◆日米牽制目指すも海上自衛隊は32隻が実弾訓練
日経新聞や中日新聞などの報道によれば、中国海軍はロシア海軍と合同で中国山東省青島沖の黄海において合同演習を開始したとのこと。
海上自衛隊は現在、沖縄近海と九州周辺海域、紀伊水道と小笠原諸島において大規模な実弾訓練を実施しており、これは一般公開予定の発表時期から考えた場合昨年度から実施が計画されていた訓練になるのですが、同時に中国海軍とロシア海軍の演習も黄海において実施されているようです。
新華社通信によれば中露合同演習としては過去最大規模とのことで、中国海軍艦隊とロシア艦隊の写真が無く護衛艦の写真を掲載しますが、中露合同演習は実施期間が発表では22日から27日までとされ、演習の参加規模について中国海軍からは水上戦闘艦16隻と潜水艦2隻、ロシア海軍からは水上戦闘艦など7隻が参加しているとのことです。
海上自衛隊は、沖縄周辺海域で18日から28日までの期間に沖縄本島から大東島にかけての三海域で11隻が、24日から25日にかけ下関及び五島列島沖など九州北部海域で6隻が、17日から24日にかけ四国を挟む豊後水道と紀伊水道では7隻が、17日と24日に野島崎沖に5隻と6隻が、今月と来月いっぱいに硫黄島周辺で8隻が訓練中とのこと。
最盛期の24日で海上自衛隊実弾訓練実施の情報では、沖縄周辺11隻が遊弋し、そのほかの訓練が下関沖3隻、豊後水道4隻、五島列島沖2隻、野島崎沖5隻、硫黄島沖8隻。訓練期間が長い硫黄島での実施規模に左右されますが24日には最大32隻程度の護衛艦が訓練に当たっている計算になります。
報道では中国海軍については中国版イージス艦とされる水上戦闘艦を参加させているとのことで、旅洋Ⅱ型ミサイル駆逐艦所謂蘭州級が参加しているようです。ロシア海軍からはミサイル巡洋艦が参加しているとされ、これは18日0500時、対馬海峡を警戒中の護衛艦はるゆき、が確認した艦隊が参加しているのでしょう。
海上自衛隊が確認した艦隊はスラヴァ級ミサイル巡洋艦1隻、ウダロイⅠ型対潜駆逐艦2隻、ゴーリン級航洋曳船1隻の4隻で、上対馬北東130kmを航行、対馬海峡を南下したとのこと。ロシア側から参加している艦船には曳船などの支援船も含まれている可能性があります。後述する補給訓練から、補給艦の参加も含まれている可能性も高いところ。
中国国営新華社通信からの引用として報じられているところでは中露合同演習では、艦隊防空訓練、海上補給訓練、対潜戦闘訓練が行われているほか、特殊部隊による訓練も実施されているとされ、スラヴァ級ミサイル巡洋艦と旅洋Ⅱ型ミサイル駆逐艦の水上戦闘を念頭に置いた合同演習は初めてかもしれません。
日経新聞では今回の中ロ演習に対し、中ロ関係は極東における朝鮮半島問題とでけん制し合っている関係にあるがアメリカの太平洋戦略への中国の牽制と、ロシア海軍の極東地域での存在感を高める意向の合致による利害一致があるのではないか、と分析をしました。しかし、海上自衛隊が一国でこれを上回る規模での実弾訓練を太平洋において実施している状況では逆に牽制されているというもの。
今回の自衛隊による訓練ですが、勿論中ロ訓練との関係は事前通知があるものですのでこれに対する対応も皆無ではないでしょうが、海上自衛隊は2008年の護衛艦隊改編後、特にこの艦隊改編が護衛隊を母港に捉われず稼働艦と練度艦の均衡を図り実施されたものでしたが、続く護衛艦隊改編が関係あると考えます。
護衛艦隊護衛隊群の護衛隊、各艦の母港が異なる実情が運用へ支障を来すことが第一線より指摘されているため、護衛隊毎の母港共通化を進めており、先日の護衛艦あまぎり移籍などもその一環とされているのですが、移籍後の訓練という視点があることも忘れてはなりません。
中国海軍の伸長は近年続く新型艦の量産など高いものがあり、ロシア海軍も水上戦闘艦など海軍のソ連崩壊後以来の経済難脱却と共に近代化再開となっていますが、現状では艦艇の稼働率は海上自衛隊と比較した場合、比較的低い水準にあります。これは海軍の運用体系に起因するものとお考えください。
海上自衛隊の護衛艦は6隻を除き満載排水量4000t以上の大型水上戦闘艦で、今回、中ロ演習規模を上回る規模の演習を一国で行ったことにより、実質的に我が国をけん制する、という目的は達することが出来ていません。また同時に、ソマリア沖海賊対処任務や外洋練習航海と同時にこれだけの艦艇を稼働させている海上自衛隊の能力について、今回の中ロ演習と共に記憶する必要があるでしょう。
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