◆第15旅団2100名を支援、まもなく撤収完了
南西諸島の防衛について、陸上自衛隊は沖縄に第15旅団を配置していますが、その全部隊が沖縄本島に駐屯、離島地域の防衛への不安が指摘されていた中、北朝鮮弾道ミサイル事案はここを狙い撃ちしたかたちとなりました。
こうしたなかで、沖縄救援隊が編成され派遣され、現在は撤収が進んでいることは幾度も記載しましたが、自衛隊の北朝鮮弾道ミサイル事案へ、陸上自衛隊の展開規模が自衛隊の機関紙という位置づけにある朝雲新聞に掲載されていました。それによれば、陸上自衛隊による沖縄救援隊は900名と、対馬警備隊やかつてのイラク派遣部隊の規模を上回り、師団一個普通科連隊に近い規模の部隊が展開していたとのことで、沖縄を防衛警備管区として任務にあたる第15旅団の規模を考えた場合、実任務として、災害派遣を除けば非常に稀有な派遣であることがわかりました。
弾道ミサイルの沖縄県上空通過予告を受け、陸上自衛隊は田中防衛大臣によるミサイル破壊命令を発令すると共に陸上自衛隊は沖縄救援隊を編成、石垣島、宮古島、沖縄本島へ増援部隊を派遣した、という報道は繰り返し行われていますが、朝雲新聞による内訳では、石垣島へ450名、宮古島に200名、沖縄本島へ200名、与那国島へ50名の部隊を派遣していたとのことです。
沖縄救援隊の任務は破片落下事案が発生した場合に、迅速な災害派遣任務への移行を行うことを主眼に実施したものとされますが、航空自衛隊のペトリオットミサイルPAC-3部隊が展開した石垣島新港地区では警戒に当たる高機動車が報道されており、実質的に航空自衛隊の警護任務も合わせて実施していたことは考えられるでしょう。
この中で、石垣島へ展開した450名は、派遣規模としてはかなりの規模ということが出来ます。例えば第四師団隷下にあり対馬の島嶼部警備を担う対馬警備隊は350名、本部中隊と普通科中隊に後方支援隊を併せて今回石垣島へ派遣された規模よりも少ない編制となっています。化学防護小隊が第八師団から派遣されていますが、規模としては80名とされ、施設科部隊や普通科部隊など、その他の部隊が比率として大きいことが見えてくるのではないでしょうか。
また、宮古島は航空自衛隊の第53警戒隊が運用するレーダーサイトが配置され、ペトリオットミサイルも今回この分屯基地に配置されたのですが、この宮古島へも一個普通科中隊に匹敵する200名が派遣されています。石垣島との規模の違いは、警戒隊に警備小隊があり、石垣島新港と異なりミサイルをゲリラコマンドーの攻撃から防護できる土盛や人員用掩体など基地施設があったことが背景にあると考えます。
派遣地域で最も特筆すべきは、与那国島へ50名の部隊が派遣されていることです。与那国島は日本列島の西端にあり、特に台湾との距離が近く飛行場を有することから台湾有事に際して、中国からの侵攻を受ける可能性があり、陸上自衛隊では沿岸監視隊の配置を準備している最前線です。ここへ迅速に部隊を配置できたということは、非常に大きな意味があるといえるやもしれません。
900名という規模。沖縄全域を防衛警備管区とする第15旅団の規模も2100名であり、第15旅団は沖縄県という在日米軍施設の集中を背景に独自の防空能力を持つ必要があり、此処で本来は方面隊直轄の高射部隊が運用する射程が比較的長い戦術防空用のホークミサイルを第6高射特科群として運用しているため、普通科や施設科部隊の規模は小さいという実情があり、この点は以前から課題であると一部識者からは指摘されていました。
第15旅団は、第1混成団を拡大改編し誕生した旅団ですが、普通科連隊は第51普通科連隊の一個のみとなっているのです。これは例えば第2混成団を改編して誕生した四国の第14旅団は普通科連隊二個を基幹とし、その他旅団も三個乃至四個の普通科連隊を基幹としているのに対し、一個普通科連隊だけを基幹としていること、規模が小さいということが端的に表れているわけです。
旅団普通科連隊は人員規模が師団普通科連隊よりも少なく、連隊本部と本部管理中隊に三個普通科中隊を基幹とした700名程度とされています。このため、今回派遣された900名規模の沖縄救援隊は、この旅団一個普通科連隊を大きく上回るものだといえるところ。
陸上自衛隊では南西諸島への緊張が切迫した場合に、このように緊急展開部隊を編成し投入するという姿勢はかねてより運用研究を重ね、協同転地演習などにより実動訓練も行ってきたのですが、ミサイル実験予告から僅かの期間にこれだけの規模の部隊を送り込んだということは、驚きの一言に尽きます。
特に沖縄本島では自衛隊の迎撃任務への反対機運が破壊命令発表からしばらくして街頭抗議などで表面化しましたが、対して領域での脅威を直接受けている島嶼部では配備は理解と賛同を得て進み、石垣島、宮古島、与那国島という特に防衛上の要衝となっている地域での配備が迅速に進められたということも特筆すべきでしょう。今回の事案、緊張に際して迅速に任務を遂行する能力の明示、我が国の抑止力が画餅や屏風ではないことを示した、一つの事例となるのでしょうね。
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