北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

北朝鮮弾道ミサイルの脅威度 推進剤は液体燃料方式を採用

2012-04-12 23:34:08 | 防衛・安全保障
◆北朝鮮、即応性高い固体燃料技術は未完成?
 本日の発射は見送られた北朝鮮弾道ミサイル。北朝鮮の弾道ミサイルについて、燃料注入が行われている、と報じられたのは昨日ですが、素朴な疑問を思い出しました。固体燃料ロケットブースタの実用化はできていなかったのか。
Mimg_9501 我が国ではM-5ロケットなどが固体燃料方式を採用しています。発射直前に燃料注入を行う必要が無く、特に商用人工衛星打ち上げ事業への本格参入を念頭に、大量生産し取得費用を低減させると共に迅速な打ち上げ需要に対応するべく備蓄することが出来る、こうした利点があるためです。全長30.8mの三段式固体燃料ロケット方式を採用し、軌道投入能力、即ち積載量は1.85t。現時点では固体燃料方式を採用する世界最大のロケットとなっているもの。加えて来年以降をめどに後継となるイプシロンロケットが、やはり固体燃料方式として開発が進められているのですが、北朝鮮の弾道弾は液体燃料方式を採用しています。
Bimg_2040 SM-3迎撃ミサイルの先端に搭載されているキネティック弾頭。宇宙空間で弾道ミサイルを姿勢制御しつつ進路上に待ち伏せ、目標が自ら衝突することで自壊させます。さて、弾道ミサイルの燃料である推進剤ヒドラシンが有毒物質であることから、今回の発射実験へは、弾頭がHEではなく人工衛星であったとしても不安は残るのだ、と記載している一方、実は重要な部分、北朝鮮の弾道ミサイル技術に関する忘れてはならない部分を見落としていました。それは、燃料が注入されている、と報じられた時点で、実のところ北朝鮮が保有している可能性が囁かれていた固体燃料による弾道ミサイル推進剤の実用化は、未だ、という事実が隠れていたのではないか、と。
Bimg_2120 固体燃料と液体燃料。重要な点は固体燃料であれば発射可能な状態のまま長期保存が可能で、コンテナ化すれば機動展開も可能です。基本的に自衛隊が運用する対空誘導弾、対艦誘導弾は全て固体燃料となっています。液体燃料は、ミサイル草創期のものであれば超低温でなければ保存できないという難点、現在でも発車直前に装填しなければならない難点があり、即応性に欠けています。推進剤としては特性から高出力を容易に得られるという固体燃料以上の利点があるのですが、安全性、特に漏出する危険性は捨てきれず、例えば米海軍などは水上戦闘艦及び潜水艦への誘導弾推進剤としての液体燃料の搭載を禁止しているほど。もっともSM-3の推進剤に検討はされているようですけれども。
Bimg_2098 中国が我が国を狙うDF-21弾道ミサイルは固体燃料方式を採用しており、移動式発射装置により航空攻撃や特殊部隊の攻撃を避けるべく戦術機動を行い、発射準備には10分程度で射撃に入ることが可能とされています。対して、ノドンミサイル、北朝鮮の射程として1300km程度と我が国を射程に置く弾道ミサイルは液体燃料方式を採用、燃料のヒドラシンは腐食性があり、充てんした場合数日以内に発射しなければ隔壁部分が腐食により使用不能となる危険があり、北朝鮮はノドンミサイル300発程度、最大で350発程度を準備し対日用に準備しているとのことですが、液体燃料であることから発射準備に時間を要するという問題点があるわけです。仮に無人偵察機、RQ-4であれば150km程度先の目標を合成開口レーダーや光学装置により補足することが可能で、発射準備に時間を要している場合、有事であれば格好の攻撃目標となるでしょう。
Bimg_1914 即ち、液体燃料方式の弾道ミサイル化、固体燃料方式の弾道ミサイルか、それが我が国への脅威度、これを払拭するために考えられる障壁の高さを左右するわけです。ここで弾道ミサイル技術開発における北朝鮮との連携を一つ上げてみましょう。2009年12月16日、イランは新型中距離弾道弾セッジール2の発射実験を実施、射程は2000kmに達する性能を有するとされ、欧州地域を射程内に収める弾道弾脅威が改めて認識され、米軍による東欧地域への弾道ミサイル防衛システムの配備が促進、結果、ロシアとアメリカとの間で東欧地域へのミサイル防衛網配備の可否に深刻な国家間対立を引き起こしたこと、ご記憶の方はいらっしゃるでしょうか。
Mimg_9497 セッジール2ですが、このミサイルには二段式の固体燃料方式ロケットブースタが装着されており、液体燃料方式よりも発射兆候を秘匿しやすいため発射以前い航空攻撃などで無力化される危険性が低い特性が指摘されています。このイラン製セッジール2ミサイルは、同時にイランが北朝鮮やパキスタンと共に国家間の弾道ミサイル共同開発連携に依拠してミサイル開発が行われている、という一つの事実を包含すれば、実のところ非常に脅威をはらんでいるもの、と言えるかもしれません。 事実、イラン製弾道弾シャハブ3はノドンミサイルの改良型であるとされていて、シャハブ5などは、二段式ロケットロケットブースタのうち、第二段部分の液体燃料ブースタ部分に北朝鮮の技術協力があるとされ、加えて第一段の固体燃料ブースタ部分をロシアの技術協力によりRD-216エンジン、このRD-216エンジンは旧ソ連が1960年代にR-14弾道ミサイルや、この派生型である人工衛星打ち上げ用のコスモス3などに搭載するべく開発したものです。参考までにコスモス3ロケットの搭載能力は1.4t、1968年までに6回中4回の衛星軌道投入に成功したロケットです。

Bimg_1958 また、パキスタンの弾道ミサイルガウリも北朝鮮のノドンミサイルの派生型とされ、外見的特徴はノドンミサイルとガウリミサイルでほぼ一致することが知られています。もっとも、ノドンミサイルは旧ソ連が1950年代に開発した戦術弾道ミサイルスカッドの改良型で、スカッドミサイルと呼称されるこのミサイルは多連装ロケットや長射程のカノン砲射程外にある敵後方策源地を叩くものであったのですが。誤解を恐れずに記載すれば陸上自衛隊が運用する多連装ロケットシステムMLRSの長射程型ATACMSと共通する部分があるかもしれません。
Bimg_1915 以上の通り、固体燃料方式のミサイルを、北朝鮮とミサイル開発における連携を行う国の一部では弾道ミサイルに実用化しており、今回の北朝鮮が準備を行っている弾道ミサイルについても、一応固体燃料方式のミサイルである可能性、即応性に優れたものであった可能性はあったわけです。武器の供給は、我が国のように明確に公開され為されているものだけではありません。特に2009年12月11日に北朝鮮からイランへ向かう輸送機がタイのバンコックでタイ当局の査察対象となり、イラン向け石油掘削装置という名目に対し、機内からは大口径ロケット砲とロケット弾、地対空ミサイルなどが搭載されていたため、タイ当局が国連安保理決議に基づく武器輸出禁止措置への違反と判断し、緊急に接収する事案がありました。こうした武器のやり取りがあったならば、固体燃料方式の弾道弾技術も非公式に共有されている可能性はあるのではないか、こうした懸念はある意味説得力があるでしょう。しかし、少なくとも払拭された可能性は今回あるわけです。もちろん、北朝鮮側が燃料は発射器基部から迅速に供給される構造、としているのですが、推進方式そのものに欺瞞情報を交えている可能性も否定はできないのですが。
北大路機関:はるな

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コメント (2)
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