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ウクライナ危機,ロシア軍突然の核ミサイル部隊演習と大量破壊兵器情報や"偽旗作戦"の懸念

2022-02-19 20:22:36 | 国際・政治
■危機継続,増強されるロシア軍
 ロシアは日本にとっても隣国であり北方への防衛など複雑な歴史を辿る隣国ですが、ウクライナ危機は新しい次元へ発展しようとしています。

 ロシア国防省は核ミサイル部隊演習の実施を発表しました、これはロシア国防省が2月18日に発表した演習計画であり、事前から計画されているものとしながら翌日19日に実施するという前日発表となっています。ロシア大統領府のぺスコフ報道官は威圧的な演習ではないとしていますが、翌日の核ミサイル演習発表で示威的ではないとは無理があります。

 核ミサイル部隊は戦略ロケット軍と北海艦隊及び黒海艦隊と航空宇宙軍、そして地上軍等南部軍管区部隊が参加し、海軍艦艇からの核戦力運用、大陸間弾道弾戦略核兵器及び第一線において運用する戦術核兵器の運用を想定、また演習では巡航ミサイル及び弾道ミサイルの発射を行うと、前日に通知しており、演習はプーチン大統領が監督しているとのこと。

 ロシア大統領府は示威的な演習では無いとし、暗に現在緊張の高まっているウクライナ国境地域での行動とは無関係としていますが、ロシア南部軍管区はウクライナ東部紛争のドンバスなど武装勢力支配地域と隣接しており、黒海艦隊はウクライナ領海を包囲する位置にあり、通常兵器での恫喝に加えて核戦力による恫喝という別次元に緊張が増しています。

 ロシア軍は2月16日以降ウクライナ国境周辺のロシア軍部隊を撤収させていると主張していますが、実際は増強されているのではないかとの疑念が生じています。AFP通信によればアメリカのホワイトハウス関係者の発言としてが2月17日に、ロシアが部隊撤収開始以降、逆に7000名が増派されていると発言し、緊張緩和の発表は虚偽であるとしています。

 T-90M,ウクライナ国境周辺ではかつて史上最大の戦車戦が戦われたクルスクにおいてロシア軍が最新鋭のT-90M戦車、従来のT-90戦車を近代化改修されたものが少なくとも一個中隊以上の規模で貨物列車に載せられ輸送される様子がSNS等に投稿されており、この地域でのT-90M戦車確認は、今回のウクライナ危機派生から初めてのこととなっています。

 SNS情報は単なる情報戦の可能性もあり留意が必要ですが、ロシア国内報道ではウクライナにおいて欧米側がミサイル等を配備しロシアに圧力を掛けている等、ロシア側の動向を正当化する報道が行われている事から、国境へ向かうロシア軍に対して好意的で、応援の意図も込めて撮影されているSNS情報も多く、世論戦が逆手に出ているともいえましょう。

 ロシアのプーチン大統領とドイツのショルツ新首相の初の首脳会談において新しいドイツ首相が一歩も引かず攻勢に出た事が、緊張の続くウクライナ情勢を前に注目されています。これは2月15日、ショルツ首相がモスクワを訪問し実現した首脳会談で、ここに欧州の対ロ政策へ不一致があれば、そのままショルツ首相帰国後に開戦が懸念されていました。

 プーチン大統領はウクライナ侵攻について、NATOのユーゴスラビア介入と同じくジェノサイドからロシア系住民を保護する為だと主張したのに対し、ショルツ首相はプーチン大統領のジェノサイドへの認識は間違っていると指摘、ジェノサイドという第二次大戦中の歴史と一貫して向き合った戦後生まれのドイツ首相としての矜持を示したかたちでしょう。

 ショルツ首相はプーチン大統領がウクライナ軍事攻撃を正当化する口実にウクライナのNATO加盟可能性を挙げたのに対し、近い将来の検討課題ではないとし、軍事行動をいま切迫化させるロシアを牽制、またロシアが期待する天然ガス問題でのドイツ譲歩も、ショルツ首相が論点にもあげなかった事でプーチン大統領の目論見を打破する事になりました。

 ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力支配地域において停戦協定違反が600事例以上報告され、緊張が増しています。ウクライナ東部紛争により親ロシア派武装勢力が制圧している地域は、停戦に関するミンスク合意に基づきOSCE全欧安全保障協力機構より停戦監視が行われています、OSCEとは1973年にソ連が提唱した欧州安全保障協力会議の後身だ。

 親ロシア派武装勢力支配地域での停戦協定違反600事例とは、爆発や銃撃など。ウクライナ政府は戦闘を実施しておらず、OSCE停戦監視団からもウクライナによる攻撃確認は発表されていませんが、親ロシア派武装勢力指導者を名乗るプシリン氏はウクライナ側による悪質な停戦違反が在ったとし、ウクライナ側に対して正当な反撃を示唆しています。

 ウクライナ政府のダニロフ書記は主張を否定、ウクライナ東部地域へロシア軍侵攻の口実として懸念されているのは、ロシア軍がロシア系住民保護を名目に軍事介入する事で、保護を必要とする大量虐殺が行われていると主張することですが、ロシアが主張する地域ではOSCE派遣停戦監視団が停戦監視を行っており、ウクライナの主張を裏付けています。

 アメリカ国務省はロシアが偽情報を口実としてウクライナへ侵攻する為の準備を非難しました。これは16日にロシア政府がウクライナ東部においてウクライナ軍が民族浄化を実施しているとし、集団墓地や住民が集団疎開する写真や映像を公開、またウクライナ軍が東部地域で化学兵器を使用する準備を行っているSNS上に情報拡散させているとのこと。

 偽旗作戦というものですが、ロシア軍は再度クリミア半島侵攻の様な自作自演による軍事行動を行う可能性があります。また、例えば1997年1月のロシアタンカーナホトカ号重油流出事故に際して、ロシア政府はナホトカ号の事故を日本の潜水艦と衝突した可能性を示唆した事がありましたが、真偽不明でも主張するというロシア政府過去の姿勢もあります。

 ロシア政府がウクライナ侵攻に際して偽情報を用いる事はこれが初めてではなく、2014年にウクライナ領のクリミア半島へ侵攻した際、クリミア半島においてウクライナ軍がロシア系ウクライナ人を迫害している為に保護を行うという口実を示しています。なお、クリミア侵攻から8年が経ていますが、第三者機関による迫害証拠等は見つかっていません。

 ウクライナ危機の次にある懸念は大量破壊兵器疑惑をロシア側が侵攻の正当化に用いる懸念です。これはウクライナ東部地域のロシア系住民に対し化学兵器が使用される可能性をSNSにより拡散させている事ですが、ウクライナは過去にソ連から国家継承した核兵器をロシアへ移管するまで短期間保有していた時期があり、情報戦に悪用の懸念があります。

 ロシアがウクライナの核保有を主張するのではないか、ソ連時代の核兵器をウクライナがロシアへ移管したものは、SS-19大陸間弾道弾130発とSS-24大陸間弾道弾40発で、多核弾頭の採用によりSS-19には核弾頭780発、SS-24には400発が搭載され、ソ連核兵器を国家継承したとしていて、非核化ラーダ声明までの短期間、ウクライナは核保有国でした。

 大量破壊兵器の存在、これは2003年イラク戦争に際してアメリカが国連決議による受権決議を拡大解釈し、国家崩壊に至らせる軍事行動の正当化に用いた手段ですが、無いものを無い証明は難しく、ロシア側が大量破壊兵器保有を主張し、その口実としてのウクライナ侵攻を開始する可能性は低いとは言えません。ウクライナ危機は今後も長期化するでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【映画講評】イルカがせめてきたぞっ(1971)【1】徹底検証!イルカ軍が使用した戦車の謎

2022-02-19 14:15:00 | 映画
■地上で人間を負かしてしまう
 映画講評と銘打ったものの書籍の検証である脱線をお許しください、素朴な疑問を寄せられたならば応えられるWeblogでありたい。

 イルカがせめてきたぞっ!。軍事脅威としてのイルカについて。小学館の“なぜなに学習図鑑9”、子供たちの素朴な疑問に答える学習本なのですが、イヤマテ的超解釈が含まれる項目があります、そこで子供たちの“人間よりもイルカの方が頭は良いのですか”という問いに“地上に上がったら知恵で人間を負かしてしまう”という一説を紹介しています。

 地上に上がったら知恵で人間を負かしてしまう、しかしイラストの担当がかの小松崎茂先生だったので、人工呼吸器をつけ火炎放射機を携行したイルカが戦車と共に沿岸都市を攻撃する衝撃的なイラストが添えられていました。先生、地上に上がったら知恵で人間を負かしてしまうって物理的話だったんデスカ、当時の子供たちは恐れおののいた事でしょう。

 あれは何だったのだろう、と少し前に話を振られまして、当方は流石に“なぜなに学習図鑑9”が書店に並んでいた世代ではないのですが、ノストラダムスの大予言とか大巨人17の時代、巷では様々な世界の終末が語られており、そして引用の形で“イルカがせめてきたぞっ”画像検索しますと案外画像は出てきます。そこで今日はこの問題を考えてみたい。 

 火炎放射器は理解できるのです、例えば1973年の第四次中東戦争ではイスラエル軍がスエズ運河防衛用に海中火炎放射器を開発、燃料を海上に噴出させ遠隔点火する方式のものが、作動前にエジプト軍コマンドーが無力化しましたが、実際に開発されていますし、これは工場さえあれば技術的に可能でしょう。問題はイラストに在ったイルカ軍の戦車の正体だ。

 イルカが戦車を運用する事は有得るのか。仮に戦車を運用するならば、海没処分などを受けた戦車リバースエンジニアリングすることは考えられます、小松崎茂先生のイラストでは大きさは不明瞭ですが、ドーム型砲塔に短砲身主砲を搭載、主砲はフレシット弾方式葡萄弾とも車載火炎放射器とも判別は難しいのですが搭載しています、しかし特徴的部分が。

 ボギー式懸架装置、転輪の特徴を見ますと古めかしいボギー式懸架装置が採用されているのですね、二つの転輪をシーソーのように並べ板バネで均衡を採らせる方式で、構造が簡単で工程精度要求を抑え故障が少なく、障害物を踏破する際には梃子の原理で接地面の接地点だけが持ち上がり振動を多少吸収させつつ駆動系に無用な衝撃を与えない構造です。

 第二次世界大戦中は多用された装置ですが、トーションバー方式懸架装置が普及しますと淘汰されています、陸上自衛隊もアメリカから供与されたM-4シャーマン戦車はボギー式懸架装置でしたが、警察予備隊時代に先行して供与されたM-24チャーフィー軽戦車はトーションバー方式を採用しています、そして61式戦車もトーションバー方式を採用します。

 イルカがせめてきたぞっ、戦車について。装甲部分の概要は当然不明ですが、外装部分は貝殻の様なもので覆われています、貝殻にはある程度の硬度はあるのですが、現在判明しているものでイラストが示された時代の第二世代戦車が多用していた105mm砲弾に耐えるものはありません、ただ、貝殻の性質上、磁気吸着地雷対策にはなるのかもしれません。

 海没処分などを受けた戦車リバースエンジニアリングによる技術取得、しかし、ドーム型砲塔と短砲身を採用しボギー式懸架装置を採用したものとなりますと、該当するものが無いのですね、唯一似ているのはポルシェ245型軽戦車です、特殊車両Vとして戦時中の1943年に開発が開始されていましたが、戦時急造が求められる兵器局の要求を満たせず量産されていません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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