☆第236話『砂の城』(1977.1.28.OA/脚本=柏倉敏行&小川 英/監督=竹林 進)
広田というジャーナリストが自宅マンションで撲殺され、事件当夜に被害者の部屋から出ていく姿を目撃された、縫製工場に勤める独り暮らしの女性=西条景子(倉野章子)に、スコッチ(沖 雅也)が任意同行を求めます。
具体的なアリバイが無く、当夜のことはよく憶えてないと言う景子に、疑惑の眼を向けるスコッチ。
「西条さん。独り暮らしの人間には、夜は長いもんだ。夕べの何時に何処にいたか、よく憶えてる筈ですがね」
ところが、被害者が犯人と揉み合った際に付着したと思われる、爪に残った血液と、景子の血液型が一致しない。真犯人は別にいると見て間違いないんだけど、スコッチは納得しません。
「例え犯人じゃないとしても、彼女は嘘をついてる」
殺された広田は建設業界に精通するジャーナリストで、汚職をネタに複数の人間を脅迫し、金銭を要求していました。
↑ このパターン、ほんと多いですよねw サスペンス系のドラマにおける、殺人事件の被害者が殺された理由トップ3には確実に入るでしょう。
それはともかく、景子も何らかの理由で広田に強請られていたと仮定すれば、彼女がマンションを訪ねたことを隠すのは当たり前じゃないか?というゴリさん(竜 雷太)の指摘に、スコッチは反論します。
「それだけの事だったら、とうに彼女は崩れてます。彼女の嘘の中には、もっと強い何かが……」
広い東京の片隅で、小さなアパートに独りで暮らし、つがいの小鳥を大切に飼っている景子。同じように、サボテンが唯一の家族だったりする孤独なスコッチだからこそ、彼女が何かを必死に守ろうとしてることを直感したのでしょう。
ボス(石原裕次郎)は、景子のプライバシーを決して侵さない、という条件付きで、スコッチの捜査続行を許可します。
「大丈夫かよ、あいつ?」
↑ っていうゴリさんの不安を、我々視聴者も共有せずにいられませんw 何しろ登場時のスコッチは、相手が一般女性であろうがいっさい容赦しない非情な男でした。
やがて、景子が建設会社で課長を勤める川村(横光克彦)という男と交際してることが判明します。その川村も血液型は犯人と一致せず、確かなアリバイもあるんだけど、それでも今回の事件と川村は何か関係があると、スコッチは直感します。
もし、川村が広田に何らかの理由で強請られ、その交渉を景子に代行させていたとすれば、辻褄が合う。つまり、景子は恋人をかばう為に嘘をついてる、という仮説に、三度の飯より女性が大好きなボン(宮内 淳)が嬉しそうに頷きますw
「何となくホッとしたんです。あんなに慎ましく生きてる女性が実は悪女だなんて、やっぱり思いたくないですから」
そんなボンに苦笑しながら、スコッチは言います。
「悪女じゃないから、よけい厄介なんだ」
景子が必死に守ろうとしてるのが川村との関係であるとすれば、彼女は絶対に真実を明かさない。なぜならその真実は、川村が広田に強請られていた理由に直結し、彼の犯罪を暴いてしまう事になりかねないから。
捜査が行き詰まる中、景子が何者かの車に跳ねられそうになります。
景子が命を狙われた、すなわち彼女は事件当夜に犯人を目撃していると睨んだスコッチは、ボスの命令を無視して本領を発揮し、彼女を徹底的に追及します。が、それでも景子は頑なに口を閉ざします。
スコッチは更に、川村が会社の金を200万円も使い込み、それをネタに広田から強請られてた事実を突き止め、そんな大金が必要になった理由が女絡みのトラブルだった事まで暴いちゃいます。川村はそれで景子にまで、なけなしの貯金を貢がせてる。
景子の前で事実を暴露され、うろたえ、絶望し、いよいよ本性を表した川村は、あっさりと彼女を突き放すのでした。
「俺だってお前どころじゃない、自分のことで手一杯だ!」
後に警視庁特命捜査課の紅林刑事となり、国会議員にもなる男とはとても思えない言い草ですw
「あなたのせいよ! こんな事になったのもみんなあなたのせいよ!!」
景子は、川村ではなくスコッチを責め立てます。どうやら彼女は、自分が川村に利用されてることを以前から承知の上で、彼を愛してたみたいです。
「この東京で……独りで暮らしてる女の気持ちが解りますか? 毎日毎日、砂を噛むような暮らし……」
スコッチは、ただ黙って景子の恨み言を聞きます。
「あの人は、私に優しかった……例えうわべだけでも、優しかった……あの人の為なら、お金なんか惜しくなかった」
刑事部屋でも、ゴリさんが「あいつは情が無さすぎる!」とスコッチを批判しますが、彼とずっと一緒にいたボンがフォローします。
「滝さんは言ってました。あの二人の愛は、砂で造った城みたいなもんだって。いくら大切でも、どうせ崩れるんだから、早く崩れた方がいいって」
景子のプライバシーには踏み込まないよう、スコッチはスコッチなりに我慢してたんだけど、彼女が命を狙われてしまう事態に至り、あえて「砂の城」を崩す悪役を買って出たワケです。
「東京での独り暮らし……西条景子の砂を噛むような暮らしが、誰よりもあの人にはよく分かってるんです。彼女を傷つけたくないと一番思ってるのは、本当は滝さんだと僕は思います」
だけど、スコッチを恨む景子はますます貝のように口を閉ざし、とても証言してくれそうにはありません。それでもスコッチは、彼女のアパートを徹夜で張り込みます。なぜなら、再び真犯人が彼女を狙って来る恐れがあるから。
案の定、犯人が送りつけて来た爆弾を、自ら命を張って処理するスコッチ。そんな姿を見て、景子はようやく心を開き始めるのでした。
「どうして、私を守ろうと? 私はずっと、あの人を憎んでいたのに……」
「憎まれるように、そういう風にしか出来ない人なんです。滝さんって、本当はすごく優しいのに」
ボンのフォローも功を奏し、覚悟を決めた景子の証言によって真犯人が逮捕され、一件落着。それを報告しに来たスコッチに、景子は初めて心からの笑顔を見せます。
「私、もう一度やり直します。今度こそ寂しさに負けないで、生きてゆきます。自分にも人にも嘘をつかないで」
そう言って元気に出勤する景子の後ろ姿を見送り、スコッチも笑顔を浮かべます。
今こそ難物スコッチと親睦を深めるチャンスだと思ったのか、車でやって来たボスが「送ってやるよ」と声を掛けますが、スコッチは「いえ、今日は非番ですから。1人にして下さい」とあっさり却下w
「ここんとこ放ったらかしだったんで、今日はゆっくり話をしたいんです。サボテンと」
こいつ、やっぱりただのサイコ野郎じゃないのか?と思いながらw、スコッチの去りゆく後ろ姿を見送り、彼を七曲署に引っ張った事をまたもや後悔するボスなのでしたw(おわり)
第225話『疑惑』でトラウマの克服が描かれて以来、かなり久しぶりのスコッチ主役回となった本作は、彼の心優しい側面がやたら強調して描かれた印象があります。ちゃんと観てればフツーに解るような事でも、いちいちボンが台詞で解説しちゃうんですよねw
それは登場時のスコッチがあまりに非情で、かつ沖雅也さんの演技が極めてリアルだった為、スコッチと沖さんに嫌悪感を抱く視聴者が予想以上に多くなっちゃった事に対する、番組サイドからの「本当は違うんだよ」っていうメッセージだったんだと思います。
現在でさえ、ドラマ上の役柄と俳優さんご本人のキャラを混同しちゃう視聴者は多いですから、40年以上も前(!)ともなれば尚更でしょう。私自身(当時小学生)もそうだったし。
ましてこの時期の『太陽にほえろ!』は視聴率が常時30%を超える絶頂期で、ハンパじゃない影響力があり、沖さんに対する誤解や風当たりも相当なものがあった筈で、説明過多は承知の上でフォローしておく必要があったんでしょう。
先にレビューしたデューク(金田賢一)編の『加奈子』にもそういう意味合いがあったと思うし、ジプシー(三田村邦彦)に至っては登場した次の回で早くもフォローされてましたw そうして懇切丁寧に視聴者と向き合わなきゃいけないのが、高視聴率番組のツラい所かも知れません。
逆に言えば、これほど念入りにフォローしなくちゃいけない位に、登場時のスコッチは本当に怖かったワケです。万人に愛されたテキサス(勝野 洋)の後釜にそんなキャラをぶつけた『太陽』は、やっぱり凄い!とあらためて思います。
ヒロインを演じた倉野章子さんは、当時29歳。文学座の所属で、地味ながら確かな演技力が重宝され、『太陽にほえろ!』には番組初期から、後のオーストラリアロケ編も含め実に8回!もゲスト出演されてます。
どちらかと言えば時代劇の出演が多く、『太陽』以外の刑事ドラマは『Gメン'75』へのゲスト出演が1回あった程度。よっぽど『太陽』とは相性が良かったんですねw
後に同じ文学座の角野卓造さんと結婚。女優活動は一旦休業されるも、'95年から舞台を中心に活動を再開されてます。画像のヌードは、'74年のモノクロ映画『戒厳令』(吉田喜重 監督)より。美しいですよね。