殉職エピソードばかり話題にされがちな『太陽にほえろ!』だけど、私は辛気臭い殉職編よりも新鮮なサプライズに満ちた新刑事登場編こそが大好きで、特にこのボギー登場編はベスト1に挙げたい傑作エピソードだと思ってます。
このエピソードがなぜ、それほど面白いのか? 後から知った事だけど、本作は『太陽にほえろ!』のエッセンスが全て詰まった第1話『マカロニ刑事登場』の'80年代版リメイクなんですね。脚本&監督も同じコンビが担当されてます。
☆第521話『ボギー刑事登場!』
(1982.9.3.OA/脚本=長野 洋/監督=竹林 進)
ある朝、ドックこと西條 昭(神田正輝)が遅刻ギリギリで七曲署捜査一係室に滑り込んで来ます。
「ふぅ、やべぇやべぇ! ビリかと思ったらそうでもねえや。ロッキーも長さんも……」
そこまで言ってドックはフリーズします。ロッキーこと岩城 創(木之元 亮)がカナダで殉職し、その捜査を指揮した長さんこと野崎太郎(下川辰平)が警察学校教官に転職したばかりである事実を、なんとドックは忘れていたのでしたw
んなヤツはおらんやろ~って当時は思ったけど、あまりにショックなことが起きたとき、人はその記憶を潜在意識下に封じ込める自己防衛本能を有することを知った今では、こんなことも有り得るだろうと納得できます。
すぐ我に返って謝るドックを、ゴリさんこと石塚 誠(竜 雷太)が穏やかにフォローします。
「別に謝ることは無いさ」
「……でも、なんだか部屋が広く感じませんか」
「ああ、寂しくなったな」
しんみりと言うラガーこと竹本淳二(渡辺 徹)とゴリさんに、最近すっかり副指揮官としてチームのまとめ役となった山さんこと山村精一(露口 茂)が言います。
「なあに、じきに賑やかになるさ」
「え? 山さん、それじゃあ……」
「うん。ボスがまた一人、ヘンなの拾って来たらしい」
新登場する刑事が歴代あまりにクセモノばかりで、それはボスこと藤堂俊介係長(石原裕次郎)の趣味である事を、番組開始10周年に至って山さんは悟ったみたいです。ちなみに「七曲署」という警察署名には「七人の曲者」という意味が込められてるんだとか。
さて、その新たなるクセモノ=春日部一(世良公則)は、愛車の黄色い中古ルノーを運転し、呑気にラジオ番組を聴きながら七曲署へと向かってました。先程のドックが滑り込み出勤って事は、春日部はもうとっくに遅刻なんだけど、さすがクセモノ!
春日部のルノーは番組ファンから「ヘイチ号」と呼ばれ、ボギー殉職編の直前まで活躍することになります。「ヘイチ」という名前の由来は、すぐ後に分かります。
ラジオではアナウンサーが「仔犬のコロ」にまつわる美談を朗読しており、それを聴いてもらい泣きしてた春日部は完全に前方不注意、交差点で前の車に軽く追突しちゃいます。
そのちょっとイカツい車に乗ってたのは、中田譲治・長谷一馬・河合 宏が扮する若者三人組。ツッパリ系でちょっとヤバそうな連中です。
「どこ見て運転してんだよ、てめえ」
すぐさま車を降りたリーダー格が凄んで見せますが、春日部は運転席に座ったまま、自分のネクタイで涙を拭いてましたw
「ど……どうしたんだよ、お前」
「……良かったなあ」
「良かった?」
「ラジオ聴いてなかったのかよ? 産まれて1年も経たない仔犬のコロだよ」
「バカ野郎、ひとの車ぶつけといて何が仔犬のコロだよ!」
「あれ、ぶつかったか?」
「降りろ、この野郎!」
三人組に引っ張られて衝突箇所を確認しても、春日部はどこ吹く風で気にも止めません。
「大した事ないよ。だいたいな、バンパーなんてのはぶつける為にあるんだよ」
「ふざけんな、この野郎!」
頭に血が上ったリーダー格が春日部にパンチを浴びせます。
「痛いよ、お前」
「当たり前だ!」
リーダー格がすかさず2発目をお見舞いしようとしますが、春日部は素早く回避。続いて襲いかかる残り2人のパンチも慣れた調子でかわします。が、今度は背後からキックを食らってさすがに怒り心頭。
「しつこいんじゃ、お前らはっ!」
春日部は演じる世良さんと同じく広島出身&大のカープファンという設定で、興奮すると広島弁が飛び出ます。結局は乱闘となり、春日部は矢追二丁目派出所に連行され、そこでドック、ラガーと初対面する事になります。
「3人? へえ~、結構やるじゃない」
どうやら暴走族のメンバーらしい3人を相手に喧嘩して、自身は擦り傷1つ負ってない春日部に感心する素直なラガーと、満面のどや顔を見せる春日部。
「得意そうな顔するなよ。で、喧嘩の原因は何だ」
冷静に尋問するドックに、交番の巡査がいきさつを説明します。
「追突? 免許証持ってるのかね」
「はあ、一応」
「じゃあ一応見せてごらん」
春日部の「一応」という口癖に大雑把な性格が表れてるんだけど、一応持ってる筈の運転免許証をなかなか出そうとしません。
「おい、どうした。お前、まさか無免許じゃないだろうね」
「いや冗談じゃないです、持ってます」
ようやく示された彼の免許証を見て、ドックは一風変わった名前の記述に気づきます。
「ハルヒヘ……イチ」
「ヘイチ?」
「春日部一(かすかべ はじめ)ですよ!」
「いや、だって、ここにハルヒヘイチって」
どうやら警察のコンピュータによる誤読なんだけど、ドックとラガーは爆笑し、交番巡査も含み笑いw 以来、同僚に独自のあだ名をつけるのが好きなドックは、春日部を「ヘイチ」あるいは「イチ」と呼び、それが愛車の通称にも流用されるワケです。
「お前、それより何処へ行こうとしてたんだ?」
「……七曲署」
「七曲署? 何しに?」
「……仕事」
「仕事!?」
ここで舞台は七曲署捜査一係室へと移動、春日部がボスに挨拶する場面となります。
「申告します! 警視庁・大神島警察署勤務・春日部一、本日付をもって七曲署勤務を命ぜられ、赴任致しました! よろしくお願いしますっ!!」
「……随分でかい声だな」
「はっ、何しろ周りじゅう海ですから、大声出さないと聞こえないもんで。申し訳ありません!」
私は最初、世良さんが『太陽』にキャスティングされたことを知って、もっと斜に構えたキャラクターと演技を想像してたんだけど、意外にも世良さんは超がつく熱血&純情キャラ、そしてド直球の演技で、二枚目を気取る素振りが皆無なんですよね。
「で、拳銃持って来たか?」
「はい!」
ここで春日部はコルト・ローマンMk-III2インチのニュータイプを取り出しますが、グリップを上に突き出す奇妙な持ち方をし、射撃の名手であるゴリさんとボスにツッコまれます。
「なんだ、そりゃ?」
「変わった持ち方だな」
「は、何かとこの方が使い易いものですから」
その持ち方がなぜ彼にとって使い易いのかは、後々のシーンで明かされます。
ここで、山さん以下レギュラー刑事たち全員と、マスコットガールのナーコこと松原直子(友 直子)が春日部に自己紹介。これも第1話以来、10年ぶりに見られる光景です。
「俺は石塚だ。ゴリって呼んでくれ」
「ゴリラですか?」
「わははははっ! ゴリラじゃないよ、ただのゴリだよ!(怒)」
春日部はさらに、若手刑事たちには警察学校を何期に卒業したかを尋ね、38期のドックには「失礼しましたっ、先輩です!」と頭を下げ、40期のジプシーこと原 昌之(三田村邦彦)には「ああ、同期の桜か。よろしく頼む」と慣れ慣れしく対応し、45期のラガーに至っては「よし、頑張れ!」といきなり先輩風を吹かせます。
単なるメンバー紹介の場面にも細かくギャグを入れ、同時に新刑事のキャラクターとその魅力を視聴者にアピールする、脚本&演出の手腕が本当に素晴らしいです。
さて、ボスの指示により、春日部はドックと一緒に七曲署管内一円を、ヘイチ号で視察がてらパトロール。これまでゴリさんが請け負ってきた新人刑事の指導役を、これからはドックが担っていくワケです。
マイカーだと無線連絡が出来ないだろうとドックに突っ込まれ、春日部は警察無線の盗聴ラジオを得意気に披露します。送信は出来ないけど捜査情報や緊急指令はこれで聴けちゃうワケです。
「お前、それ違法じゃないか!」と一応イエローカードを示しながらも「面白えな、これ」って、すぐに受け入れちゃうドックの柔軟さが新時代の『太陽〜』を象徴してます。
で、そのラジオから「東亜銀行矢追支店にて強盗事件発生」との緊急連絡が流れ、ちょうど近くにいる2人はヘイチ号で現場へ急行!
そしてバイクで逃走する犯人を見つけた春日部は、道路交通法無視の荒っぽい運転でドック先輩をヒヤヒヤさせながら、犯人を袋小路へと追い込むのですが……

「あっ、いけね!」
そこは軽自動車1台がギリギリ侵入できる幅の狭い路地で、ドアを開けて車を降りるだけのスペースが無く、何も出来ない二人の刑事を尻目に、犯人はバイクを捨てて悠々と逃走しちゃうのでした。
「バカバカバカバカ!! もう少しアタマ使ったらどうなんだ、お前はっ!!」
いやいや、そう言うドックも七曲署に着任した初日に、全く同じミスをやらかしてましたw
せっかく追い詰めた銀行強盗犯を新入りのドジによって取り逃がした藤堂チームだけど、強奪された800万円の中に新札が含まれていたことが判明し、そのナンバーを手がかりに捜査を開始します。
そして翌日、件の新札が自動車販売店で使用されたことが判り、一括払いで新車を買った田上賢一という若者に容疑が絞られます。コピーされた免許証の顔写真を見て、春日部はまたもや大声を張り上げます。
「あっ、こいつ! あいつだっ!!」
田上は、初出勤の道中で春日部が車を追突させ、乱闘騒ぎになったツッパリ三人組の一人なのでした。
暴走族連中から三人がよくタムロする場所を聞き出した春日部は、レストラン「パークサイド」で田上の仲間二人を見つけます。第1話で犯人(水谷 豊)たちの溜まり場として登場した店も同じ「パークサイド」でした。
しかし二人は、春日部が刑事を名乗っても信じようとしません。警察手帳を見せても「どこのオモチャ屋で買ったんだよ」と鼻で笑われ、怒った春日部はまたもや乱闘開始。駆けつけたゴリさんに叱られるのでした。
「俺もこいつと同じデカだが、信用出来んか?」
ゴリさんに睨まれ、途端にショボンとなるツッパリ二人組ですが、田上の居所は知らないと言います。自分のクルマを持たない田上を、彼らは正式なメンバーとして認めてないのでした。
「ま、見習いみたいなもんですね」
「なんで俺の顔見るんだよ!?」
いちいちカッカする春日部に、田上が現れるまで店の表で張り込むことを命じたゴリさんは、二人組とコーヒーを飲みながら、巧みな尋問で田上の恋人の存在を聞き出すのでした。
一方、表で張り込む春日部は、ネクタイで汗を拭きながらw、ふと広島にいる姉=春日部正子(有吉ひとみ)に想いを巡らせます。

春日部のネクタイは、交番巡査から刑事に昇格したお祝いに正子がプレゼントしてくれた物。それを汗拭きに使っちゃう春日部に悪気は無く、ただ単にガサツなだけ。
「姉ちゃん……俺、頑張るけぇの」
仕事中に感傷に浸ってた春日部は、尋問を終えたゴリさんに呼ばれ、慌てて立ち上がります。
「この通りを五百メートル行った所にラボンヌという喫茶店があるんだ」
「いや、コーヒーだったらこの店でいいじゃないですか」
「その店で田上の恋人が働いてるんだよ」
「恋人ですか? だってアイツまだ未成年じゃないですか!(激怒)」
「未成年だって恋人ぐらいいるさ」
そりゃそうですw 田上の恋人=大島裕子を演じるのは、『太陽にほえろ!』常連ゲストの一人・立枝 歩さん。第1話で水谷さんの恋人を演じた鹿沼えりさんと同じ役どころです。
喫茶「ラボンヌ」でバイト中の裕子を張り込むことになった春日部は、店の向かい側にある名画座でリバイバル上映中の映画『カサブランカ』の看板を見つけ、眼が釘付けになります。つくづく集中力のない男ですw
「ボギー……」
『カサブランカ』の主演スターは、言わずと知れたボギーことハンフリー・ボガード。どうやら春日部は、大の広島カープ・ファンであると同時に熱狂的なボギー・ファン。ポケットからダサい帽子を取りだし、其処に来た目的も忘れてボギーの物真似を始める春日部は、通りがかりの女子高生たちに笑われるのでした。
さて、バイトを終えた裕子は一人で公園へと向かいます。どうやら田上と待ち合わせているようで、春日部はジプシーと合流して様子を伺います。
するとタイミング悪いことにナンパなチンピラたちが裕子に絡み始め、放っておけなくなった春日部はジプシーの制止を振り切り、またもや乱闘をおっ始めます。
すぐ近くまで来ていた田上は、それを見て逃走。またもや春日部の純情・熱血キャラが裏目に出ちゃいました。
しかしピンチを救ってくれた春日部に心を許した裕子は、田上が強盗に走った理由はたぶんクルマが欲しかったからだと打ち明けます。
「バカヤロウ! たかがクルマの為に銀行強盗までやるこたねえだろうがっ!!」
「私に怒ったってしょうがないじゃない!」
「あっ、わりぃ、ごめん」
「……でもね、彼の気持ちも解るような気がするの。だってさ、私たち何にもないんだもん」
「何にもない?」
「そう。田舎から出てきて、安いお給料であくせく働いて、自分をすり減らしていくだけだもん。たまんないわよ」
貧乏でクルマも持てないせいで、暴走族にさえ正式に入れてもらえなかった田上に、春日部はシンパシーを抱き始めます。
「せめて、暴走族の仲間内ぐらいでは一人前の顔がしたかったのよ」
「……俺だって、広島の田舎から出てきたんだよ。一つ間違えば、あんたの彼氏みたいになってたかも知れないな」
「でも、あなたはお巡りさんになったわ」
「いや正直言うとな、俺が警官になったのは白バイやパトカーに乗れると思ったからなんだよ」
「うそ」
「ホントさ。でも間違って刑事になっちゃった」

「ふふ、バカみたい」
この辺りも、拳銃を撃ってみたかった第1話の犯人と、拳銃を持ちたくて刑事になったマカロニとの関係を彷彿させます。
すっかり春日部と打ち解けた裕子は、田上が訪れるかも知れない自分のアパートへと案内しますが、いざ実際にアパート前で裕子を待ってた田上を見つけると、反射的に叫んでしまいます。
「賢ちゃん、逃げてっ!!」
「バカヤロウ、なんちゅうこと言うんじゃお前はっ!!」
広島弁で裕子を怒鳴ってから、今度こそ逃がすまじと田上を追いかける春日部。すると今度は、例の仲間二人組が拳銃を持って田上に襲いかかります。その目的は、田上が銀行で強奪した現金の詰まったバッグ。
「テメエら、それでも田上の仲間かっ!? 汚ねえっ!」

怒った春日部は、田上を追うことも忘れて二人と乱闘を始めますw そして春日部も拳銃を取り出しますが、逆さまに持ってグリップを突き出す例の持ち方で、これじゃ撃つことは出来ません。
そう、春日部にとって拳銃は撃つものではなく、悪党を殴る為の道具なのでした。

ところが乱闘中にチンピラが持ってたブローニングの拳銃が弾き飛ばされ、それを田上が拾ってしまいます。
市民の通報によりゴリさんたちが駆けつけた時には、すでに田上の姿は無く、チンピラ二人に夢中でパンチを浴びせる春日部の、満足そうな姿だけが残ってました。
「バカもんっ! 肝心のホシを取り逃がして、お前それでもデカかっ!?」
ゴリさんに怒鳴られ、春日部はようやく我に返ります。この「お前、それでもデカかっ!?」という台詞も、第1話でマカロニがボスに怒鳴られたシーンの再現でしょう。
それでマカロニはやる気を無くし、刑事を辞めようとしてゴリパンチ第一号を食らうワケだけど、そこは'80年代の今回。あまりウェットにはならず、暴走の方向へと向かう春日部に、一係の重鎮・山さんが言葉のパンチを浴びせる運びとなります。
裕子のアパートに上がり込んだ春日部は、田上の居所を強引に聞き出そうとしますが、威圧的になればなるほど裕子は頑なに口を閉ざす。それでも愚直に詰問を繰り返す春日部を、山さんがたしなめるのでした。
「止めないで下さい。田上を逃がしたのは俺の責任です。どうしても俺がやります!」
「やめろと言ってるんだ!」
「捜査というのは1人で勝手にやるもんじゃない。お前、そんなことも分かってないのか? 表で張り込め」
「…………」
「表で張り込めと言ってるんだ」
「……はい、命令には従います。でも、最後の行動だけは自分で決めます。誰が何と言おうと、俺の人生ですから」
その言葉どおり、翌朝、春日部はせっかく応援に駆けつけたドックを置き去りにして、田上に呼び出された裕子を一人で尾行します。
裕子がタクシーを拾って向かった先は、銃撃戦でよく使われるヒューム管工場。ヘイチ号でついて来た春日部は、そこで拳銃を持った田上と鉢合わせします。

田上は震えながらトリガーを引きます。これだけの至近距離なら、いくら相手が射撃の素人でも春日部は無事じゃ済まなかった筈ですが、運良く田上の拳銃は弾切れでした。
役に立たなくなった拳銃を春日部に投げつけ、田上はなおも逃走します。それを追って春日部が走り出した瞬間に流れるのは、あの名曲中の名曲「ジーパン刑事のテーマ」!
別名「青春のテーマ」で、いくら時代が変わってもこの曲が流れると『太陽にほえろ!』らしさが全開になります。
ドックやラガー、ましてやジプシーにこの曲は似合わないけど、春日部=ボギーだと違和感がありません。この瞬間、世良さんがいよいよ七曲署の一員として、我々視聴者に認知されたワケです。
さあ、歌のステージじゃ華麗すぎるアクションを見せて来た世良さんが、『太陽〜』では一体どんな立ち回りを見せてくれるのか?
さぞやスタイリッシュなアクションが見られるかと思いきや、春日部刑事が披露したのはなんと、ただひたすら田上の脚にしがみつくというw、スタイリッシュのスの字も無いぶざまな姿。

だけど、その格好悪さにこそ、もう何があっても絶対に逃がさない!っていう春日部の必死な想いと、この役に全身全霊で取り組む世良さんの本気が感じられます。
そしてこれもまた、マカロニ刑事へのオマージュなんですよね。第2話『時限爆弾 街に消える』の中盤でショーケンさんが全く同じことをやってました。
ジーパン(松田優作)やスコッチ(沖 雅也)の華麗なるアクション、ゴリさんやテキサス(勝野 洋)のダイナミックなアクションも無論すばらしいけど、土足で顔面を踏まれながらも愚直に食らいつく、この究極に泥臭い立ち回りこそが青春アクションドラマ『太陽にほえろ!』の原点であり、真骨頂なんだと思います。

遂に田上の腕に手錠を打ち込んだ春日部は、離れた場所から山さん、ゴリさん、ドック、ラガーがずっと見ていたことに気づきます。「そりゃ無いですよ、俺一人しゃかりきになって……みんな高みの見物ですか」不満そうな春日部に、ゴリさんが笑顔で言います。「そう思うか? 山さん、ドック、ラガー、みんなハラハラしどおしだよ」そう、加勢したいのはヤマヤマでも、新人刑事を成長させるためあえて手を出さないのも、七曲署藤堂チームの伝統と言えます。そこには「お手並み拝見」の意も含まれるかと思いますが、春日部のスッポン戦法は確実に先輩たちのハートを掴んだことでしょう。
「……感激ですよ」「お前の人生は確かにお前のものだ。だがな、人間一人では生きて行けないんだ。解るか?」「はい」
「裕子……」春日部と同じく泥まみれの顔で、田上はドックの横にいる裕子を睨みますが、春日部がすかさずフォローを入れます。「彼女はな、最後までお前を庇おうとしたんだよ。それだけは忘れるな」
さて後日、春日部は中盤で見せたダサいのよりちょっとマシな帽子を被って、あらためて捜査一係室に出勤します。
ちなみに世良さんの帽子姿が見られるのは、この登場編オンリーワン。前任のロッキーも最初は帽子を被るキャラだったけど、全力疾走シーンがやたら多い『太陽〜』では(すぐ脱げそうになって)邪魔にしかならず、殉職編のみ例外として被らなくなってました。
それはともかく、なぜ春日部がイマイチ似合わない帽子を被って来たのか、一係の同僚たちには理解できません。
「分かりませんか? ハンフリー・ボガードですよ。今日から俺のことをボガー……いや、ボギーって呼んで下さい」
新人刑事のニックネームは伝統的に先輩刑事たちが決めるもんだけど、ドック以降は自ら名乗るパターンも増えて来ました。
ドックは着任早々「ドックって呼んでくれよ」なんて、普通は言わんやろ~な台詞でやや違和感があったけど、春日部の場合は藤堂チームがあだ名で呼び合ってるのを数日間見てきた上でなので、まあ自然な流れかと思います。
けど、本人が提案した「ボギー」というあだ名に、同僚たちは全員爆笑w
「ボガードっていうよりアボカドじゃねえか?」そう言うドックはともかく、本人としては不本意なあだ名であろうゴリさんやジプシーからすれば、ボギーの名は格好良すぎて納得いきません。ところがボスは、春日部の希望をあっさり認めちゃいます。「まぁいいだろ。お前、今日からボギーだ」「さすがボス! 有難うございます!」「冗談じゃないですよ、こんなヤツのどこがボギーなんですか!」「慌てるな。同じボギーでもな、お前のはゴルフのボギーだ」「は?」「なるほど、ゴルフのボギーというのはチョンボして1つ多いヤツですよ」「パーですか?」「いやいや、もひとつ駄目なボギー」ここで再び全員大爆笑w

“ゴルフのボギー”は慌てて抗議しますが、もちろんボスは聞く耳を持ちません。「文句言うんだったらお前、チョンボにするぞ。ん?」そう言ってボスは、ボギーの帽子を取り上げます。「ああっ、ボス!」それを目深に被ってポーズを決めたボスは、日活時代の盟友=宍戸錠にソックリなのでした。
PS. このレビューは2018年12月に3回に分けてアップした記事を短縮&再構成したものです。