ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『走れ!熱血刑事』#09

2018-11-22 12:05:03 | 刑事ドラマ'80年代









 
CATVの録画をほとんど早送り再生で観てた『走れ!熱血刑事』だけど、この回には早送りさせない力がありました。

まず、ゲストヒロインとして登場する、田中美佐子さんの存在感。デビューされたばかりの21歳で、当時のクレジットは「田中美佐」名義でした。

この番組を早送りせずにいられない一番の理由は、少年少女たちの拙い演技が見るに耐えないからだけど、さすが後にブレイクされるだけのものを、田中美佐子さんには感じるワケです。そんなキャストが1人いるだけで、クオリティーが全然違って来ますからね。

加えて、ストーリーに普段よりも緊張感があり、マツケンさん以外の刑事のキャラがよく活かされてる点もポイント高いです。


☆第9話『秀才ブルース』(1981.1.19.OA/脚本=藤井邦夫/監督=江崎実生)

光一という高校生が、学校の屋上から転落死します。遺書も見つかり、自殺であることは明らかなんだけど、クラスメイトのツッパリ少女=令子(田中美佐子)は「光一は先公たちに殺されたんだ!」と主張。

少年課でもなさそうなのに(そもそも何課なのかハッキリしないw)未成年が絡む事件は放っておけない愛住署の刑事たちが、光一の身辺を捜査することに。

結果、光一は校内で起こった盗難事件の、どうやら濡れ衣を着せられたことが判って来ます。

そんな折り、同じ場所で光一の担任教師が転落死。盗難事件で盗まれたとされるラジカセが現場で発見され、光一の幽霊による復讐だ!と生徒たちが騒ぎます。

証拠も無いのに、なぜ教師たちは光一を盗難事件の犯人だと決めつけたのか?

「ジュニア」こと速水刑事(荒木しげる)は、光一の墓に花を供えていたクラスメイト=直也が何か知ってると直感し、捜査を進めます。

どうやら、その直也こそが盗難事件の犯人だった。ところが直也の父親である代議士=板倉は地元一の権力者で、教師たちは頭が上がらない。直也以外の誰かを犯人に仕立てる必要に迫られたワケです。

で、反抗心からフザケて犯人を名乗った光一を、これ幸いと教師たちは生け贄にした。まさか自殺しちゃうとは思わずに……

にしても、裕福な家庭で不自由なく暮らす直也が、なぜ盗難事件を起こしたのか? それは恐らく、権力者の加護下にいるボンボンならではの、欲求不満が原因だと速水刑事は見抜きます。

速水が「ジュニア」と呼ばれるのは、大物起業家の一人息子だから。

つまり直也と同じ境遇のボンボンで、似たような感情を自身も抱いてた。そんな自分に嫌気がさし、あえて警察官というハードな職業を選んだワケです。

「直也、独りで歩くんだ! 誰の世話にもなるな! 自分のことは自分で決めろ! お前はもう子供じゃないんだ!」

板倉やその取り巻き連中に殴られ蹴られ、フルボッコにされながらも、諦めず直也に食らいつくジュニア。

ついに直也は、父親の制止を振り切り、自分の意思で、真相を全て告白します。

光一が自殺し、罪悪感に耐えられなくなった直也は、盗難の真犯人は自分だと告白したのに、担任教師はそれを揉み消そうとした。直也は盗みの証拠品であるラジカセを持って担任教師に食い下がり、揉み合った弾みで教師は転落してしまった……

刑事物や2時間サスペンスでよくあるパターンだけど、ちょっと揉み合った位で転落しちゃう屋上がいっぱいある日本って、どんだけ危険な国やねん?って思いますよねw

それはともかく、自殺した光一の無念がいくらか晴らされ、彼を好きだった令子にもようやく、可憐な笑顔が戻るのでした。

杉サマしか活躍しない『大捜査線』とは対照的に、今回の『走れ!熱血刑事』は主役の山本大介(松平 健)が脇に回ってます。

それが良かった!とは言わないけれどw、このエピソードに限って言えば、荒木しげるさんが主役で良かったと思います。

マツケンさんって何となく、人間味が稀薄なんですよね。あくまで私感だけど…… マツケンサンバを踊ってる姿も、なんだかサイボーグみたいに見えませんか?w

このドラマにおけるマツケンさんがまた、なかなかの暴力刑事なんですよねw あんな爽やかな顔して、実は怒ると一番狂暴な人だったりするw(そこんとこも『大捜査線』の杉サマに対抗してた?)

そのマツケンパンチがまた、速い上に重量感があって、食らうと本当に痛そうなんですよね!

やっぱ、さすがの暴れん坊将軍です。『走れ!熱血刑事』なんてダサいのじゃなくて、ストレートに『殴れ!暴力刑事』ってタイトルにすべきでした。そしたらリアルタイムで観てましたよホントにw
 
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『走れ!熱血刑事』1980~1981

2018-11-22 00:15:03 | 刑事ドラマ HISTORY









 
1980年の11月からテレビ朝日系列の月曜夜8時枠で全26話が放映された、松平 健 主演による刑事ドラマ。制作はテレビ朝日&勝プロダクション。

当時、杉 良太郎さんの『大捜査線』と二大時代劇スター対決!ってことで話題になったけど、両方パッとしないまま散りましたw

ちなみに、この年リアルタイムで放映されてた刑事ドラマは他に『太陽にほえろ!』『Gメン'75』『特捜最前線』『西部警察』『噂の刑事トミーとマツ』『大空港』『鉄道公安官』『爆走!ドーベルマン刑事』『大激闘/マッドポリス'80』『87分署シリーズ/裸の町』『非情のライセンス』『警視―K』と、まさに百花繚乱、粗製乱造、そのほとんどがアクション系というパラダイスの時代でした。

そんな中で『走れ!熱血刑事』は、最も地味な存在だったかも知れません。内容はともかく注目度の点で、少なくとも我々世代(当時のティーンエイジャー)には無視されてました。

まず『走れ!熱血刑事』っていう、ベタにも程がある番組タイトルからして、創り手のやる気を疑わずにいられません。当時の感覚でも相当ダサいですw

で、別に少年係でもなさそうなのに、なぜか未成年絡みの事件ばかり扱ってる。当時、校内暴力が社会問題になって『金八先生』がヒットした影響かも知れませんが、当然ながらゲスト出演者が芝居の拙いガキンチョばかりになっちゃうもんで、クオリティーに難ありです。

少年犯罪を扱うとなれば『大捜査線』みたいにハードかつビターな展開は期待すべくもなく、お涙頂戴のくっさい青春ドラマになりかねません。

実際、第1話のクライマックスは主人公=山本大介(松平 健)とメインゲストの不良少年が川辺で殴り合い、最後に笑い合うという、一番やっちゃいけないパターンで収束しちゃいました。

なんで、こんな事になっちゃうのか? 先発の『大捜査線』がコケたのを見て、無難に当てに行ったんでしょうか?

杉良太郎ファン、つまりアダルト層しか相手にしなかった『大捜査線』に対して、この『走れ!熱血刑事』は若い連中にも松平健を好きになってもらおうっていう、媚びを感じずにはいられません。パトカー仕様のカスタム・ジープなんかも子供騙しに見えちゃいます。

どれくらい真剣に練られた企画なのか、我々には知る由もないけれど、杉サマの『大捜査線』にはあった「迫力」がこのドラマには感じられません。

爽やかだけにクールな魅力に乏しく、アクションが飛び抜けて上手いワケでもなく、拳銃も全く似合わないマツケンさんに、若い視聴者がなびくワケないんですよね。そもそもコンセプトが間違ってる、としか言い様ありません。

実はマツケンさん、『太陽にほえろ!』の新人刑事候補の1人だったそうですが、落とされて大正解。その直後に『暴れん坊将軍』でブレイクされるワケですから、マツケンさんご自身にとってもラッキーでした。

そんなマツケンサンバを囲むレギュラーキャスト陣は、デカ長の宍戸 錠を筆頭に、水沢アキ、坂上二郎、荒木しげる、阿部敏郎、竜崎 勝と、刑事ドラマでお馴染みの面々。安心感はあるものの新鮮味がありません。

とまぁ、悪口ばっか書いてますけど、あまりに力作すぎたライバル『大捜査線』や、同じ勝プロ制作による怪作『警視―K』よりも一般的には観やすいドラマで、その無難な感じが私みたいなマニアには物足りなく感じちゃうんだろうと思います。
 
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『警視―K』#04

2018-11-21 17:10:16 | 刑事ドラマ'80年代





 
☆第4話『LiLi』(1980.10.28.OA/脚本=高際和雄&勝 新太郎/監督=勝 新太郎)

睡眠薬を飲まされ絞殺された資産家の、清楚で物静かな未亡人(ジュディ・オング)に、賀津警視(勝 新太郎)がマジ惚れしちゃうというエピソード。

本人は必死に隠してるんだけど、やたらソワソワするわ急にオシャレになるわで、周囲の人間にはバレバレというお茶目さw

タバコの煙を未亡人が嫌がるのを見るや、自分の手のひらでタバコを揉み消し、真顔で「熱くないです」ってw

石原裕次郎さんや渡 哲也さんには決して似合わない、勝新さんだからこそ成立するストーリー、勝新さんだからこそ笑えるユーモアですよね。

で、未亡人はこう言います。

「主人は、私が殺したんです。私が殺したようなものなんです」

夫は結婚記念日に浮気相手の「リリ」に殺されたらしく、全ては夫を浮気に走らせた自分のせいだと思ってる未亡人に、賀津警視は同情し、ますます肩入れしちゃう。

ところが! リリという女の所在がさっぱり掴めず、未亡人には事件当日のアリバイが無い。本当にリリという女は存在するのか?

やがて、未亡人の様子に異変が表れます。急にヒステリックな声を上げたり、独りで誰かとブツブツ会話していたり……

そして賀津警視は、リリを名乗る女からクラブに呼び出されます。目の前に現れたのは、派手なメイクをして妖艶な笑みを浮かべる、あの未亡人なのでした。

そう、夫を殺したのは、言葉通り彼女自身だった。資産家の妻として生きる為にずっと抑えて来た、彼女の淫らな本質がリリという別人格となって現れたワケです。

「結婚記念日だから、勝負したの」

彼と最期の時を過ごしたのは未亡人ではなく、自分だと言って勝ち誇るリリに、賀津警視は哀しく投げ手錠を放るのでしたw

刑事が惚れた異性が実は犯人だった!っていうネタは定番なれど、そこに多重人格という病理的な問題を絡ませた脚本が秀逸で、『警視―K』にしては解り易くw、見応えがありました。

深刻で悲劇的なストーリーなのに、決してウェットにならない勝新演出も素晴らしいと思います。

未亡人に鼻の下を伸ばした賀津警視に、娘の正美(奥村真粧美)がヤキモチを焼いて風邪引きを装い、賀津がオタオタと心配するラストシーンも微笑ましい。

聖女と悪女を巧みに演じ分けたジュディ・オングさん(当時30歳)の芝居も素晴らしかったです。

『エーゲ海のテーマ~魅せられて』を大ヒットさせた台湾出身の歌手として知られるジュディさんだけど、元々9歳の時に劇団ひまわりに入団された女優さんで、私もテレビ放映で観た記憶がある'60年代の劇場版アニメ『サイボーグ009』2作で003=フランソワーズを演じられた声優さんでもあります。

台湾映画、アメリカ映画にも数多く出演され、'79年に島田陽子さんがヒロインを務めて話題になったアメリカの大ヒットドラマ『将軍/SHOGUN』も、最初はジュディさんにオファーが来たんだそうです。(『魅せられて』大ヒットによる多忙で断念)

日本では時代劇への出演が多く、刑事ドラマは『非情のライセンス』や『はぐれ刑事純情派』『警視庁捜査一課長』等にゲスト出演されてます。近作だとレギュラー出演された『銭の戦争』『嘘の戦争』が印象深いですね。

ついでに書くとw、このエピソードには勝新さんが主宰された「勝アカデミー」の第一期生=大柴 亨さんもチョイ役でご出演。後のルー大柴さんです。
 
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『警視―K』#01

2018-11-21 12:00:14 | 刑事ドラマ'80年代





 
☆第1話『そのしあわせ待った!』

(1980.10.7.OA/高際和雄&勝新太郎/監督=勝新太郎)

最近CS等で何度となく放映され、再評価を集めて「ようやく時代が勝新太郎に追いついた」なんて云われてるけど、時代(視聴者の感性)はむしろ大きく退化しており、単に本放映当時は子供だった視聴者が大人になり、このドラマの楽しみ方を理解出来るようになっただけ、じゃないかと私は思ってます。

私自身がそうでした。本放映当時はそもそも夜9時以降のテレビ観賞を禁止されており、再放送された記憶もなく、初めてちゃんと観たのはほんの10年前のことでした。

その時も、既製の刑事ドラマの概念を打ち破り、徹底的にリアルな演技を追究する勝新さんの心意気はよく理解出来たものの、刑事ドラマとして面白いかどうか問われれば、答えはノーだと思ってました。

それが先日、日本映画専門チャンネルで再び特集放映された『警視―K』の第1話をあらためて観てみると、やっぱこれ面白いかも?ってw、思えるようになって来ました。私もようやく勝新さんに……いやいや、追いつくことなんて誰にも出来やしません。

ストーリー自体はやっぱり、それほど面白くはありません。そもそもよく解んないしw 台本はあって無いようなもんで、ほとんど全編アドリブで芝居するもんだから、その場の勢いで真犯人が予定と違う人になったりするような世界ですw

リアリティーを追究したと言っても、話の内容はちっともリアルじゃない。そもそも所轄署のヒラ刑事たちと一緒に捜査してる「警視」の立場がよく分かんないし、犯人逮捕時には鎖が5メートルある「投げ手錠」を使いますからねw

勤務中に部下たちと花札やってるし(たぶん賭けてますw)、取調室では相手に酒を呑ませて喋らせようとするしw、軽く絡んで来ただけのチンピラども(たぶん未成年)を容赦なくフルボッコにするしw

つまり、現実の警察はどうのこうのみたいな事と、勝新さんが求めるリアリティーとは次元が全く違うワケです。

勝新さんが求めたのは、人間そのもののリアリティーなんですね。現実世界の人間は従来のTVドラマみたいに理路整然と喋らないし、いつでも段取り良くは動けない。ましてや聖人君子でもないワケです。

本当にリアルな人間を描くために勝新さんは、台本を無視して現場のノリで台詞を言い、辻褄なんかは二の次、三の次にし、殴るシーンでは本当に殴るし、飲酒シーンでは本物の酒を呑んだ。前述の取調べシーンでは、情報屋を演じる川谷拓三さんが本気でグデングデンに酔っ払ってて、何を言ってるのやらサッパリ判りませんw

結果、台詞が聞き取れない!ストーリーが全然解らない!といったクレームが局に殺到し、視聴率も最低ラインまで落ち込むんだけど、勝新さんはいっさい方針を変えなかったし、日テレ側もそれを容認した。あの時代は、ただのサラリーマンじゃない、ちゃんとした志を持つクリエイターたちが番組を創ってたんです。

だけど、勝新さんがあまりに妥協を許さず、撮影に膨大な時間をかけ、納得がいくまで何度も撮り直したりする内に、製作が放映日に間に合わなくなっちゃったw で、やむなく半年の予定が1クールで打ち切られちゃう。

この翌年に勝プロは倒産しちゃうんだけど、たぶん『警視―K』 製作で大幅に予算オーバーしたことも原因になった筈。勝さんは根っからのクリエイターであり、経営者には向いてなかったw

そんな裏事情を知ってしまったことも、私が10年前より『警視―K』を楽しめるようになった、大きな要因の1つだろうとは思います。

でも、それだけじゃなくて、フィクションの裏側にあるもの、創り手や演じ手たちの想いに対する興味や共感が、歳を重ねるにつれ強くなって来たことも影響してると思います。

若い頃にはそこまで感じ取れなかったのが、歳を取って敏感になっちゃった。歳を取ったことイコール、その作品を創った人達の年齢に近くなってるワケですから。

そういう深い部分以外でも、例えば勝新さんが初回ゲストの石橋蓮司さんを尋問するシリアスなシーン。

石橋さんがアドリブで「いや、彼はああいう人ですから」みたいにテキトーな返しをすると、すかさず勝新さんから「ああいう人って、どういう人なのか説明して」とツッコまれ、一瞬笑いそうになっちゃう瞬間とかw、あらためて観るとメチャクチャ面白い。

第2話では、勝新さんが双眼鏡を覗きながら歩いて電柱にぶつかるという、ビートたけしさんばりの小ボケも見せてくれるし、愛娘が男とデートしてるのを捜査中に見かけて「そこの若いカップル、離れなさい!」ってパトカーのスピーカーで呼び掛けたりw 勝新さんのお茶目な面も随所で見られるんですね。

その愛娘を演じてるのが、勝新さんの実子=奥村真粧美さん。最終回では別れた妻役で中村玉緒さんも登場されます。

勝さん演じる賀津(ガッツ)警視は『リーサル・ウェポン』ばりにキャンピングカーで生活してて、娘と二人暮らしなんだけど、これがまた妙にセクシャルな雰囲気で、当たり前のようにキスしたりする異常な親子w

そんな感じで何もかもが規格外の『警視―K』は、昭和の時代だからこそ成立した刑事ドラマであって、「やっと時代が追いついた」なんて言うのは見当違いも甚だしい。昭和をナメるなっ!(乳首)

これほど昭和の魅力が詰まったドラマは他に無いかも知れません。未見の方は是非、一度観てみて下さい。映像もスタイリッシュだし、きっと新鮮な驚きが待ってます。
 
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『警視―K』1980

2018-11-21 00:00:04 | 刑事ドラマ HISTORY





 
私が「フィルム撮り」のTVドラマにこだわるのは、例え小さな画面で観る短編~中編サイズの作品であろうが、1本の「映画」として楽しみたいっていう、根強い願望があるからなんですね。

かつてTVドラマが「テレビ映画」と呼ばれてたのは、映画畑の創り手達がフィールドをテレビの世界に移しても、あくまで映画を撮るつもりで取り組んでたから……だろうと私は思ってます。

だからフィルムで撮られる刑事物や時代劇は、大抵において1話完結の構成でした。1本1本のエピソードが独立した映画だったワケです。

現在は全ての連続ドラマがVTRで製作され、1クール分=12本前後が1つのストーリーになるよう構成されてます。テレビ映画が良くも悪くも進化を遂げて、映画とは全く形式の異なるメディアに変貌したワケです。

それを否定するつもりは全く無いんだけど、多感な少年期を「テレビ映画」漬けで育った私としては、やっぱり寂しさを感じずにはいられません。

まぁ私の願望はともかく、まだフィルム撮りのドラマが主流だった頃、人一倍テレビで「映画」を創る事にこだわった映画スター兼映画監督がおられました。

あまりにこだわり過ぎて常識の枠から外れてしまい、その番組は1クールで打ち切りの憂き目に遭ったものの、ようやく最近になって再評価の声が高まり、今や「伝説の刑事ドラマ」として語り継がれる存在となりました。語るのはごく一部のマニアだけかも知れませんがw

それが1980年の10月から12月、日本テレビ系列で『大都会』シリーズや『探偵物語』など数多くの傑作を生んだ火曜夜9時伝統のアクション・ドラマ枠にて放映された『警視ーK』全13話です。

勝プロダクション製作で主演は勝新太郎さん。のみならず大部分のエピソードをご自身で監督される熱の入れようで、脚本も全て監修されてたみたいです。

いや、脚本はあって無いようなもので、勝新さんは従来の刑事ドラマのわざとらしさを嫌い、リアリズムを追求する為にあえて台詞を書き込まず、役者さん全員にアドリブ芝居を要求されたんだそうです。

だから会話が噛み合わなかったり、辻褄も合わないし、展開が飛んじゃってストーリー自体が繋がらないw 脚本上で犯人とされてた人物に、なりゆきでアリバイが出来てしまい、慌てて別の犯人をキャスティングしたりとかw、現場は色々と大変だったみたいです。

また「現実の人間はTVドラマみたいにくっきりハッキリ言葉を発しないだろう」って事で、俳優さん達にくっきりハッキリ喋らせなかった結果、台詞がよく聞き取れず視聴者からクレームが殺到したんだとか。

更に、セット撮影を避けてほとんどがロケ撮影、しかも照明を使わず自然光にこだわった為、画面が薄暗かったりもする。

日本においては絵空事の銃撃戦やカーチェイスも一切なし。そこまでリアリティにこだわった割に、犯人逮捕の際には投げ銭ならぬ「投げ手錠」というw、チョー現実離れした荒技を使っちゃうお茶目さがあったりもする。

主人公=賀津警視のキャラクターも、存在自体が妙に威圧的だし、刑事部屋で花札してたりなんかしてヒロイックな刑事像には程遠く、そもそも「警視」がなぜ所轄署でヒラ刑事達と一緒に捜査してるのかが分かんないw

プライベート描写も独特で、キャンピングカーで愛娘(勝新さんの実娘=奥村真粧美)と二人暮らしなんだけど、父娘の会話がやけにセクシャルな空気を醸し出してるんですよね。(ちなみに別れた元妻を演じるのは中村玉緒さんw)

……とまぁ、まるで自主製作映画のノリで、何から何まで勝新カラーに染まりまくった『警視ーK』は、ゴールデンタイムのTVドラマとしてあまりに斬新すぎて、大半の視聴者はその狙いが理解出来ずにソッポを向き、初回は14%あった視聴率も1ケタ台まで急降下(最終回は4.4%)。

私は当時、夜9時以降のテレビ視聴が許されてなかったゆえ『警視ーK』は最近になるまで観た事がありませんでした。もし当時観たとしても、やっぱり大半の人と同じようにソッポを向いてたと思います。

でも、今観るとメチャクチャよく解るんですよね、勝新さんがこのドラマでやりたかった事が。要するに、TVドラマという枠(あるいは刑事物というジャンル)にとらわれない、あくまで「勝新太郎の映画」を創ろうとされてたんだと思います。

俺がやるからには、絶対ありきたりの刑事ドラマにはしたくない。それが観たけりゃ『太陽にほえろ!』とかを観てくれりゃいい。これはあくまで、勝新太郎が創る中編映画なんだ……

そういうとてもクリエイティブな志で創られてるのが、画面からヒシヒシ伝わって来るんです。ストーリーはやっぱりよく解んないけどw、勝新さんの情熱だけは痛いほどよく解ります。

当初2クール以上の予定が1クールの放映で終わっちゃったのは、視聴率の低迷やクレームの殺到もありつつ、勝新さんが妥協を許さず何度も撮り直したりする内に、予算もスケジュールも大幅にオーバーしちゃった事も原因らしいです。

その挙げ句に勝プロダクションが倒産ですよ。ワガママを通した勝新さんの自業自得とも言えるけど、あの方はただ純粋に「良い作品」を創ろうとされただけなんですよね。それしか頭に無い、正真正銘のクリエーター。だから経営者には向いてなかったw

今、これだけの志と覚悟を持ってドラマを創ってるディレクターやプロデューサーが、一体どれ程の数いるでしょうか? あの当時でも、なかなか稀有な存在だったかも知れません。

だからって『警視ーK』が刑事ドラマとして傑作かと言えば、私はどちらかと言えば珍作だと思うしw、やっぱ『太陽にほえろ!』を観てる方が落ち着きます。

それでも、勝新太郎の映画愛と飽くなき情熱(役名の賀津はガッツのもじり)が目一杯詰まった、この伝説のドラマは一見の価値ありです。CSの映画チャンネルでたまに放映されてますので、もし興味があれば、是非!
 
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