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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

富士重工戦闘ヘリコプター訴訟、東京高裁が国に損失分350億円の支払い命令

2015-01-29 23:00:00 | 防衛・安全保障
◆AH-64D戦闘ヘリコプター生産基盤費用
 東京高裁は本日の判決で国から富士重工へ350億円の支払いを命じました。

 62機の調達を計画し、13機に突如修正、62機分に分散する生産基盤整備費用は支払わない、この姿勢に対し生産ラインを整備するために国が支払うべき費用はしっかりと支払ってもらわなければ私企業として成り立たない、富士重工AH-64D戦闘ヘリコプター訴訟は、このように始まりました。陸上自衛隊は96機を導入しましたAH-1S対戦車ヘリコプターの後継機としてAH-64D戦闘ヘリコプターの導入を決定、アメリカボーイング社製ヘリコプターを日本国内の富士重工へライセンス生産させることとし、AH-64D戦闘ヘリコプター62機を配備し5個飛行隊と教育所要へ充てる方針を示します。

 日本国ににおいてライセンス生産を行う背景には、直輸入の場合は定期整備などにおいて予備部品が必要となた場合、到着まで数か月から最長で数年間が必要となり、その間に機体が部品待ちとして飛行不能となります。条件にもよりますが、直輸入の場合、NATOのように域内で部品集積地を配置しない場合は半分程度に稼働率が落ちてしまい、必要な稼動機が50機であった場合は100機を買わなければなりません。しかし国内でライセンス生産し、予備部品をすぐに発注し供給を受けられる体制を構築しておけば、例えば戦闘機の場合九割程度の稼働率を維持でき、ここにライセンス生産の意味を見出す事が出来るでしょう。

 しかし、ライセンス生産を行うためには生産基盤、生産に必要な部品を調達するための治具を購入しなければなりませんし、ライセンス生産が認められない部品などは直輸入しなければなりません。自衛隊は毎年数機づつ十数年をかけて調達しますので、それまでに直輸入では生産元が生産終了してしまう可能性が高く、富士重工ではこういった状況を回避するため62機分の部品を取得しました。仮に毎年数機づつ防衛省が要求したとしても毎年富士重工が数機づつボーイングへ要求していても、部品が到着するまで下手をすれば数年を要し、場合によっては所謂絶版もありえるので、一括発注しか方法はありません。

 こうした費用は防衛省が最初に予算を計上して支払うのが真っ当なのですが、防衛予算の上限が厳しく、この必要な数百億円の費用を62機に分散して支払うこととしたのですが、AH-64Dの一機当たりの費用が防衛予算の限界と弾道ミサイル防衛などの諸政策へ新しい負担を強いられる状況下では捻出できなくなり、13機で調達を終了することとしました。弾道ミサイル防衛だけで一兆円以上の費用を要し、しわ寄せの一つが戦闘ヘリコプターに押し寄せた形ですが、毎年1機2機と調達数は少なすぎたため、富士重工の生産ライン維持費などが価格に上乗せされ、より高くなる悪循環です。

 毎年5~6機は調達しなければ非効率なのですがその予算を捻出できず、11機調達したところでボーイング社が改良型のAH-64Eを開発、この時点では仕様変更で絶版になりAH-64Dが買えなくなるところを富士重工が部品を先に調達していてくれたので間に合った、と思うところなのですが自衛隊はE型の開発でD型を旧式とした意見も生じ、もともと自衛隊の調達したD型はE型に近い空対空戦能力付与など高性能仕様ですので言掛りとも思えるのですが、ここで一説には500億円近い損失が出た富士重工は、いわば特別仕様の建売住宅を施工中に引渡直前でキャンセルされるようなもの、補填してもらわねばなりません。国も2機を追加発注するなど和解を模索しましたが、生産ラインを何年も放置してはその分の補てんを何処から受けるのかも問題となるため、そして2010年1月に富士重工は国を提訴した、ということ。

 東京高裁の判決は、これが認められたもので、第一審の東京地裁では富士重工の訴えを棄却しましたが、二審の東京高裁は、元々最初に支払うべきものを国が予算の限界などから富士重工の厚意に頼っていたもので、これにより生じた損失は補填されなければならない、というもの。契約上の立場を利用し不利な契約を迫ると共に損失や一方的な契約破棄を行い損失を補てんしないという姿勢、民間企業で同様の行為を行えば下請法に違反し、これを国が行おうとしたのですから、ある種当然の判決、というもの。

 しかし、防衛省は富士重工という重要な防衛産業を自分で手放してしまいました。富士重工はUH-1多用途ヘリコプターをB型からH型にJ型と生産し続け、機体要因の事故が皆無という高い信頼性を誇りますし、AH-1S戦闘ヘリコプターのライセンス生産も痰と医師、高い稼働率を誇ってきました。この関係が係争状態となって以降、富士重工側がUH-1Jの一括調達終了後に追加発注の有無を打診したところを無視したことでUH-1Jが生産終了、今日のUH-X選定難航に繋がっているという防衛政策上の大きな失策と言わざるを得ません。加えて更にベル社と富士重工の関係性を無視してボーイング社製AH-64Dを採用しライセンス生産を行ったことで、ベル社と富士重工の関係が悪化しAH-1Zを富士重工で生産する事が難しくなり、AH-1S後継機選定はAH-64EかEC-665くらいしか無くなってしまったため、余りに影響は大きすぎました。

 このほか、250機の調達計画を立てつつ30機少々の生産に終わった川崎重工製OH-1や150機程度を導入し多用途ヘリコプターを一新するべく三菱重工がライセンス生産を実施しているUH-60JAなど、陸上自衛隊の航空機調達計画は、2000年代初頭に北朝鮮ミサイル危機w契機として日本本土を狙う弾道ミサイルを迎撃可能な体制を構築する必要が生じ、弾道ミサイル防衛が新しい自衛隊の任務に加わったころから調達計画に歪が生じています。財務省が予算を認めないためだ、という非難もあり得るかもしれませんが、防衛当局である防衛省が現行予算では不可能として予算増額を要請しなかった不作為の責任もあります。調達計画を立てた以上は責任を以て調達すべきで、この当然の判断が交際により下されたといえるでしょう。

北大路機関:はるな
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