こちらはシーズン4の第4話(脚本=櫻井武晴、演出=松原信吾)。いちおう七曲署OBのお一人である、金子賢さん(復活版の最終作『太陽にほえろ!2001』にご出演)が主役なのでレビューすることにしました。
なお、このシーズンより交通課婦警の高杉(佐藤藍子)、刑事一課刑事の千葉(阿部 薫)、生活安全課刑事の滝沢(成松慶彦)といったメンバーが本池上署に新加入。前シーズンから江口のりこさんも「丸山食堂」の店員としてレギュラー入りされてます。
刑事一課の若手刑事=水木(金子 賢)は、かつて自分が逮捕して少年院送りになり、現在は保護監察下にある青年=内海(宮崎 将)が自動車整備工場で働き始めたと知って様子を見に行きます。
社長(せんだみつお)や先輩工員にも可愛がられ、楽しくやってそうな内海を見て安心したのも束の間、署に戻ったら彼が保護司との面談を最近サボってると聞かされ、水木は悪い予感を覚えます。
そんな折り、事務所を荒らして金品を盗む連続窃盗事件が発生。犯人は100kg近くある金庫を一人で運び出しており、どうやら特殊な運搬器具を使ってるらしい。
で、荒らされた事務所の表に設置された防犯カメラを水木がチェックしたら、事件直前に内海がウロウロしてる姿が写ってるから驚いた! そう言えば彼が勤め先の工場で操作してるエンジンクレーンを使えば、150kg位の物でも1人で運べてしまう!
さらに、内海がかつての不良仲間たちと最近またツルみ始めてるとの情報もあり、水木以外の刑事たちは彼に疑惑の眼を向けます。
「よくある話だねぇ。昔の仲間が悪の道に誘い込もうとする……自分達だけが取り残されるようで嫉妬すんのかねえ?」
冷めた口調でそう言う青柳副署長(橋爪 功)に、不良上がりの水木が反論します。
「冷たいからですよ、世間が。更正しようとしてる人間に。だから悪い仲間が誘えば温かく感じてしまうんです」
水木と同じように胸を痛めてる人がもう1人いました。年配の保護司=向井先生(草村礼子)です。親身になって世話を焼く彼女には、内海もなついてた筈なのに……
「保護司って、裏切られてばかり……」
裏切られても裏切られても手を差しのべる……警察官と保護司は似た職業なのかも知れません。だけど水木はきっぱりと言います。
「自分は、裏切られたと思ってません。俺は、内海を信じてますから」
「……内海くんは幸せね。あなたみたいな人がいて」
「でも、俺には先生みたいな人生経験がありませんから」
「人生経験ねえ……人生経験じゃパソコンや携帯メールは使えないわよ? 流行りの音楽や若者言葉も解んない。今の保護司はね、私みたいな年寄りばっかり……本当はあなたみたいに若くないと」
だけど保護司の仕事は時間を取られてハードな割りに無報酬。そこに今の少年法の限界があると向井先生は言います。
「でも、先生は辞めませんよね。どうしてですか?」
「……気がつくと考えてるのよね、子供のことを。なにか、してあげられないかしらって」
どうやら向井先生は、若くして(ちょうど内海と同じくらいの年齢で)亡くなった息子の面影を内海に見ているようです。
そんな向井先生や水木の想いも知らず、警察に疑われた内海はますますグレ始め、仕事をサボって不良仲間と遊び呆けるのでした。
そこで立ち上がったのが我らミスター綺麗事、満点さわやか笑顔の椎名署長(高嶋政伸)です。自ら不良の溜まり場へと足を運び、仲間である筈の彼らが面白半分に「事務所荒しを手伝うよう内海に頼まれた」と嘘の証言をした事実を内海に伝えるのでした。
悪びれもせず「俺たちとポリ公、どっち信じんだよ」と内海に迫る不良たちに、椎名署長は穏やかに言います。
「信じる? いい言葉ですね。でも、信じるって何でしょうか?」
あまりに綺麗事すぎて意味が解らない不良たちに、一緒にいた刑事二課の堂上係長(水野真紀)が代弁します。
「相手のために何かしてあげたい……それが信じるって事じゃないかしら。あなた、彼のために何をしたの? あなたたち、自分たちの事ばっかりじゃない!」
美人刑事にピシャリと言われて立つ瀬を無くした不良たちは、内海を残してその場を立ち去ります。
「分かったでしょ? あの子たち、友達なんかじゃない」
「知ってるよ。だけどこれで俺は、また独りぼっちだ」
そこで椎名署長のさわやか綺麗事砲が炸裂します。
「本当にそうでしょうか? これまであなたのことを信じ、見守ってきた人が誰もいなかったのか、もう一度キミの近くを見て下さい」
「…………」
内海が家に帰ると、彼をずっと待ってた水木に、息子の無実を懸命に訴える母(山口美也子)の姿がありました。
警察に疑われてからずっと水木を無視してきた内海が、ようやく心を開き始めます。
「やってねえよ、事務所荒しなんか」
水木は最初から一貫して内海を信じてるんだけど、向井先生との面談をサボるようになった理由だけが解らない。それを問われて内海が返したのは、面倒臭かったという実にアホな答えでした。
「どうせ世間体を気にして、俺のこと心配してるってポーズ取ってるだけだろ?」
その言葉に、水木はカチンと来ます。
「心配してるポーズ? 俺のこともそう思うか? お母さんはどうだ?」
「…………」
「お前、保護司の人がどんな仕事してるか知ってるか? 」
「知ってるよ」
「言ってみろ」
「……俺たちみたいなのを月に何度か面談して、その報告書を保護監察署に提出するだけだろ?」
「だけ? お前、向井先生の家でメシ食ったことは?」
「……あるけど」
「お前が工場で働く時、保証人になったのは誰だ?」
「……向井先生」
「世間体を気にする人が近所の眼も気にしないでネンショ(少年院)出のお前を家に呼んでメシを食わすのか?」
「…………」
「お前がもし勝手に工場辞めたら、向井先生の世間体とやらが傷つかないと思うか? 1円も貰ってないのにお前と向き合ってる……お前の昔の仲間に、そんな事してくれるヤツが1人でもいるのか?」
「…………」
「向井先生やお母さんや……俺だけじゃ不足なのかよっ!?」
「…………」
「もう少し、周りのことも考えろ」
甘ったれなだけで根は腐った人間じゃない内海のハートに、どうやら水木の熱い説教は響いたようです。
そんな二人の姿を、椎名署長と篠田主任(佐藤B作)が離れた場所から覗き見してました。なにやら感慨に浸ってる篠田に、署長が言います。
「行かないんですか、篠さん。彼らに知らせてあげなくていいんですか」
篠田は事務所荒しの真犯人が判明し、無事に逮捕したことを報告しに来たのでした。
「参りました……水木が、あんなに成長してたなんて」
「誰かを守ってあげたいと思うと、人は成長するのかも知れません」
最初は内海を疑ってた篠田たちも、あくまで彼の無実を信じ抜く水木に感化されて発奮し、見事なチームワークで真実を掴んだワケです。
人を信じようとする心、若手刑事の成長、チームワーク、そして前科者の社会復帰や保護観察の難しさなど社会問題にも切り込む生真面目さ。このシリーズにはやはり『太陽にほえろ!』のスピリット、七曲署捜査一係のDNAを色濃く感じます。
何の主張もメッセージもなく真犯人&裏切り者当てゲームに終始する昨今の刑事ドラマを見るにつけ、テレビ番組は大事なものをどこかで見失ったんだなとつくづく思います。そりゃ高嶋政伸さんも綺麗事を言える場所が無くて怪獣化しちゃうワケですw
いやホントに、こういう真摯なドラマが無くなってきた事と、高嶋さんがさわやか笑顔を捨てて怪獣化への道を進まれた事は、あながち無関係でもないかも知れません。ゴジラだって水爆実験から生まれたワケだし、怪獣をつくり出すのはいつだって我々人類の愚行なのです。我々が変わらなければ高嶋さんを人間に戻すことは出来ません。
ところで、内海を演じたゲストの宮崎将くん。誰かに似てるなぁ、あえて言えば窪田正孝くんかな?とか思いながらプロフィールを調べたら、宮崎あおいさんの実兄でしたw 成程あおいさんに似てるんだけど、窪田くんは全然あおいさんに似てない。不思議なもんです。全くどーでもええ話ですw
そしてセクシーショットは椎名署長の愛娘=由美役で全シーズンにレギュラー出演された、加護亜依さん。「モーニング娘。」でトップクラスの人気を誇ったアイドルだけど、この数年後に喫煙現場をフライデーされて以降はスキャンダルばかりで残念なことです。
だけど生真面目な父親をおちょくる由美のヤンチャぶりが実にリアルで楽しくて、その楽しさは演じる加護さんご自身がヤンチャだからこそ成立してるのかも知れません。
そういうヤンチャな俳優さんをテレビからどんどん排除してることも、連ドラをつまらなくした原因の1つなんだろうと思います。