北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

次期装甲車、平時長距離機動能力か有事高度戦術機動能力か難しい取捨選択

2014-05-06 23:49:10 | 防衛・安全保障

◆鉄道輸送・艦船輸送の比重強化も必要

 技術研究本部装輪装甲車改(96式装輪装甲車後継)、前回の話題をもう少し。

Uimg_1295 技術研究本部装輪装甲車改(96式装輪装甲車後継)は、8輪式構造を採る、とした以外大まかな仕様などは明示されていませんが、この上で現在特に開発が進められている装備を見ますと陸上自衛隊の装備車輪装甲車体系は大きな転換点を迎えている、ということが言えるかもしれません。

Kimg_3586 最たるものは、道路運送車両法車両限界というこれまでの陸上自衛隊装備体系に大きな制約を与えてきた車幅の限界を、機動戦闘車が大きく超越している、というところです。例えば87式偵察警戒車等、重心を大きく上にとった結果、不整地での運用に相当注意を要する車両となっていますし、車輪などにも設計上の制約が大きいものでした。

Img_9346 道路運送車両法の車幅は2.5m、これを越えますと国道によっては平常運転の場合でも中央線を逸脱する可能性が生じ、その輸送には所轄警察署長の許可や運転時間を夜間とするなど、平時には物凄い制約がつき、故に一見巨大な03式中距離地対空誘導弾等も車幅を2.5mへ抑えてきた、という実情があります。

File0134  自分が訓練運用幹部の立場になって考えてみたらどうか、大型車両を導入して平時の運用に制約が大きくなれば、駐屯地内での訓練を除き、車両が訓練場や演習場に移動するだけで大きな時間制約、数日単位で見込まなければならなくなるようでは年次訓練計画の画定が非常に不透明なものとなる。

Dimg_8620 2.5m、多少逸脱しても大丈夫そうに思え、事実車幅に余裕ある道路は2.5m超の車両が対向することが可能な区画もあります。しかし、車幅2.49mn10tトラック/74式特大トラックを基本とする81式自走架柱橋等が、名古屋市内や京都市内のかた側一車線道路を走行してる様子をみますと、0.5m大きな3.0m級車両が通行することが記念な道路は多々あることを痛感させるもの。

Simg_3811 有事の際であれば車幅が大きい戦車であっても、武力攻撃事態法に基づき一般車両へ大規模な交通規制を掛け、部隊機動の路上に対向車を入れないことで対応でき、例えば東日本大震災の際には高速道路を広範に緊急車両専用路として確保し、輸送を達成していることをご記憶の方も多いでしょう。

Iimg_6166 有事の輸送はそれで対応できるとしまして、問題なのは大型装甲車両を広範に配備した場合、平時の訓練機動が大変です。都市圏としまして、札幌の真駒内や仙台の仙台と霞目、東京の練馬や名古屋の守山、京都は桂、大阪では信太山に伊丹や千僧、福岡は福岡と久留米等、大規模な部隊の駐屯する駐屯地は多い。

Iimg_2584 東京や大阪に京都で朝と夕があの時間帯だけ、自衛隊がぶち機動のために大規模な交通規制を張ることが出来るかと言えば、慢性的な渋滞を起こす地域に自衛隊車両を展開させる目的で交通規制を行うことは現実的ではなく、さりとて車幅が大きいことを承知で無理に一般道を装甲させ、事故が発生すればおおきな批判を集めるでしょう。

Iimg_2946 このため、車幅が大きい戦車部隊等は演習場に隣接した駐屯地を構え、一般道を極力使用しない体制を採っています。それならば都市部の駐屯地を引き払い、演習場近傍に部隊を集約させれ美ではないか、という視点はあるかも入れませんが、演習場近傍でも大部隊を支えるインフラが未整備な地域は意外とあり、くわえて周辺部に部隊を集約させる駐屯地建設の土地も十分ではない現実があります。

Img_6243 自衛隊車両のみを特別に車幅制限を排し、警戒車両を各車両の前方に配置するなどして安全策をはかり通航させる事は出来ないか、と問われるかもしれませんが、そもそも2.5m規制にもっとも悩んでいるのは船便長物コンテナを2.5mの車幅で輸送しなければならない物流業界を差し置いて実施する事は出来ないところ。

Gimg_9356  ISO規格コンテナは20フィートコンテナ規格で幅は8フィート (2438mm)、これを2.5m幅の車両で輸送するのですから縦深に偏重があるコンテナの場合、時速15km程度の低速で一般道を走行している場合でも、条件によっては簡単に横転し、並走する乗用車を押し潰す等の大事故につながっており、平時に人命が掛かっているだけにこちらを優先できないというのもまた難しい。

Img_0208 すると、新装甲車は、平時における駐屯地と演習場間の移動を全面的に制約を受けるという前提で車幅の大きな車両を採用し、有事の際の防居地突破能力確保と防御力強化を重視するのか、平時における十分な訓練確保を行うべく車幅を道路運送車両法に抑えるのか、が重要となってきます。

Img_1476 車幅の問題は思った以上に深刻で2012年に滋賀県饗庭野演習場で実施された米陸軍ストライカー装甲車を用いての日米合同演習オリエントシールド2012では、ストライカー装甲車の車幅が2.72mと特大貨物扱いとなるため、部隊は横浜港へ到着すると専用の輸送車に搭載され、深夜輸送車を用いて滋賀県まで展開しました。

Aimg_2525 ストライカーの場合は車はばが大きすぎ、路上を高速機動できる装甲車でも、昼間平時は動かせず深夜に輸送車で運ぶ、ということを強いられたわけです。それでは、同じ轍を踏まないようにするには、不整地突破能力や防御力に制約が掛かるという実情とともに、車幅を抑えるほか、選択肢は無いのでしょうか。

Gimg_8535 選択肢としては、鉄道貨物輸送であれば車幅3.0mまでの輸送が可能ですので、こちらを重視してみるという選択肢はあるかもしれません。演習場近くの地上路線に特種貨物駅を配置し、駐屯地近傍の線路付近に特種貨物駅を配置、輸送費はかかりますが恒常的に鉄道輸送を活用する、という方法は考えられるところです。

Img_6525 もっとも、装甲車両等を迅速に搭載できる貨車は限られていますので、専用の貨車を整備する必要があり、JR貨物に対しどの程度の総需要を示すかにより、新しい貨車の負担者が変わってきます。他方、貨物駅と駐屯地や演習場の自走区画ですが、この部分だけは、恒常的に戦車が公道を走る千歳市のように、自治体の協力を受け、道路整備費を一部負担する代わりにHPに戦車交通情報を公開し、市民へ協力を促すことが出来るでしょう。

Gimg_5767  このほか、船舶による輸送も、今以上に重視する必要は出てくるかもしれません。現在も普通に民間旅客用のカーフェリーへ一般客とともに自衛隊車両が利用し北海道などへの射撃訓練展開は、協同転地演習やそれ以外の年次射撃訓練で実施されています。これを拡大することは考えられるかもしれません。

Img_10260 特に民間船ではなく、陸上自衛隊が専用船を確保する、検討されているようでチャーター方式ではすでに実施されているものですが、拡大すれば、駐屯地近傍の港湾から部隊を乗船させ、演習場近傍の港湾まで輸送し、大型装甲車両を運用したさいの交通規制の必要区画を最小限とする方策も考えられます。

Img_2375 大型の装甲車を導入しますと、平時運用には大きな制約が付きます、が、有事運用に際しては不整地突破能力や防御力で大きな利点があるため、大型車両であっても輸送への努力と必要な予算措置を講じたならば十分対応できるものとなります。その予算が無いのが難点ですが、技術研究本部装輪装甲車改(96式装輪装甲車後継)、車幅がどうなるか興味が涌くところです。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする