ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#248

2019-08-30 00:00:07 | 刑事ドラマ'70年代






 
☆第248話『ウェディング・ドレス』

(1977.4.22.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=斎藤光正)

繁華街ど真ん中の歩道橋で、若い主婦が男にナイフで刺され、病院に担ぎ込まれます。刺された光子(新海百合子)は命に別状ないものの、なぜか犯人について何も語ろうとしません。

長さん(下川辰平)は光子の過去に何か秘密があると睨み、彼女の故郷である沼津へ飛び、どうやら元カレの古川(高木門)が犯人であることを突き止めます。

古川は、光子が勤め先で上司に乱暴されそうになったのを助けようとして、その上司を死なせてしまい、5年の刑期を終えて出所したばかり。その間に光子が他の男と結婚してしまったワケです。

「奥さん、そうやって黙っているのは、古川への愛情がまだあるからですか? ご主人にそのことを知られたくないからですか?」

古川の名前を持ち出しても黙秘を続ける光子に、長さんは思わず声を荒立てます。

「どっちなんですか奥さん? いや、一体あなたはどういう気持ちで古川を捨てたんですか? 今になってそんなに苦しむぐらいなら、どうして結婚なんかっ!?」

長さんが感情的になるのには理由がありました。翌日に愛娘の良子(井岡文世)が、気象予報士の市村(柴 俊夫)と結婚式を挙げる予定なのです。

恋人だった古川を見捨てて結婚したクセに、自分を刺した古川を庇う光子の気持ちが、長さんにはサッパリ理解出来ません。そして、娘の良子は本当にこのまま結婚して大丈夫なのか?と、マリッジブルーに陥る長さんなのでしたw

「良子。お前な、市村くんと結婚しても一生後悔しないだろうな?」

「あなた! 結婚式の前日になんてことを!」

自宅で、もう寝床に就いてた良子をわざわざ起こし、突拍子もないことを言い出す長さんに、奥さんの康江(西 朱実)が眼を丸くします。

「お前は黙っていなさい! 良子の口からハッキリと聞きたい」

「やだなあ、そんなこと今さら。後悔なんかしません」

あっけらかんと答える良子だけど、長さんは今でも交流があるという良子の「元カレ」が気になって仕方ありません。

確かに、嫌いになって別れたワケじゃない。彼が北海道に転勤してから、何となくしっくり行かなくなったんだと説明する良子に、長さんはますます不安を募らせます。

「なんとなく? 良子、お前そんないい加減なことでいいのか? その人との気持ちも整理がつかないまま結婚するなんて、市村くんにすまないと思わんのか?」

「お父さん、そんなんじゃないんだけどなあ……そんなんじゃないのよ。北海道の彼だって同じ気持ちだと思うの。そうやってだんだん離れていく人もいるし、昨日知り合ったばかりなのに凄く気持ちの通じ合う人もいるわ。そういうものでしょ? 人間って」

「…………」

「私は私なりに、自分の気持ちを確かめて、進さんと結婚することにしたの。心配しないで、お父さん」

「そうか……分かった」

なにも言い訳せず、正直な気持ちを淡々と語る良子に、長さんはかえって安心するのでした。

「あの子も立派な大人になったなぁ……教えられたよ。良子がここまで育ったのも、母さんのお陰だ。俺は何もしてやれなかった」

「いいえ、それは違うわ。良子も俊一もいつも文句は言ってるけど、本当は誰よりもお父さんを一番信じてるのよ」

口喧嘩が絶えない野崎家なのに、見ていて嫌な気分にならないどころか、いつもホッコリさせられるのは、そういうワケなんですよね。

下川さん、西さん、井岡さん、そして長男=俊一役の石垣恵三郎さんと、皆さん素朴なキャラでありつつ芸達者で、野崎ファミリーのエピソードはいつも安心して見てられます。理想的な家族として描かれながら、嘘っぽさを感じないんですよね。特に下川さんと石垣さんはルックス的にも本当の親子にしか見えませんw

さて、翌日。ボス(石原裕次郎)は捜査のことを忘れて結婚式に行くよう命じますが、長さんは光子と古川のことを放っておけません。

こんな時に限って事態は悪化するもんで、古川が警官を襲って拳銃を奪ったという事実を知り、長さんは光子のいる病院から離れられなくなります。

「俺たちに任せてはくれないか?」と山さん(露口 茂)が説得しても、長さんは動きません。昨夜、良子と話して、長さんは光子の気持ちがなんとなく理解出来たのでした。だからこそ、古川にこれ以上罪を重ねて欲しくない。

「ほんの少しの不運が、古川を凶悪犯にしてしまった。その古川の人生を、なんとか立て直してやりたい。今の俺なら、それが出来ると思うんだ……そんな気がするんだよ」

そんな長さんを、奥さんが危篤になっても捜査を優先した山さんに止められるワケがありませんw

良子の披露宴には代わりにボスが出席し、祝辞を述べることになりました。

「新婦のお父さん、野崎刑事がこの席にお見えにならないことは、全て私の責任です」

ボスのスピーチは、いきなり謝罪からスタートしました。

「野崎さんは、立派な刑事です。有能という事だけで言えば、あるいは野崎刑事よりも優れた刑事がいるかも知れません。しかし、他のどんな刑事にも真似の出来ないものを、野崎さんは持っています」

確かに、並外れた推理力の山さんや、射撃の腕前No.1のゴリさん(竜 雷太)、メカや女性心理に強い殿下(小野寺 昭)等に比して、長さんにはこれと言った特徴がありません。そんな長さんが、誰にも負けないものとは……

「それは、優しさです。立派な家庭を築き、良子さんのような聡明なお嬢さんを育て上げた事でも証明されてます。しかし、野崎刑事が優しいのは、家族や仲間に対してだけじゃありません」

長さんが、なぜ娘の結婚式すらすっぽかして捜査に打ち込むのか? その理由を良子は、そして康江や俊一も、口には出さずとも理解していました。ボスのスピーチを聞きながら、彼女らは静かに涙を流します。

「野崎刑事は、事件の被害者のお父さんでもあり、犯人の父親でもあるんです。そういう気持ちで刑事を続けるのが、どんなに苦しく、難しいことか……そしてそれが、どんなに素晴らしいことか、解って頂くために私はやって来ました」

このスピーチには私も泣かされました。これこそ七曲署イズム、『太陽にほえろ!』という作品の揺るぎない基本スピリッツなんですよね。今の時代には通用しないかも知れませんが……

さて、長さんが危惧した通り、拳銃を持った古川が病院に押し入ります。しかし光子は銃口を向けられても逃げずに、古川と向き合います。

「私、変わったの……気持ちが変わってしまって、もうどうすることも……」

「そうだったのか……前科者にはもう用はねえってのかっ!」

逆上して引き金を引こうとする古川に長さんが飛び掛かり、古川は病院の屋上へと逃げ込みます。同僚たちに止められても、長さんは説得を諦めません。

「山さん、話をさせてくれ! 頼む! それが出来ないなら、一体なんのために俺は此処にいたんだっ!?」

長さんは丸腰で、銃を構える古川と真摯に対話しようとします。

「うるせえーっ! デカなんぞに何が解る!?」

「それは違う。デカにだって解るんだよ古川。彼女の気持ちの中に、汚いものがあるかどうか位はね。ちゃんと解るんだよ」

「…………」

「何も、変わったことがあったワケじゃない。裏切りがあったワケでもないんだ。ただな、ただ、彼女が独りぼっちで、一番つらい時に、彼女を労ってくれたのは、夫の石田さんだったんだよ。お前じゃなかったんだ、古川。ただそれだけの事だ」

良子と同じように、光子も古川が嫌いになって別れたワケじゃない。女性の心変わりがドラマで描かれる場合、大抵は明確な理由がつけられるもんだけど、本作ではあくまで曖昧なスタンスなのが、かえって新鮮だしリアルだと思います。

「あのとき光子さんはお前に対して、なんの弁解も救いも求めなかった。いや、かえって自ら身を晒し、正直に告白して、解ってもらおうとした。あのときの眼には、どんなやましさも無かった筈だ」

「…………」

「まだ分からないのか? 光子さんはな、お前に撃たれてもいいと思ってたんだ。もし心の中にやましさがあれば、あんな行動は出来なかった筈だ」

ナイフで刺された時も、光子がまったく逃げる素振りを見せなかったことを、古川は思い出します。

「それはな、光子さんが、弁解すればするほど、嘘になると思ったからだよ」

「……解りたくねえよ、そんな話! 解りたくねえよ! 解らねえよ!」

そう言いながら古川は膝をつき、泣きながら拳銃を手放すのでした。

「だがな、古川。お互いそれを解り合わない限り、本当に立ち直ることは出来ないんだよ。光子さんも、お前もな」

事件を解決させる為じゃなくて、二人を立ち直らせる為にこそ銃口の前に立った、長さんの本気の「優しさ」が古川にも伝わったことでしょう。

こうして事件は解決しましたが、良子の披露宴はとっくに終わっており、せめて新婚旅行への出発を見送るべく東京駅に向かう長さんですが、新幹線も待ってはくれませんでした。

「幸せにな、良子……」

あっという間に遠ざかる新幹線を涙眼で見送った長さんは、独りトボトボと七曲署に帰り、同僚たちには「ギリギリ間に合ったよ」と嘘をつきます。けど、なぜかボスたちは信じてくれません。

「長さんな、まだ終わっちゃいねえんだ。披露宴はこれからだ」

「は?」

長さんが振り返ると、そこにはウェディングドレス姿の良子と市村が! 二人は出発予定を1日遅らせ、長さんが署に戻って来るのを待っていたのでした。

「良子……」

「お父さん……」

泣きました。事件関係者の心情と刑事のプライベートを無理なくリンクさせた脚本も素晴らしいけど、それに加えて我々ファンはずっと以前から、野崎ファミリーの歴史を見守って来ましたからね。これは涙なくして観られません。

良子が初登場し、娘の反抗期が描かれたマカロニ時代の第22話は、長さんの初主演作でもありました。こうして嫁に行った良子に代わって、これからは俊一の進学や就職問題が長さんを悩ませることになります。良子の出産、すなわち長さんに孫が出来るエピソードも見たかったですね。

光子を演じた新海百合子さんは、第206話『刑事の妻が死んだ日』ほか『太陽にほえろ!』には通算7回ご出演の常連ゲスト女優さん。『Gメン'75』や『特捜最前線』『相棒』等の刑事ドラマにもゲスト出演され、脇役一筋ながら現在まで息長く活躍されてます。

良子役の井岡文世さんはプロフィールが見当たらないんですよね。セミレギュラーとして10年近く出演された『太陽にほえろ!』が代表作であることは間違いないと思われます。

余談ですが、画像をご覧の通りボン(宮内 淳)のおでこが出て来ましたw 分け目は6対4ぐらいで、センター分けに行き着くまでの過渡期です。

横にいるゴリさんはスコッチ編の中盤あたりから髪が短くなり、お馴染みのヘルメットヘアが定着しつつあります。
 
コメント (2)
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