1990年の夏
山田常務に1本の電話が入りました。
相手は東大時代の同級生です。
徳本と言って今は某メガバンクの役員をしています。
その彼が会いたいと言って来たのです。
久しぶりの連絡です
もう4~5年になるでしょうか?
実は彼は山田常務と一緒にメガバンクに入社した仲間です。
徳本は順調に出社しましたが
山田は担当したミシンメーカーが倒産したために
大きな焦げ付きの責任を取らされて
出世コースから外され
そしてやがて今の会社に出向になり
その後完全に転籍になっています。
ですから
徳本とはなるべく会いたくない
これが山田の心に中にはある訳ですが
しかしこんな電話がかかって来ると言うことは
間違い無く仕事がらみですから
出かけて行くことにしました。
会った場所は六本木
個室のあるシャブシャブ屋でした。
しばらく雑談をした後
徳本が本題を話し始めした。
用件は
徳本が主導して融資してる
郊外の駅前の再開発事業があり
これにすでに90億円融資してるが
総量規制でこれ以上の追加融資ができずに
事業が頓挫する可能性が高い事
そうなればその融資金が不良債権化するので
その事業を継続して引き受ける
そんな会社を見つけて欲しいと言う事でした。
この話しを聞いた山田は
チャンス
そう直感しました。
手数料が大きいからだけではありません。
自分の個人的な問題が
これによって解決できる
そう思って気持が軽くなったのです。
翌日山田は
早速担当の3人の部下を決めて調査に入りました。
分かった事は
その再開発事業は
大手ゼネコンが裏で主導して進めてる事
表だって買収してるのは
そのゼネコンの仕事を受けてる設計会社になってる事
そして
最後に
この再開発が時間がかかってるのは
一部の地権者の同意が得られないため
そんな事が分かって来ました。
同意が得られない人がいるにも関わらず
設計会社は話しの付いた場所から
積極的に虫食い状態で先行して土地を買ってますから
融資は90億円にも膨らんでる訳です。
そして更に調べると
この同意が得られない人は2名で
今回の事業地の入り口部分を押さえてるために
そこを含めないと
建物の容積は半分以下になり
事業としては成り立たない事が分かってきました。
そんな案件を引き受ける所があるのか?
山田は一瞬考え込んでしまいましたが
まずその前に
直接その反対してる地権者に会って
見通しを立てて
それから引受先を見つけよう
と思い
現地に一人で行きました。
するとその場所には
一軒の木造2階建ての建物があり
そこの1階部分は焼き肉店になってました。
かなり古びた店ですが
営業はやってるようでした。
そしてその隣は空き地になっていて
そこには古い流し台やらお風呂やら
住宅を解体したときに出るような廃棄物が山積みになっていました。
この二つの土地の地権者が反対してる訳です。
直接話しを聞こうと思いましたが
奥の買収した土地は更地になっていて
そこには設計事務所の現地事務所のプレハブが建っていました。
中を覗くと
一人だけ詰めてる若い社員がいましたので
山田は引き戸を開けて入り
名刺を渡して
銀行からの依頼で調査に来た
と伝えました。
するとその社員は
すぐに自分でお茶を入れ
カベに掛かってる大きなパースを指さし
これが達つ予定です
と誇らしそうに言いました。
建つかどうかはこれからの話しの展開次第
山田はそう思いましたが
口から出たのは
すごいですね。
こんな立派な建物が出来るんですね
って言葉でした。
それからあれこれ一通り説明を受けた後
入り口の二件の地権者の事を聞きました。
そうすると
この担当者は初対面の山田を
疑う事もなく詳しく話してくれました。
この二人の所有者は兄弟で
お互い年齢は70代
在日朝鮮人で
元々はその土地はお寺が持っていて
戦後その朝鮮人の兄弟に借地権で土地を貸しましたが
お寺の住職が亡くなった時に
親族から底地の買取を持ちかけられ
20年前に購入したとの事でした。
焼き肉店をやってたのはお兄さんで
隣には弟が小さな家を建ててましたが
商売の産廃で儲かり
新しく近くに新居を建てましたので
その家を壊して
今は廃棄物の一時置き場にしてるって話しでした。
そして
再開発に反対してるのは
表向きは自分たちは一番良い場所に土地を持ってるので
再開発の意味は無い事
ただ本音は
最後までゴネて自分に最大限有利な契約をしたい
そうだろうとその若い社員は語っていました。
ですから
お金次第ですから
最後はなんとかなると思いますよ
って断言しました。
もう買収は90%以上終ってるので
着工出来るのもそんなに先では無い
その社員は本気でそう思ってるようでした。
山田はその現場事務所で聞いた話し
少し楽観的過ぎるように感じましたが
あえて
そのまま信じる事にしました
ですから
その地権者の朝鮮人には確認する事無く
会社に戻り
早速事業の引き受け先を当たる事にしました。
大手のゼネコンやら
知合いの銀行
そしてデベロッパー
いくつも当たりましたが
しかしこの情報は既に入って居て
この再開発は地権者の同意が得られず頓挫する
そんな判断をしていました。
ですからどこも手を上げなかったのです。
山田はダメか・・
とつぶやきましたが
しかし彼にはどうしてもこの話しをまとめたい個人的な理由がありました。
そうは言っても
どこも食いついて来ない
その時です
突然数年前に会ったある一人の男を思いだしました。
それは
山川に連れられて明洞に行き始めた頃の事です。
一人で明洞に行き
チェミヒと飲んでると
山川が入って来ました。
一人連れがいます。
山川がわざわざ山田常務の席まで連れてきて
名刺交換をした男
白髪ポマードの山中都市開発の高橋でした。
その後何度か明洞であって
あれこれ雑談をしたのですが
この高橋と言う男
地上げ屋で
最近は有名な再開発にはほとんど関わっている
そんな自慢話をしていました。
当時山田は
高橋は自分が付き合う人間では無い
そう思って
適当にあしらっていました。
明洞の経営権を鎌田が手放した辺りから
高橋は明洞に来なくなりましたので
もうかれこれ3年近く会ってませんが
彼ならなんとかしてくれるかも知れない
ふとそう思って
藁にもすがる思いで電話をかけまました。
すると高橋は
すぐに食いついて来て
詳しく話しを聞きたい
そう言って
翌日山田を訪ねて会社にやって来ました。
すぐに応接間に通しました。
高橋はもう一人男性を連れていました。
年齢は40代半ば
身長は175cm位でスポーツをやってたのな
身体はがっしりしていました。
ブランドのスーツでカルチェのセカンドバッグを持ち
腕には500万は下らないダイヤモンドをちりばめたロレックス
そして指には大きな金の指輪をはめていました。
山田はその男と名刺を交わすと
名前は杉山
シティーインベストメントグループの代表
そんな肩書きが書かれていました。
早速ソファーに腰を下ろして貰い
少し雑談をしましたが
杉山が言うには
彼の会社は1000億を目標に
都心の不動産に投資してる
そんな話しでした。
しかしまとまった案件が少ないために
今回は郊外ですが
駅前の滅多出ないまとまった土地と言う事で
是非その再開発を引き継ぎたい
そんな話しをしてきました。
そして高橋が続けました
このシティーインベストメントの地上げを最近専属で行ってる事
そして
今回の案件は地権者の一部が反対して暗唱に乗り上げてるが
自分が地上げをすれば
まず100%上手く行く
そんな話しを得意げにしました。
そして更に
この話しは実は数ヶ月前から情報が入っていて
すでに買い付けを入れてるが
話しがまとまらなかった
この事も語りました。
山田は
どうして話しがまとまらなかったのか?
それを聞くと
価格だとの事でした。
いくらで買い付けを入れたかと言うと
60億円で購入を申し込んだが
結局債権者の銀行が首を縦に振らなかった
と言う事でした。
山田はこの話しを聞いて少し不快になりました。
徳本はわざわざ自分を呼びつけて
この事業の継承先を捜すように言っておきながら
実際には随分前から動いていて
思うような話しが来なかったために
最後に自分に話しを持って来た事
どうも見下されてるように感じて
少し腹が立ったのです。
ただ
同時に思いました
もう徳本に遠慮する事は無い
と
そして目の前にいる杉山に言いました
60億円では無くあと少しだけ色をつけらえませんか?
と
杉山がいくらかと聞くと
5億円でどうでしょう
つまり65億円でなんとか頑張って貰えませんか?
と聞くと
杉山はあっさり
構いませんよ
と返事をしました。
そして更に
65億円だとまとまるんですか?
と聞いてきましたので
何とかします
とだけ答えました。
そしてその場で65億の買い付けを書いてもらい
1週間だけ時間をもらいたい
そう伝えて帰ってもらいました。
それからすぐに山田は徳本に電話を入れました。
なるべく早く会いたいと
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