◆防衛省、平成23年度緊急発進実施状況を発表
防衛省は昨年度に当たる平成23年度の航空自衛隊対領空侵犯措置任務緊急発進の実施状況を発表しました。
対領空侵犯措置任務は、国籍不明機が全国に配置されている防空監視所のレーダーに確認され、我が国領空へ接近した場合、領空から一定の距離を隔てて設定されている防空識別圏を基点とし、領空侵犯を抑止するために発進命令が全国の航空方円隊より発動、全ての戦闘機基地には五分待機の戦闘機が搭乗員と整備員と共に24時間体制で備えており、全国の基地より戦闘機を緊急発進させ、警告を行う任務です。
緊急発進へは航空自衛隊戦闘機には空対空ミサイルや機関砲弾を搭載し、任務に当たっています。写真は訓練展示における模擬弾ですが、対領空侵犯措置任務には実弾が即応して発射できる態勢をとり任務に当たっています。相手は戦闘機であれば超音速飛行が可能でもあり、文字通り寸秒を争う緊張の連続となるもの。
この緊急発進ですが、平成23年度の実施回数は425回、この回数は22年度386回、21年度299回、20年度237回と急増する傾向にあります。緊急発進のピークは東西冷戦が激しい1984年の944回で毎日数回の平均値で戦闘機が緊急発進を行っていました。これはソ連崩壊の1991年まで800回以上という水準で推移していましたが、冷戦時代終結後には150~200回という水準で推移していたのに対し、ここ数年不気味に上昇し続けています。
緊急発進の回数は1968年の小笠原返還と1972年の沖縄返還ののち、1970年代半ばから急激に増加へと転じましたが、それ以前の水準で見ますと300回の水準にあり、米空軍から任務の移管を受け対領空侵犯措置任務を開始した1958年から1975年までの間、400回を超えたのは1967年の一年間のみ、その時が425回でした。
最も緊迫しているのは那覇基地。航空自衛隊は、北日本においてロシアに向き合う北部航空方面隊の戦闘機四個飛行隊、首都防空を担いつつ日本海側からの侵攻に備える中部航空方面隊の戦闘機四個飛行隊、朝鮮半島情勢を睨みつつ九州全域の防空を担う西部航空方面隊の戦闘機三個飛行隊、そして沖縄南西諸島を一個飛行隊により防空する南西方面航空混成団が任務に当たっていますが、件数は南西方面航空混成団が最大だったのです。
回数の概要は、北部航空方面隊158件、中部航空方面隊54件、西部航空方面隊47件、南西方面航空混成団166件。平成20年度までは南西方面航空混成団の緊急発進件数は40回程度で中部航空方面隊と同程度の回数であったのですが、平成21年度から一挙に100件を超え、中部航空方面隊と西部航空方面隊の同数に匹敵もしくは凌駕する規模となり、今年、北部航空方面隊の緊急発進回数を凌駕しました。
緊急発進回数における各国の内訳は、ロシア機に対するもの247件、中国機に対するもの156件、台湾機に対するもの5件、北朝鮮機に対するもの0件、その他の国籍機に対するもの17件となっています。最大勢力はロシア機に対する緊急発進ですが、中国機に対する緊急発進は156件。ロシア機の全体に占める規模は例年と同程度ながら中国機による割合は急増傾向と言わざるを得ません。
中国機によるもの156件ですが、19年度では43件、20年度31件、21件38年と推移している一方で22年度には96件と急増、こうした上での23年度の中国機への対領空侵犯措置任務が23年度、初めて百件を凌駕し、一挙に156件と増大したわけです。五年前と比べればどれだけ増大したか、ということがこの数字から読み取れるように思います。
特に重要なのは、南西方面航空混成団には一個飛行隊の戦闘機が配備されているのみであり、一個飛行隊で北部航空方面隊四個飛行隊と並ぶ負担を受けているわけです。これも、我が国の防空体制は主として北方からのロシア機の侵攻に備えたもの、現在の南西方面航空混成団が編成された当時では中国空軍に戦闘行動半径として沖縄まで飛行できる機体が皆無であったことに起因しているということを忘れてはなりません。
しかし、他の航空方面隊から引き抜くとしても、ロシア機の多きは中国機とは異なり長距離飛行を行い日本海沿岸に沿って京阪神地区近くまで、太平洋沿岸に沿って京浜地区沖合まで進出する事例があることから、首都防空を二個飛行隊に充てることが必要性もあり、日本海方面は朝鮮半島北部の情勢が悪化した場合には緊張を正面から受ける事となってしまうこともあり、ひき抜くことも難しく、当面は機動運用による抑止力に依存するほかないのでしょう。
西部方面航空隊としても、元々この地域の防空は朝鮮半島情勢の激化を想定して重視したものであり、過去の演習想定は1960年代までは朝鮮半島情勢が激化し、九州地区北部への影響が増大することを対処するという視点であったようです。こうしますと、引き抜ける飛行隊は、日本海の北朝鮮への備えを引き抜くか、首都防空を縮小するか、九州南部の防空を北部に統一して展開させるか、どれも難しい。
なお、沖縄方面への接近ですが、日中間の摩擦となっている先島諸島方面への直接の接近は非常に少なく、九州西方空域から南下し沖縄本島近くで大陸へ反転するという経路となっています。これは先島諸島への最短進路をとった場合、台湾空軍の警戒を買うことが背景にあるのでしょう。言い換えれば先島諸島防衛と台湾海峡の安全はそのまま我が国の防衛にかかわっている重大事案ともいえるかもしれません。
唯一楽観的な要素は中国機による航空機の進出は主として情報収集機によるもので、接近も防空識別圏ぎりぎりに飛行させるという己で、件数は増大していますが早期警戒機や超音速爆撃機などを進出させ、日本列島を一周させる長距離飛行を行うロシア軍機と比べ、脅威度合では北部航空方面隊と比べた場合、楽観的な要素があります。もっとも、回数が多いということは機体の稼働数に影響が生じてしまうことは忘れてはならないのですが。
こう考えますと、戦闘機数が充分であるのか、また那覇基地一か所だけという南西方面航空混成団の基地ですが、弾道弾射程外である沖縄本島に必要ではないでしょうか。冷戦構造終結後、緊急発進の回数減少に伴い航空自衛隊の戦闘機定数は縮減を続けてきましたが、現状の戦闘機定数で十分な防空態勢を維持できるのか、というところは一層慎重に検討されるべきでしょう。
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