北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

列島防空体制固まる 北朝鮮弾道ミサイル事案、明日から発射予告期間へ

2012-04-11 23:56:21 | 防衛・安全保障

◆4月12日から五日間以内に発射を予告

 明日から北朝鮮が発表した弾道ミサイル実験実施期間に入りますが、防衛省自衛隊はミサイル破壊命令を受け、先週までに部隊の展開を完了しました。

Mimg_6844_2 ミサイル発射の期間は12日から五日間。自衛隊は警戒を強めねばなりません。北朝鮮北西部東倉里では燃料注入を開始しており、すでに完了したとの報道もあります。発射場発射実験と天候ですが、偵察衛星や早期警戒に当たるDSP衛星から一瞬でも欺瞞を期して曇天時に発射を行う可能性は充分あるからです。

Mimg_2708 海上自衛隊は日本領域へ落下する場合に際しては、最初の防衛を受け持ちます。イージス艦こんごう、きりしま、ちょうかい、の三隻は射程1000kmを超えるスタンダードSM-3を搭載し、東シナ海へ展開、発表こそされていませんが、全てのイージス艦にはイージス艦のSPY-1レーダーが上空へ集中する期間の防空能力補完へ護衛艦が直衛についていることでしょう。

Dimg_0709 また、これは推測ですが海上自衛隊は電子情報収集機EP-3を洋上へ進出させ、公海上から通信量や電子情報等を通じた発射兆候の警戒に当たっていることが考えられますし、通常のP-3C哨戒機も通常の哨戒飛行を強化するという形で警戒任務に当たっていることが考えられます。

Img_4967 護衛艦の哨戒も強化されているでしょう。1993年のノドンミサイル発射実験では、日本海中央部まで北朝鮮海軍のラジン級フリゲイトの進出がP-3C哨戒機により確認され、実験の評価試験を実施したと推測されました。外電が伝えるところではミゼットサブであるサンオ級潜水艦数隻が日本海側の基地を出港しているという情報もあり、海上警備行動へ発展する可能性も否定できません。

Mimg_92381 このほか、2009年のミサイル実験では、期間中に舞鶴基地が一般公開されていたため足を運んだところ、護衛艦と掃海艇が緊急出港準備を行っていました。特に落下物が確認された場合には回収を行うべく、今回も近海への落下に備え、勝連基地や佐世保基地では掃海艇が待機しているでしょう。

Mimg_5643 航空自衛隊は、日本領域へ落下する弾道弾を防護する第二の、そして最後の盾となります。沖縄本島の二か所、石垣島、宮古島へペトリオットミサイルPAC-3を展開させました。射程は13~15km程度、本来は米陸軍が実戦配備を開始したより長射程200kmのTHAADを配備が望ましいのですが。

Mimg_4334 加えて首都圏でも防衛省市ヶ谷に展開し、万一弾道弾が首都圏を狙った場合に備えています。イージス艦は少なくとも海上自衛隊のものは全て南西諸島警戒に当たっており、首都圏唯一の防備ということに。PAC-3は現時点で有する最良の装備を展開させています。これまで模擬弾は数多く一般公開されていますが、今回は当然実弾です。

Mimg_6630 このほか、F-15戦闘機がイージス艦上空へ国籍不明機の接近に備え戦闘空中哨戒の実施を行うとされています。実質数日間にわたる戦闘空中哨戒の実施となりますが、此処まで長期間の実任務での戦闘空中哨戒は1976年のMiG-25函館亡命事件に際しての北海道上空F-4EJ戦闘空中哨戒任務以来の事でしょうか。

Mimg_5084 陸上自衛隊は沖縄救援隊を編成、九州及び本州から展開しました。CH-47JA輸送ヘリコプターとともに化学防護車を展開、沖縄救援隊は、第一に弾道ミサイル落下に際して住民被害が出た場合の迅速な救命救助任務、第二に展開した航空自衛隊ミサイル部隊の警備任務にあたります。

Mimg_1373 こちらも実弾が携行され、任務にあたっており、一部報道では実弾携行ではなく実弾装填という報道も。混同しているのかもしれませんが後者であれば国内では初ということになります。ペトリオット部隊近くにCH-47が待機し、周辺を高機動車が警戒している様子が報じられているのをご覧の方も多いのではないでしょうか。

Mimg_6788 沖縄県警も燃料ヒドラシンの散布を警戒し、化学剤テロを想定し装備している化学防護器材を準備し、自衛隊と共に落下時には協同し任務に当たるとのことで、消防吏員とも連携を取ることが当然考えられるでしょう。また、海上保安庁も航路警戒情報を発令し、特に落下地域付近海域を航行する船舶へ注意を呼び掛けているところ。

Img_7184 理論論議に必要な予備知識として、重要なことですが、弾道ミサイル技術と人工衛星発射技術は、特にロケットモータ技術と誘導技術においてほぼ合致するもので、初期の人工衛星打ち上げには弾道ミサイル技術、場合によっては本体そのものが流用されていた、ということを覚えておかねばなりません。これは日本のように平和目的での開発に特化し、国是として長距離弾道弾の保有を禁止し、実績を重ねていなければ致し方ないということ。

Mimg_3839 1998年のミサイル試験では東北地方上空を飛翔し太平洋に落下、海上自衛隊のイージス艦みょうこう、がイージス艦として世界で初めて弾道弾探知に成功した事案でしたが、北朝鮮では人工衛星打ち上げを口実としています。しかし、2006年と2009年の試験では明確に弾道弾試験であることを明示、そして今回打ち上げられる飛翔体については、安定翼等に解消は施されているものの前回の弾道弾と形状が共通していますので、少なくとも弾道ミサイル技術開発と言わざるを得ません。

Mimg_8823 さて、日本国内へ、今回の試験では北朝鮮を発射し、朝鮮半島南部を飛翔したのち黄海洋上へ進出し、燃料を搭載した第一段を切りは無し。その後沖縄県島嶼部上空を通過し、第二段をフィリピン近海へ落下させる航路を飛翔する、これが北朝鮮の発表している航路です。2006年の実験では発射後42秒で空中分解し日本海中央部に落下しました。

Img_2008 この事案、更に数分空中分解が遅れていれば北海道から東北地方へ空中分解した数十tの本体が落下する可能性がありました。今回懸念されているのはまさにこの点で、切り離された燃料タンク部分が落下する可能性に加え、第二段ロケット切り離しの段階で空中分解を起こした場合には我が国領域内へ落下する可能性が生じ、その際に燃料として用いている推進剤ヒドラシンが有毒物質であるため、イージス艦により高高度で破壊し、地上へ飛散する以前に高高度の大気中で拡散させてしまう、ということが目的です。

Mimg_1192 三沢基地には米軍の電子偵察機RC-135などが既に展開、嘉手納基地にも高高度監視機G-1159 HELOが展開、P-3C派生型の観測航空機も展開しているとのことですし、ミサイル巡洋艦シャイローなど日本に前方展開しているミサイル防衛対応イージス艦に加え、中距離弾道弾迎撃試験での実績をもつミサイル駆逐艦オカーンも展開、日米は一体となり対応しています。

Img_8956 嘉手納基地へ展開しているペトリオット防空砲兵大隊のPAC-3運用部隊は現段階で基地防空任務に就いているとみられ、航空自衛隊の那覇基地へ展開するPAC-3部隊の射程外となる沖縄本島中央部の防衛に寄与するものと考えられます。もっとも、具体的な指揮系統の協同への日米両政府からの明示はされていないのですけれども。

Img_5673 弾道ミサイルの迎撃は技術的に困難を伴うことなのですが、しかし、弾道ミサイル防衛の必要性を確認してより我が国でもすでに十年以上を経ており、その間の技術開発は進みました。今回落下が懸念される沖縄地域へは中距離弾道弾射程に相当し、t落下速度が大きくなるため難易度はさらに高くなることは、否定しません。

Img_7166a しかし、発射位置が定まっており、経路も明示されています。突如異なる経路に変更し運用され、対応するまでにミサイル防衛の技術は対応していませんが、発射位置と経路が定まっている、そして基本的に日本領域への着弾が目的としていない状況では、不測の事態へ備え、できることは全て行っている、ということだけが言えるのでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (4)
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