船になり混同しやすいものかもしれませんが、揚陸艦や自衛隊の輸送艦は港湾の無い地域へ独力で揚陸する為の舟艇や接岸能力を持っていまして、また装備とは別に兵員や隊員を乗艦させる能力があります、すると高性能に見えますが。

 揚陸艦や輸送艦は、おおすみ型輸送艦では満載排水量14000tありますが、トラックの搭載能力は40両程度しかありません、これは同規模の大きさのカーフェリーと比較しますときわめて少ない搭載能力です、その理由は港湾施設を利用する前提のカーフェリーと沿岸部に着上陸する為の施設と装備を含めた揚陸艦や輸送艦の違い、というものなのですね。

 RORO船以外にもクレーンを搭載した貨物船などがその用途に充てられているのですが、車両、そしてミサイルを含む各種弾薬、更には車両用燃料までを含めて数隻の海上事前集積船により構成されています。実質的には縮小の結果、旅団戦闘団の装備を搭載するにすぎないのですが、機甲旅団戦闘団は空挺部隊とは比較にならない戦闘力を有しています。

 機甲旅団戦闘団はM-1A2主力戦車87両にM-2A3装甲戦闘車152両とそしてM-109A6自走榴弾砲18両に加えてM-113装甲車45両、歩兵旅団戦闘団はハンヴィー高機動車のみで対戦車火力にはTOW対戦車ミサイルと携帯対戦車火器だけですし砲兵火力も牽引式のM-777榴弾砲となっていて、事前集積船で重装備を前方展開する意義が分るでしょう。

 しかし、欧州配備のMPSRON-1第1海上事前集積船隊は2012年に解体され、残る二つのMPSRON海上事前集積船隊についてMPSRON-2は中東情勢をにらみインド洋ディエゴガルシア地域、もう一つのMPSRON-3は朝鮮半島情勢に備えグアムと九州沖縄地域に遊弋しています。MPSRON-1、廃止されてから10年ですが、代替手段は採られていなかった。

 佐世保などで海上事前集積船が沖留している事もありますし、実際その写真を今回紹介しているのですが、有事の際にはボーイング747型旅客機ならば一個大隊分の人員を同時に運ぶことができる。携行する小銃と着替えや個人装具だけではまともな戦闘はできませんが、海上事前集積船の装備と合流する事で短時間にて機甲旅団戦闘団へ転換できるという。

 抑止力。考えればアメリカはMPSRON-1を廃止した2012年の段階でロシアと今日の様な緊張状態は想定していなかったのでしょう、2014年のクリミア併合の時点でも、ロシアに対して厳しい経済制裁を行いながらMPSRON-1を再編成するような施策は行っていません、2016年にNATO加盟国隣国であるウクライナ東部紛争を受けても決定は同じでした。

 ブッシュ政権時代のラムズフェルド国防長官による2005年米軍再編では、米軍の緊急展開能力を高め、平時においては欧州やアジア中東に軍団規模の部隊を展開させる施策を改め、事前集積船や戦略拠点を維持した上で有事の際には本土から緊急展開させる、こうした施策が採られていたのです。つまりMPSRON-1ありきの在欧米軍削減で在った筈なのです。

 オバマ政権の欧州軽視とも取れる姿勢はトランプ政権においても継承され、実質的に在欧米軍は再配置され全体的な規模は減らされていないのですが、オバマ政権が削減した部隊を再度配置させる施策は採っていません、ロシアの視点から考えるならば、アメリカは合最早欧州の安全保障に関心は無いのだろうという明確なメッセージを受け取った構図だ。

 日本はロシアとの距離感を保っていますが、2007年までは、ロシアもNATOオブザーバー国となっていましたし、いずれはNATO加盟もという声がありました、しかし、2007年の欧州ミサイル防衛計画を契機に関係が悪化した、少なくともロシアはそう理解していました。その時点で再構築されるべき抑止力を、放置したまま十年以上経たのが、今日のウクライナ危機といえるのかもしれない。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする