北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ウクライナ有事-ロシア侵略論拠と将来日本有事への懸念,突き付けられる日本防衛への課題

2022-02-26 20:00:01 | 防衛・安全保障
■キエフ攻防戦と安保理拒否権
 ウクライナへのロシア軍侵攻はロシア軍が首都キエフ攻撃へ着手する段階であり予断を許しません。

 ウクライナ侵攻、懸念しています。それはウクライナで進む戦闘での犠牲者にも心が痛みますが、明日の日本、とまでは行かずとも数年後にはウクライナと同じ状態が日本にも迫る可能性がある為なのですね。ロシア政府の主張ではウクライナ政府は核兵器を開発しているナチスでありロシア系住民を民族浄化しようとしているという。故に自衛の為という。

 ナチスという誹謗中傷、情報戦は云ったもの勝ちというものがありまして、これは19世紀イギリスで、“英国ではユダヤ人が差別され出世出来ない”という外国新聞記事が話題となり、時のヴィクトリア女王も心を痛め直ぐに首相のディズレイリを呼び出し正すよう命じました、しかし首相、わたしもユダヤ人なのですが、と。ロシアは19世紀的手法を用いた。

 北海道の将来の姿かもしれない、こう危惧するのはロシアにとり、例えば千島列島防衛には宗谷海峡を確保する必要があるが北海道ま未だロシア領土ではない、という状況を前に例えば、日本ではロシア系住民が迫害されている、日本は核兵器を密造している、こう主張しやむを得ず石狩湾と道北に上陸し、本州へミサイル攻撃、こうした構図は有得ます。

 ナチスと云う誹謗中傷、先ず、ユダヤ系ウクライナ人であるゼレンコフ大統領がナチスというのは少々無理があるように思うのです。プーチン大統領の軽率な発言については、もう少しナチスの問題に正面から取り組んでいる世界の方々に声を上げて欲しいと考えるのですが。相手の政治家をナチス呼ばわりする事、日本の国内政治でも禁忌となりつつある。

 核兵器の開発については、ロシア軍が占拠したチェルノブイリ原発あたりで、なにかねつ造するつもりなのかもしれませんが、ウクライナはソ連時代の核兵器をソ連国家継承を行ったロシアへ移管、IAEAが核弾頭一つ一つを核爆発装置照合にて擬似弾頭が混じらぬよう精査し、NATOからもOSCEからも査察団が立ち会っていますので、間違いはありません。

 事実は国家が造る、こうした主張は国家が決定した時点で事実は確定するので、あとがきされても国家は嘘をつかない、我が国周辺では大陸に類似の政治体制を執る国が多い為に難しい事ですが、政治的に必要であり軍事的に可能であれば、核開発や人権蹂躙、こじつけて侵略行為を正当化する国があり、ロシアもその一つである、こうした認識は必要です。

 ジェベリンミサイルが威力を発揮している。ロシア軍のキエフ侵攻は予定より遅れているといわれ、これは実際、開戦二日で陥落の懸念を示したアメリカ国防総省の想定よりもウクライナ軍は善戦しています。泥将軍という、開戦が予定よりもアメリカの外交圧力により遅延した事で雪解けが始り泥濘による道路状況悪化とともに、このミサイルの威力が。

 ジャベリンは陸上自衛隊の01式軽対戦車誘導弾と同じ世代の画像認識方式携帯対戦車ミサイルです。射程は65mから2000m、市街地等で用いる目標にそのまま直撃するダイレクトモード、開けた地形では戦車の装甲が最も薄い上部部分を狙うトップアタックモードを選択でき、戦車がミサイル対策に装備する爆発反応装甲を無力化する複合弾頭を備えている。

 スティンガーという携帯地対空ミサイルが1979年のソ連軍アフガン侵攻に際してソ連軍ヘリコプターに絶大な威力を発揮しましたが、アフガンのスティンガー、ウクライナのジャベリン、というところでしょう。一方、予定は遅れていますがロシア軍は徐々に首都キエフに迫り、最悪の場合は300万都市での市街戦、第二次世界大戦以来の悪夢が待っている。

 国連安全保障理事会、ウクライナ侵攻を阻止する重要な国連での緊急会議では、ロシアの即時撤兵を求める安保理決議に対して、安保理常任理事国であるロシアが拒否権を行使し否決されました。国連憲章は常任理事国が侵略を行うところまでは想定していません。一方、キエフやハリコフといった大都市での市街戦は住民被害が大きく、人道危機といえる。

 日本の商船へミサイル命中、これはオデッサ港周辺を航行していた日興汽船の貨物船ナムラクイーン号に対するもので、穀物運搬に黒海を航行中、ロシア軍のミサイル攻撃を受け船尾部分が炎上しました。乗組員に負傷者が出ていますが、死者は幸い出ていません。ナムラクイーン号は自力航行が可能ということで、現在トルコに向けて航行中とのことです。

 ウクライナ有事では、ウクライナから帰国する邦人は、厳しいコロナ陰性証明が求められる事もあり、陰性証明がとれず出国できなかった等、邦人保護の観点でも厳しい状況があり、例えば海上警備行動、例えば邦人保護、ロシアと正面から対立する政治的な懸念もあるのでしょうが、主権国家の責務とは何なのか、こうした視点を考えてしまうのです。

 日本防衛について。今日のウクライナは未来の日本、こうした視座に依拠しまして、先ず今回のロシア軍侵攻に際して、日本国家への課題として、すぐにでも政治は防衛政策として具現化しなければならない教訓があります。本日はこの点を幾つか考えてみましょう。侵略の受け手、攻撃の主導権は相手にあります。すると、今回の教訓は非常に多いのです。

 緒戦の情報混乱は否めない、ウクライナ軍は指揮系統が麻痺しており、しかしロシア軍はウクライナの厳しい道路事情に渋滞しており、開戦から48時間では配備されたBCT大隊戦闘群の半分以下、概況からは推測も混じるのですが概算して三分の一程度しかウクライナへ越境していません、これは国際社会の平和の呼びかけが功を奏し、というのではない。

 26日のキエフ気温は6度、ウクライナの道路状況は非常に悪く、ロシア軍部隊は統一戦闘加入しようにも道路上を渋滞している、という実状があるのでしょう。1991年湾岸戦争では似た状況にあったイラク軍部隊が米軍に捕捉され、"ハイウェイ80の掃討"というAH-64戦闘ヘリコプターにより数十分で実に1500両もの車両が破壊される状況がありました。

 北海道など、本州での有事となれば国道12号線や国道40号線などが戦場となるのでしょうが、どのあたりに敵が展開しているのかを把握しなければ意味がありません。そこで、96式多目的誘導弾96MPMS後継装備は是非、現在運用している光ファイヴァー誘導方式からTV誘導方式に切り替え、情報収集にも使う徘徊式弾薬としての性能を要求してほしい。

 96MPMSは世界初の光ファイヴァー誘導方式ミサイルで、ドイツがポリフェムミサイルを開発中止したため、一時は異端児扱いでしたが、イスラエルがスパイクNLOSとして光ファイヴァー誘導方式を採用、日本周辺では韓国軍も採用しました。ともに射程が長い点が特色ですがスパイクNLOSは更なる射程を目指してTV誘導方式に切り替えた経緯がある。

 ミサイルと徘徊式弾薬は速度の面で特性が違いますので、弾体共通化は無理ならば同じ発射機からミサイルと徘徊式弾薬を併用できるようにしてもよい、例えば79式対舟艇対戦車誘導弾でも二種類の弾頭を自衛隊は運用しましたので、こうした器用な運用は前例があるのですからね。特科情報システム、火力戦闘システムと連接、観測任務にも応用できます。

 ロシア軍の攻撃は巡航ミサイル攻撃から開始される、これは冷戦時代のソ連群から長距離巡航ミサイルは装備されていましたが、格段に精度が上がっているという印象です。過去、シリア内戦へロシア軍が介入開始した際にカリブル巡航ミサイルによる攻撃から開戦となっていますが、この際には少なくない数のミサイルがシリアの目標からはずれました。

 カリブルミサイル、多少はずれるのは当たり前とおもわれるかもしれませんが、外れたのはシリアの目標からで、要するにシリアをねらったもののイランに着弾したものが少なからずあったのです。一発ならば誤射かもしれないという表現もあるようですが、一発や二発ではありません、今回はルーマニアやポーランドへは着弾していません。精度向上です。

 巡航ミサイル防衛。陸上自衛隊の11式短距離誘導弾システムや航空自衛隊の基地防衛システムには巡航ミサイル対処能力があります、しかし今回は第一撃にて150発以上が発射されており、例えば93式近距離地対空誘導弾システムの後継装備にも対処能力の付与がひつようと考えるのです、できればイスラエルのアイアンドーム並の即応弾が必要と考える。

 SEA-RAMやCIWSといった装備、アメリカ製の既存装備でも充分対応できますが、即応弾という点で4連装や8連装では心許ないものがあり、確実な命中を期するならばRAMのような21連発、アイアンドームは20連装発射機を3基で射撃中隊を編成しています。国産の地対空ミサイル開発技術は高く維持されていますので、要は要求仕様にあるのですね。

 巡航ミサイル防衛、これは北朝鮮によるミサイル開発でも必要性が指摘されているものですが、日本のミサイル防衛は弾道ミサイル防衛に重点が置かれ、2010年代には陸上自衛隊へ巡航ミサイル防衛を担わせる構想がありましたが、既存の高射群を拡大することなく、従来の戦術防空の付随任務に留まったまま、この状況を改め、対策とせねばなりません。

 飛行場や通信拠点と補給処、そして付け加える留意点で巡航ミサイル防衛は陸上自衛隊の任務というよりは航空自衛隊の手薄が目立ちます、補給処の置かれている基地に基地防空隊がありません、補正予算ででも先ず既存の地対空ミサイルを要求、備えるべきでしょう。カリブルミサイルは射程2400km、沿海州からも日本は射程内にある現実をみるべきです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キエフ包囲戦とロシア-NATO対立,冷戦後1990年代"蜜月時代"と2020年代の原点回帰

2022-02-26 14:10:33 | 国際・政治
■榛名備防録-回顧のポスト冷戦
 ウクライナのキエフがロシア軍に包囲されつつあり、黒海では日本の商船にミサイルが着弾、一昔ならばラニカイ号のように開戦の口実となるような緊張が続く。

 民放の時事情報番組、土曜日や日曜日と平日の午前中に放映されているもので、あれば大学教授や自衛隊OBが出ていてもバラエティとして考えなければならないので本来は聞き流すべきなのですが、テレビを点けたままにしていると耳に入ってくるものが在りまして、番組名は控えるが、つくば大学教授が今“ロシアをNATOに加盟させ解決”という案を。

 NATOの東方拡大、今回のウクライナ有事は、その背景に冷戦終結後の東欧諸国へのNATO加盟拡大がロシアへ脅威を与えている点が指摘されています。ロシアのプーチン大統領やラブロフ外相が繰り返しウクライナのNATO加盟拒否を明文化するようNATOや主要加盟国政府に要求したが、加盟は主権国家の権利として聞き入れられなかった構図があります。

 ロシアNATO加盟。しかし実はNATOは1990年代にロシアを加盟させようという動きがあり、NATOとロシアの決定的対立は、仮にロシアがエリツィン政権時代にNATOへ加盟していたならば、ここまで関係は悪化しなかったのかもしれません。もっとも、ロシアは2007年までNATOオブザーバー国となっていますので、現実味は当時こそありました。

 それでは、いまNATOに加盟させることで解決はできないのか。こういう論点は一応あるようです、が、そのためにはNATOを相当変革しなければ対応できないでしょう。具体的にはNATOは加盟国軍隊を上級指揮官が指揮できるよう共通言語が英語となっていますし、装備品も相互に融通が利くよう可能な限り共通化され、弾薬は共通化されるのがNATOだ。

 指揮系統へ英語の標準語、これは極端な話ですが米軍ストライカー諸兵科連合大隊の大隊長が負傷して後送され、まわりに米軍指揮官はいないがドイツ軍の中佐が居た場合、ドイツ軍中佐が米軍大隊を指揮できるようになっています。また、来日したオランダのフリゲイトですが艦載機がベルギー軍機で艦長はオランダ人だが副長がベルギー人ということも。

 NATO弾という単語がありますが、装備の共通化もNATOは7.62mmNATO弾とカラシニコフ銃としてゆうめいなAK-47は7.62mmで一見同じですが、NATO弾は7.62×51mmに対してAK-47は7.62×39mmで弾薬互換性はありません、野砲はNATOが155mmに対してロシアは152mm、戦車砲弾は120mmと125mmで、いまさら標準化はできません。

 冷戦後、ロシア軍は幾度か西側装備に関心を示しました、ロシア軍が現在ウクライナで使用しているティーグル軽装甲車はイタリアのイヴェコLMVの影響を、というよりも一時期ロシア軍はチェンタウロ戦車駆逐車採用を考えていましたし、驚くべき事ですが戦車でもドイツ統合で余剰となったレオパルド2A4戦車中古に関心を寄せていた時代もありました。

 チューヌルイオリヨールという、ロシア軍はソ連製T-72戦車が1991年湾岸戦争で輸出型とはいえまったくアメリカ製M-1A1戦車やイギリスのチャレンジャー戦車に対抗できず完敗したことで国産戦車開発を試みるも全く刷新した世代交代ができず、そこでいっそのこと中古のレオパルド2A4をという声が、NATOオブザーバー国時代にはあったのです。

 変革することで可能なのかもしれませんが、NATOは欧州連合軍司令部という指揮系統下にあり、冷戦時代には欧州連合軍司令官はアメリカ人で副司令官はドイツ人という系統が確立していたのですが、ロシアの妥協を得るには、ロシア軍全軍が指揮下に置かれることへの納得、欧州連合軍司令官を持ち回りでロシア軍とせねば、現段階では妥協は難しい。

 ロシアが納得するNATO改革はローマ帝国方式かもしれません、ブリュッセルのNATO司令部から極東を含めたNATOの指揮は現実的ではないので、NATOを東西に分割し、西欧連合軍司令部と東欧連合軍司令部に分け、そしてロシア軍もNATOに参加するが、その司令部はポーランドのワルシャワに置き、ソ連崩壊後に参加したNATO加盟国を隷下に。

 ブダペスト合意として、冷戦後NATOの東方拡大を行わないとした合意が反故にされたとロシアは憤っているのですから、ローマ帝国が東西に分裂したように西NATOと東NATOに切り替えよう。こうした提案ならば乗ってくるかもしれません。おそらく名称は司令部の立地からワルシャワ条約機構になることでしょうが。これくらいしないとロシアは拒む。

 ロシア軍はそののちに、東欧のポーランドとルーマニアに配備されたイージスアショアをロシア本土へ移設するので技術情報開示を要求してくるでしょうし、合同演習としてチェコやルーマニアへの長期駐留を要求してくるかもしれません、不都合になれば、脱退して今回のウクライナのようなことを行えばよい、利用できる範囲でNATOを利用するもの。

 目に見えているのですね、こうした破綻は。ロシアとNATOの不協和音は2007年のミサイル防衛システム東欧配備ですので、今回のウクライナ有事は、東欧のイージスアショア廃棄をもとめて、またBCT大隊戦闘群を100個集めてくるかもしれませんし、カリーニングラード防衛へバルト三国が核開発をしていると発言するのかもしれません。今回の様に。

 妥協できない水準、ロシアをNATOに加盟させようという発言は、驚いたのは安全保障系研究者から示されていることで驚きました。しかし、対立の根底が根深いのですから1990年代にでた議論を2020年代に示すのは、日本の真珠湾攻撃後に日米同盟を結んで危機を乗り越えよう、と提言するに等しい現実無視の論点ということとなります。現実を見よう。

 ロシアがNATO加盟を目指した時代もありましたが、それは1990年代の話であり、2000年代に関係悪化が始まり2010年代にロシアの軍事力が回復し、ある程度の作戦は行えるようになった、そして2020年代には大規模作戦を短期間で成功させることができるようになった、という点なのですね。当たり前ですが1990年代の感覚で2020年代は、語れません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする