◆イギリスは次期榴弾砲・多用途ヘリを共同開発提案
本日行われた日英首脳会談において防衛装備品共同開発の共同声明が出されました。
野田総理大臣とイギリスのキャメロン首相との間で行われた日英首脳会談において、昨年末に我が国が見直しを提示した武器輸出三原則運用との関係で、日英間における防衛装備品の共同開発を今後速やかに具体化させる方針を共同声明において明示したのです。
先日、産経新聞が陸上自衛隊のFH-70榴弾砲について、その後継装備を日英共同開発するという記事を掲載し、防衛省がこう示威に否定したことから誤報扱いとなったことが記憶されますが、今回の共同声明で少なくとも検討は水面下でなされていた、ということに。
そういえば、74式戦車の主砲は設計がイギリスでしたね。
このほか、川崎重工が進める多用途ヘリコプターの後継機開発についても、イギリス側は共同開発を提示しています。既に川崎重工はアグスタウェストランド社製MCH-101のライセンス生産を実施しており、もちろん、費用面の関係もあり提案の域は出ないところですが一つの提案として大きなものには違いありません。
武器輸出三原則は、紛争当事国と共産圏に加え国連の武器禁輸制裁実施国への武器輸出を禁じてきましたが、紛争当事国の定義が不明確であり、事実上すべての国に対しての武器輸出を自粛していた、拡大運用が採られていたという実情があります。
他方で、我が国は産業技術において世界的に最先端技術を有している工業先進国であり、汎用品である半導体やCCD素子などはそのまま精密誘導兵器の部品として流用、加えて日本製加工機械などが武器製造の第一線で海外では使用されている点もあり、政治的象徴以外に何物でもないという実情もあったということも。
こうした背景を元に見直された武器輸出三原則ですが、特に重視されているのは技術分野における開発。F-35もそうでしたが、国際共同開発において日本が参加し、その技術を多国間で共有することや、国際共同生産に参加することも武器輸出になると自制していたわけですね。
戦闘機開発や、護衛艦開発など最新鋭装備の構成要素を全て単独開発するのは非常に多額の費用を要するものがあります。見た目が一流のものを開発できても、構成要素の一部でも陳腐化したものがあればシステムとして完成された装備が使い物にならないことは言うまでもありません。
我が国は、装備品構成要素については、開発費が非常に限られている中で、防衛産業の献身ともいうべき努力により汎用技術と一部の技術研究本部による中核技術との統合により優れた基本技術を構築してきました。この技術蓄積は何よりも大きい。
しかし、限界もあるわけです。国産装備を見れば航続距離と巡航速度の大きなC-2輸送機、護衛艦に艦隊防空能力を可能とさせうるFCS-3,現世代戦車の能力をすべて備え世界最軽量を実現した10式戦車、第六世代の対戦車誘導弾各種、超音速超低空の空対艦誘導弾ASM-3,新世代防空システム03式中距離地対空誘導弾、運動性と空対空能力に加え高い光学情報収集能力を有するOH-1など、ほんの一部でこれだけ。
こうしてみれば、非常に高いものがあるのですが、艦船の統合電気推進や情報伝送共有能力、戦闘機用低バイパス比高出力エンジン、そしてこちらは法整備面の影響も大きいようですが無人航空機。こうした分野では後れを取っていますので、例えば共同開発と技術提携が求められるということ。
特に先端技術実証機の製造を開始した我が国に対し、EF-2000の近代化に予算的限界が差し迫り、当初進める計画であった第六世代戦闘機技術開発を開始できないイギリスのBAEにとって、日本との連携はかなり魅力的な案で、実のところここで水面下の日英、核心的合意があるのでは、とも考えてしまうのですが。
イギリスは予算不足で頓挫していますが軽量化を目指す次世代無人戦車が日本の10式よりも重く、もちろんイギリス戦車は第二次大戦以降重装甲重視ですので、そのまま導入とはならないでしょうが懸架装置や自動装填装置など軽量化技術は融通できるかも。
また、イギリスが進める次世代装甲戦闘車、アスコッドによる装甲車体系大量取得計画ですが、装甲戦闘車の必要性が今後海外派遣の増大を通じ増えるであろう陸上自衛隊には参考となるやもしれません。まあ、陸上自衛隊では89式装甲戦闘車の10倍近い取得費用を要するAH-1Sを90機、CH-47JA輸送ヘリを55機導入している、という背景も忘れてはならないのですけれどね。
さて、武器輸出三原則が緩和されることで、一部の方は日本製の最新鋭装備が世界の軍事市場を席巻し、ある方は景気回復を期待し、ある方は地域武力紛争激化を危惧したのですが、基本は我が国において運用される念頭に立った装備品、国際競争力は高くありません。あくまで高いのは構成要素の技術ということ、これを忘れている人は多いのではないでしょうか。
日本は山岳国であり、重量が大きな戦車は地形上運用制約を受けます。また道路交通法では2.8m以上の車幅の装甲車が公道を走れないため一定以上小型の装甲車となっています。対空装備などに高い競争力と汎用性はあるのですが、これは単体で導入するには難しく輸出というものには適さないでしょう。
艦船も日本が必要な装備に特化しています。任務海域拡大を背景に外洋での航行を重視しかつての軽巡洋艦規模の護衛艦、潜水艦も同じく広い海域での運用を想定し大型化、取得費用と維持費も当然連動して大型化しています。
そして、日本型の運用を念頭に置いていますから、海外の需要と合致するとは限らないということ。輸出前提の装備を開発するか、米軍のように世界中で運用できる装備の開発を行うか、方法はあるのですが確実な需要が見込めるわけではなく、実質的にはリスクばかり大きい。
航空機は島国であるため支援戦闘機が対艦打撃力重視、対して求められる航空阻止能力は軽視されています。練習機は汎用性がありますがエンジン含め全て純国産、海外装備との互換性の問題はあります。輸送機は見るべき点があるのですけれども、これは例外に近く、日本型装備ということを忘れてはなりません。第一目的は技術の共同開発、というところでしょうね。
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