北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:グレーゾーン事態を考える① 中国機異常接近事案と衝突事故の懸念

2014-05-29 23:52:15 | 国際・政治

◆救難航空部隊妨害攻撃への自衛権行使

 政府は平時と有事の境界線にあたるグレーゾーン事態に対する自衛隊の行動検討を開始しました。

Gzimg_1121  グレーゾーン事態対処、自衛隊の出動と言えば、自衛隊法第七十六条に基づく防衛出動、自衛隊法第七十八条に基づく治安出動、自衛隊法第八十三条第二項に基づく災害派遣、自衛隊法八十二条に基づく弾道ミサイル等破壊措置命令や海上警備行動、等が挙げられますが、これ以外の状況を想定したもの。

Img_6543 グレーゾーン事態は平時であっても有事に準じた緊張状態が展開している状況を想定しており、言い換えるならば放置すれば有事に展開する可能性がある危機的状況を意味します。現行の自衛隊法では有事に展開するのを待たねば武力攻撃事態と認定出来ませんでしたが、武力紛争の勃発を放置する現行法は我が国のみならず諸国民の利益となりません。

Img_6654p  グレーゾーン事態ですが、幾つかの検討が為されており武装漁民を装った非正規部隊の浸透等が検討されているのでは、と考えられます。一方で、東シナ海海上で24日に発生した中国戦闘機異常接近事案について、こうした事案が繰り返され、空中で航空機同士の衝突事故が発生した場合を想定する必要はないでしょうか。

Img_0057_1 中国機の異常接近事案は中国国防省が問題なしと会見し、中国外務省筋の情報として現場が暴走したと報じられたところは先日掲載した通りで、再発防止措置を採らないことを明言したわけですから今後も繰り返される可能性があります。そして、中国は2001年に海南島事件として米軍機へ挑発を行った戦闘機が衝突し墜落する事案が発生しています。

Abimg_8835 仮に中国機が挑発を行い、その結果中国機が自衛隊着や米軍機、もしくは民間機などと衝突した場合、どう対応するのでしょうか。通常の航空機事故であれば、航空自衛隊の航空救難団や海上自衛隊の救難航空隊が対応することとなります。事故が公海上で、特に我が国防空識別圏内と中国が主張する防空識別圏と重複する空域で発生した場合、どうなるのでしょうか。

Eimg_2500 この防空識別圏と中国が昨年重複させた防空識別圏は、中国軍が救難ヘリコプターとして運用するSA-321シュペルフルロンのコピー機では往復が限界で救難飛行は厳しい状況があります。更に中国軍は救難機に当たる航空機が少なく、海洋監視機に頼る事となるでしょう。結果、飛行計画が提示されなければ那覇基地から航空自衛隊がスクランブルを掛ける要件を満たし行動することとなるわけです。

Img_4994   また、日本側の救難ヘリコプターの行動に対し、異常接近などの妨害を行うことは、仮にこうした事案が先日発生した異常接近事案の繰り返しにより生じた際には当然考えられ、この場合、救難航空任務をどう展開するのか、航空救難が妨害される想定を何処まで考え対応するのかの準備が必要となります。

Himg_3633 グレーゾーン事態は、放置すれば有事に展開する状況下での封じ込めを企図するものですから、絶対航空優勢を確保する航空撃滅戦を期し、例えば早期警戒管制機と戦闘空中哨戒を組み合わせ、敵空中警戒部隊を撃破し情報優勢を採ったのちに一気呵成に戦闘機部隊を無力化する、という選択肢は、少なくとも平時である限り執る事は出来ません。

Himg_3314 戦闘機部隊を展開させ、防空識別圏内において戦闘空中哨戒を実施しつつ、その支援下で航空救難任務を展開する、という方法が一つ考えられるところですが、この場合の武器使用基準や交戦規則をどのように考えるのか、グレーゾーン事態に合わせた対応を検討しなければなりません。

Img_0356 交戦規則、特に想定される状況では対領空侵犯措置任務で携行する短射程空対空ミサイルだけでは不十分で、中射程空対空誘導弾の装備が必要となりますし、何よりも交戦規則を明示し行動を限定列挙として可能な事のみ明示し縛るのではなく、制限列挙として不可な事例のみ、例えば策源地攻撃を禁じる等、明示し行動を確保するよう対応しなければなりません。

Img_5989 現場に責任を押し付ける旧軍のような構造に陥らないためにも限定列挙では無く制限列挙とする交戦規則を明示する必要があり、特に衝突事故の発生という現段階の中国機の行動を見る限り充分想定される事態を、どう武力紛争、所謂戦争状態に陥らないよう対処するか、重要な課題と言えるでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (5)
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