ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『太陽にほえろ!』#242

2019-08-16 00:00:15 | 刑事ドラマ'70年代






 
☆第242話『すれ違った女』

(1977.3.11.OA/脚本=小川 英&高階秋成&鴨井達比古/監督=竹林 進)

信用金庫で2千万円の現金強奪事件発生! 犯人は1人。帽子とサングラスとロングコートで身を包み、拳銃で店員を脅し、「金をこの袋に入れろ」と書いたメモを見せた犯人は、一言も声を発しなかったと云う。

また、犯人は長身で厚化粧を施し、男性用オーデコロンの匂いがしたとの目撃証言もあり、藤堂チームの刑事たちは「女装した男」の犯行ではないかと睨みます。

そんな中、スコッチ(沖 雅也)だけが異を唱えます。初動捜査の際にスコッチは、男性用オーデコロンの匂いがする長身の若い女性とすれ違ったと言う。つまり犯人は「女装した男を装った女」ではないかと。

しかしスコッチが「すれ違った女」と、防犯カメラに写った犯人とは服装が違うし、そもそも女性が単独で銀行強盗をやらかすなんて、世界的にも例がない。

「だいたい、銀行強盗ほど割りに合わない犯罪は無いんだぞ? 危険は大きいし手掛かりは残るし金を使えば怪しまれるし、そんなものに女が手を出すとは……」

「あら、女ってそんなに計算高いと思ってるんですか?」

そう言って捜査会議に口を挟んだのは、女性週刊誌を手にしたアッコ(木村理恵)。その雑誌には、一文にもならない復讐に燃える、女が主人公の小説が掲載されてるのでした。

そこでスコッチが閃きます。

「外国の推理小説ですが、『ピンク・ミンク』という女怪盗のシリーズに、そっくりのストーリーがあります!」

つまり犯人は、その女怪盗の手口を模倣した女性なのか?

「いや、男がその小説を読んで裏の裏をかいたという事も考えられる」

刑事たちの意見が割れる中、駅のコインロッカーで犯行に使われた拳銃と衣装、そして奪われた現金がそのまま発見されます。拳銃には2年前に起きた殺人事件の容疑者=石岡の指紋が残っており、それが証拠となって逮捕された石岡は、どうやら今回の強盗とは無関係らしい。

石岡は2年前に、拳銃を公園に埋めたと供述しますが、その場所には2年前と違って植木が植えられていた。その植え込みは、近所のOLたちによる慈善グループ「緑の会」が植えたものらしい。犯人はその時に偶然拳銃を掘り出した、やはり女性なのか!?

やがて「緑の会」のメンバーに、スコッチがあの時すれ違った女=恵子(篠ひろ子)がいたことが判明します。

ところが恵子は、自分に強盗の容疑が向けられてる事や、当日に男性用オーデコロンをつけていた事をスコッチに指摘されても、全く動じません。

彼女の身辺を調べても怪しい部分は1つも無く、むしろ人並み以上に恵まれた境遇で、リスクを冒してまで強盗をやらかす動機が全く見えて来ません。

スコッチは例によって容赦なく恵子をマークしますが、彼女はそれを嫌がるどころか、自らスコッチを食事に誘ったりして、むしろ喜んで受け入れます。

それは多分、スコッチが小説に登場しそうなイケメン刑事だからで、ゴリさん(竜 雷太)や長さん(下川辰平)が相手なら対応が大きく違ったかも知れませんw

そうしてイケメン刑事との駆け引きを楽しむ恵子が、ただ一度だけ動揺したのは、高層階のレストランで食事を終えた時にスコッチが言った、この言葉を聞いた時だけ。

「あなたはここへ来て、一度もあの素晴らしい夜景を見なかった。なぜ?」

「えっ? だって……灯りが並んでるだけですもの」

一瞬、うつろな眼をした恵子を見て、スコッチは確信します。強盗犯は間違いなく彼女であること。そしてその犯行には、目的も動機も最初から無かったこと。

それだけに、何か決定的な証拠を掴まない限り、恵子を落とすことはまず不可能。だけど証拠は完璧に消されている……

スコッチは、賭けに出ます。恵子をドライブに誘い、車を海辺に停めて、彼女が模倣した推理小説『ピンク・ミンク』の話を持ち掛けます。小説の中では、真相に迫った敏腕刑事が最後に出し抜かれ、完敗します。

「小説の中で刑事が最後に言ったセリフは……キミはやっぱり泥棒だ。ボクの心まで盗んでいった……」

宮崎 駿さんは、この回を観て『カリオストロの城』の名台詞を思いついたとか思いつかなかったとか。

「それがキミの望みなのか? どうしても小説のように刑事を騙して逃げたいのか?」

そう囁きながらスコッチは、恵子の肩を抱き、ゆっくりと顔を近づけます。これがゴリさんなら即座にビンタを食らうところですがw、恵子は硬直して動けません。

やがて、二人の唇が重な……ろうとした瞬間、恵子は無意識に上着の襟をつまんで口元を隠すのでした。

「やっと出したな、この癖。何かに気を取られた時、キミには必ずこの癖が出る。写ってるんだよ、犯人のビデオ録画に。ハッキリと」

「…………やっぱり、小説みたいにはいかなかったのね」

ついに恵子は観念します。実は防犯ビデオにそんな癖は写っておらず、裁判では無罪になるかも知れないけどw、とにかく彼女は本心をスコッチに吐露するのでした。

「私、退屈だったんです。生きている気がしないくらい、退屈でたまらなかったんです」

退屈だった、なんて言うとゲーム感覚の犯罪みたいに聞こえるけど、彼女の場合は「虚しかった」と表現した方がしっくり来そうです。これも『太陽にほえろ!』における永遠のテーマ「大都会の孤独」の一編と言えましょう。

「でも、刑事さんに尾けられてる時は本当に楽しかった……退屈じゃなかったの。すごく楽しかった」

「…………」

彼女は盗んだ現金に全く手をつけず、わざと見つかるようコインロッカーに置いていた。むしろ彼女のお陰で2年前の殺人犯が逮捕され、ついでに信用金庫の汚職まで暴かれました。

まさにピンク・ミンク顔負けの大活躍をしたワケだけど、小説と違って現実は甘くありません。

例によって七曲署の屋上で物思いに耽るスコッチに、ボス(石原裕次郎)が声を掛けます。

「どうした? お前でも犯人を逮捕して辛くなる時があるのか」

「…………」

「しかしだ、誰かがそれをしなくちゃならんのだ」

『太陽にほえろ!』では珍しい、ちょっと色気のあるハードボイルド・ミステリーで、スコッチというキャラクター、そして沖雅也という俳優さん無くしては成立しなかったであろう名エピソード。

その相手役が篠ひろ子さんであることも、本作の魅力を倍増させてると思います。後にデューク(金田賢一)や喜多さん(寺尾 聰)の主役回で同路線のエピソードが創られますが、沖雅也&篠ひろ子カップルを超えるには少々ムリがありました。

篠ひろ子さんは当時29歳(クレジットは篠ヒロコ)。歌手から芸能活動をスタートし、女優として『時間ですよ』や『悪魔のようなあいつ』等のドラマで注目され、『俺たちの勲章』『華麗なる刑事』『特捜最前線』『明日の刑事』等の刑事ドラマにゲスト出演。『大都会/闘いの日々』と『誇りの報酬』ではレギュラーを務められました。

作家の伊集院静さんと結婚され、2000年代から芸能活動はされてない模様です。『ゆうひが丘の総理大臣』等の青春シリーズでも常連だったし、ゴリさんが出てた『金曜日の妻たちへ』やラガー(渡辺 徹)主演の『風の中のあいつ』、そして殿下(小野寺 昭)と夫婦役だった『毎度おさわがせします』等、『太陽』ファンにはお馴染みで、忘れられない女優さんの1人です。
 
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