北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ウクライナ危機:ロシアNATO1998年後退要求とアメリカ3000名増派,ドイツの天然ガス問題

2022-02-05 20:00:48 | 国際・政治
■北京五輪二〇二二開幕下の緊張
 北京五輪2008開幕の日に北オセチア戦争が勃発しましたがロシアとウクライナの緊張続く中で北京五輪2022が開会式を迎えました。

 ロシアのプーチン大統領は2月1日の声明で、ロシアの不満がアメリカとNATOに無視されていると不快感を示しました。ロシア軍のウクライナ周辺への10万規模の兵力展開はロシア国防省によればあくまで、通常の軍事演習や駐屯地間の移動としており、プーチン大統領も数週間にわたり、ウクライナ危機に関しては公の場での発言を控えていました。

 プーチン大統領は、ロシア政府の三つの要求として、“NATOの拡大停止”と“ロシア国境への攻撃システムの配備停止”及び“欧州におけるNATOの配置を1997年の段階に戻す”という要求を行っていますが、NATOはウクライナ加盟などはウクライナ政府が決める事でありNATOは基本的に開放的だとしており、ロシアの懸念に応えていないという事です。

 NATOは1999年にポーランド、チェコ、2004年にルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、ラトビア、リトアニア、エストニア、2009年にアルバニア、クロアチア、2017年にモンテネグロ、2020年に北マケドニア、所謂旧ワルシャワ条約機構加盟国がNATOへ加盟しており、プーチン大統領は遠まわしにこの13か国のNATO除名を要求しています。

 アメリカ海軍の原子力空母ハリーシップトルーマン空母打撃群は予定を延長して地中海の警戒を継続する、アメリカ海軍が新たに2日発表しました。これはNATOが地中海において編成したネプチューンストライク2022多国籍空母打撃群が当初計画では2月3日に任務終了となる予定を延長したかたちで、ロシアによるウクライナ侵攻圧力継続を受けて。

 ネプチューンストライク2022はイギリスやフランスとイタリアの航空母艦が参加していますが、ハリーシップトルーマンはニミッツ級で満載排水量は10万トンを超え、艦載機による打撃力も群を抜いた規模となっています。空母打撃群司令官カートレンショー提督は、艦載機は東欧のNATO加盟国上空へ一時間以内に展開できると高い抑止力を強調しました。

 アドリア海に展開しているハリーシップトルーマン空母打撃群は、原子力空母以下イージス艦を准予感と駆逐艦合せ5隻と規模不明の原子力潜水艦より構成されています。当初は2021年12月に中東地域へ回航を予定していましたが、ウクライナ危機を受け地中海に留まったかたち。一方で現在中東は長期に渡りアメリカの空母打撃群が不在となっています。

 ウクライナのクレバ外相は2日、ロシアとの危機について精力的な外交により危機は今のところ回避されていると発言しました。これは外国記者団に対するオンラインの記者会見において発言したもので、西側諸国のウクライナ支援に謝意を示しつつ、一方で最悪の遺体に展開する恐れが完全に払しょくされた訳ではない、と機器の継続も強調しました。

 クレバ外相はこう述べた上で、現在の危機はウクライナと西側の関係の曖昧さにあるとし、曖昧さに終止符を打つ必要があるとも発言しています。この曖昧さについては明言を避けましたが、1991年のソ連から独立以来、ウクライナはNATO加盟と、そしてEU欧州連合加盟を希望し続けており、これがロシアからの軍事圧力に繋がり、今日の危機に至ります。

 ロシア軍のウクライナ周辺展開は2月までの数週間で更に増強されている事が衛星写真の分析から判明しました。これはアメリカの衛星写真分析会社マクサーによるもので、特に2週間の間で友好国ベラルーシへのロシア軍展開が強化され、またウクライナから2016年に割譲したクリミア半島、そしてロシア西部複数の場所に増強の様子が写されています。

 ロシア軍の展開は、ウクライナ国境から240km以内のロシア軍駐屯地において物資集積所やモータープールに並ぶ軍用車両の増強が写されており、またウクライナ国境から10km以下の地域にも新設の駐屯地と思われるものが確認できます、さらに駐屯地には天幕が並ぶ様子も確認でき、BTG大隊戦闘群換算で74個から76個の規模に上ると分析しています。

 アメリカ国防総省のカービー報道官は2月2日、新たに3000名規模の部隊を東ヨーロッパへ派遣を決定したと発表しました。これは東欧のNATO加盟国を防衛する為の移動で、先ず、在独米軍より1000名をルーマニアへ移駐し、続いてノースカロライナ州のフォートフラッグから2000名の部隊を緊急展開させポーランドとドイツへ派遣するとしています。

 フォートフラッグには第18空挺軍団司令部と第82空挺師団、及びアメリカ陸軍特殊作戦司令部が置かれており、緊急展開部隊の一大拠点です。カービー報道官はこの派遣あ恒久的な兵力移動ではなく、ロシア軍が10万規模の部隊をウクライナ国境に展開させている現在の危機的状況に対応する為としており、危機解消後には撤収することを明言しました。

 欧州最大の経済大国ドイツはウクライナ危機とロシアへのエネルギー依存問題の板挟みに喘いでいます。ドイツ政府は2030年までに再生可能エネルギーへの完全移行を目指しており、2020年代初頭に石炭火力発電所と原子力発電の完全停止を計画、そして不足するエネルギーを環境にやさしいとドイツ政府が定義する天然ガスで補う計画となっていました。

 ドイツはロシアへ天然ガスの55%を依存しており、ドイツのベーアボック外相はロシア軍がウクライナへ侵攻した場合はガスパイプラインを停止させると発言していますが、この場合は大規模なエネルギー不足に見舞われます。特に、原発代替等をめざし今後8年間で天然ガス発電の発電量を30%以上増やす必要性に見舞われるドイツには厳しい現状です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【榛名備防録】戦艦大和とポストワシントン海軍軍縮条約時代の新戦艦-過剰な資源空費論

2022-02-05 14:10:30 | 国際・政治
■戦艦無用論と云う幻想
 太平洋戦争に関する”一般論水準の誤解”というものを見ていますと、戦艦大和を建造したから負けたのだ、もっと航空機を造っていれば的な論点があるようです。

 戦艦大和は巨大すぎたのか、という視点について。基準排水量64000tで460mm45口径艦砲9門を搭載し出力150000馬力で速力27ノット、航続距離は16ノットで7200浬あり防御力は舷側装甲410mmに砲塔前盾650mmと司令塔500mm、一番艦大和1941年竣工、二番艦武蔵1942年竣工、三番艦信濃空母に改装され1945年竣工、四番艦建造中止。

 新戦艦という定義、これはワシントン海軍軍縮条約後の新世代戦艦を示すのですが、アメリカは1941年にノースカロライナ級戦艦ノースカロライナとワシントンを建造、基準排水量35000tで406mm艦砲9門搭載し速力は27ノットとり防御力は舷側装甲324mmに砲塔前盾406mmと司令塔406mmという設計ですので、大和型は過大、と云い得るのですね。

 サウスダコダ級戦艦、しかしアメリカは1942年にサウスダコダ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマ、この四隻を一斉に竣工させています。基準排水量38000tで406mm艦砲9門搭載し速力は27.5ノットあり防御力では舷側装甲329mmに砲塔前盾457mmと司令塔406mm。つまり武蔵竣工の時点でアメリカは新戦艦6隻を揃え、数的劣勢にある。

 戦艦大和の評価について、ノースカロライナ級戦艦に対し大和は確実に優位に戦闘できる可能性があります、速力で同等ですので第3次ソロモン海海戦で突き付けられたレーダー射撃の不利は否めませんが、アメリカの406mm艦砲に対し、大和型は長門型の410mm艦砲への防御を念頭に設計されており、大和が沈む前に相手を沈める性能はありました。

 アイオワ級戦艦。しかしアメリカは1943年にアイオワ、ニュージャージーを。1944年にミズーリ、ウィスコンシンを竣工させます。基準排水量48500t、50口径の406mm艦砲9門を有し212000馬力の機関は33ノットを発揮し舷側装甲329mmに砲塔前盾495mmと司令塔444mmの装甲を有していて、大和型よりも5ノットの優速は大きな脅威でしょう。

 イリノイ、ケンタッキー、アメリカ海軍はアイオワ級の五番艦と六番艦を建造中止していますが、これは空母の建造を優先したと説明されると共に、既に新戦艦を10隻揃えており、日本側が大和型戦艦の建造を2隻で事実上中止した為の縮小である側面が無視されています。実際のところ、大和型については過大かと問われますと、数では過小と云い得ました。

 イギリスのキングジョージ五世級戦艦は基準排水量36727tで356mm艦砲12門を搭載し速力28ノットで舷側装甲356mmに砲塔前盾406mmと司令塔343mm、キングジョージ五世とプリンスオブウェールズにデュークオブヨークとアンソンとハウの5隻が建造されていまして、主砲は建造の1936年のロンドン条約制限で小口径ですが射程は37kmです。

 ドイツはビスマルク級のビスマルクとテルピッツで基準排水量41700t、38cm艦砲8門を有し速力29ノット、舷側320mmに砲塔前盾360mmと司令塔350mmある。イタリアはヴィットリオヴェネト級のヴィットリオヴェネトとリットリオにローマが基準排水量40517tで381mm艦砲9門30ノット、舷側350mmに砲塔前盾380mmと司令塔260mm。

 フランスはリシュリュー級戦艦のリシュリューとジャンバールが基準排水量38500tで艦砲380mmが8門、速力30ノットで舷側装甲330mmに砲塔前盾430mmと司令塔444mmという設計で、本型は艦砲射程43kmを誇ります。大和型は単艦では十分な能力はありましたが、数が充分ではなく、少なくとも戦艦不要論そのものは無理があるように思います。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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