害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

異星からみた昆虫分類

2008-02-29 23:41:00 | 自然観察

研究や業務目的で、昆虫その他節足動物を飼育しなければならない場所においては、重要な種ほど様々なトラブルに見舞われて滅びやすいが、どうでもいい種は良く増えるという謎の法則が存在する。昆虫の蒐集家を悩ましてやまないヒメマルカツオブシムシは、衣類の防虫性能試験などの分野で大切な実験動物であるが、いざ大量増殖させるとなるとなかなか難しい。実験動物の条件として、いつも一定のコンディションが保たれて、多数の個体が利用できるということが重要だけど、簡単なようで簡単にはいかない。
今日、事務所の恒温器のなかを覗くと、全く需要の無い妙なチャタテムシ( Embidopsocus sp. )は、法則どおりとても良く増えていた。この方々は和名がなく、ここ5年ほどのあいだに近畿地方のあちこちで気がつくようになったので、おそらく外来種なのだろう。ライトトラップにはハネが生えた個体が飛来するが、飼育していると無翅の個体ばかりになる。大体、日本のコナチャタテ科の仲間で飛翔できる種類なんて、他にいるのだろうか?
Embidopsocussp 

Embidopsocusは、始新世後期(4000万年前くらい前)のコハクからも同属の種がみつかっているので、ヒト属よりは大先輩。始新世後期といえば、ちょっとしたことがあった時期だ。シベリアと北米東海岸に直径5キロの天体(富士山よりも少し大きい程度なので大した事ないが)が、続けさまにポトンと落ちてきたってことが知られている。この先輩方のご先祖は大きな流れ星を見ている可能性があるわけだ。なんかうらやましい。

夜空の星を見上げて考えることの一つに、地球以外に文明があるとして、そこにはどんな分類学があるのだろうかということ。異星人とコンタクトして、数学者、物理学者、化学者はコミュニケーションがとれそうだが、生物の分類学者はどうなのだろう?種の概念に宇宙共通の法則性が見つかることはあるのだろうか?

アニメに出てくる長門有希さんのような異星人が、本当に地球にいたらぜひお伺いしてみたいものである。私は「長門有希の100冊」のうち12冊を遥か昔に読んでいるが、最近はSF小説などを全く読んでいない。でも、昆虫の記載論文の一部については、私にとって恐ろしく難解なので、ある意味、思弁的なSFを読んでいるような気になる。そういえば、昆虫の研究している人って、他の人から宇宙人扱いされている方が多いような・・・・(俺もやけど)。


休日のスケルツォ

2008-02-24 20:12:58 | 日記・エッセイ・コラム

いつも何かと忙しい休日だが、本日は午後からピアノと声楽のコンサートに出かけた。音大出身の人々が、クラシック音楽の啓蒙のために、無料で本格的な音楽を聞かせてくれるというイベント。すばらしいの一言に尽きる数々の演奏のなかで、久しぶりにゴージャスな時間を過ごした。音楽が好きでたまらなくてしょうがないという感じのキレイな女性ばかりだったことも、オジサンを和ませてくれる要因の一つであったことは素直に認めざるをえない。
私自身は縦笛もちゃんと吹けたためしがない人間だが、音楽の才能があって、それを洗練して高め続ける人にはとても感動させられる。声楽の人などは、静かに黙って立っている時と比べると、歌っているときに身長が大きくなっているような気さえする。周りの時空をゆがめる能力があるとは考えにくいので、こちらの認識系に音波を介したインパクトが加えられているに違いない。音楽の与えるものは、なにか計り知れないところがあって、ちょっと恐ろしくもある。昔、かの小柴昌俊博士は、ノーベル賞とれる人より、モーツァルトなどの偉大な作曲家のほうが偉いような気がするなんていってたことがある。音楽ができる人に、とらえどころのない畏怖のようなものを感じるのは、たぶん私だけではないと思う。
Piano5 

負けてはいられない。会社で昼休みに縦笛をふいてみようかと、家路に着きながら不穏な考えが浮かんだ。


偉い人に整理して欲しいSilvanus

2008-02-16 23:20:12 | 自然観察

一般家屋でみられる昆虫を分類しようとしても、微小な種になると分からないものがでてくる。私なんかが文献と格闘しながら同定しても、分類学者には苦笑されるようなケースが多い。
家屋内でみつかるムシのなかで、カビを食べる微小なコウチュウ類は、名前調べがかなり厄介。そんな厄介なムシの一つが、フタトゲホソヒラタムシ属 Silvanus である。なにしろ、世界には20数種もいて、大きさ(2-3mm)も形態もみなよく似ているし、木材の輸出入と共に分布が広がっている種もいるからだ。私も、いろいろな標本をみるたびに、「いったい日本には何種いるのだろう?」と思いながら、かなり適当に種まで決めたり、不明種扱いにしたりしていた。
結局、どの種類にしても、合板などに生じたカビを食べて生活している種なので、業務的には、無理に種まで同定する必要は全くない。でも、やっぱり分類してみたくなる衝動が沸いてくるのはどういうことなのか、自分でもよく分からない。
で、同定の手引きになりそうな文献を入手すると、うれしがって分類を試みたりするわけだ。今回は、イタリア自然史科学博物館Museo di Storia Naturale di Venezia のサイトで公開されている研究紀要のなかに Silvanus の検索を見つけて、「ふおおーっ」と、のだめ状態になりながら手持ちの標本の一部を分類してみた。イタリア語でもweb翻訳でなんとかっ!・・・・・・・・できるのか?

01silvanusbidentatus まずは、図1、フタトゲホソヒラタムシ S. bidentatus と思っている種の確認。これは、間違いなさそう。しかし、従来この種類と同定されている標本の中に、かなり違うものが混じっているようなのだ。それが次の種類。

02silvanusunidentatus 図2は、大阪、京都、兵庫などの新築家屋で、最近みつかっている種類なのだが、よくみると前種とは異なっている。どうやら、S. unidentatus のようだ。この種類は世界中で分布が確認されているので、日本でみつかるのは全然変な話ではない。(その後の調べでunidentatusも一致しない点があるのでsp. のまま保留。2月29日加筆) 某公衆衛生研究所を始めとして、日本のサイトで紹介されている画像(小さいのばっかりでハッキリしないが)のいくつかは、こちらの種の可能性がある。でもこの種類に和名をつけるとすると、どうするんだろう。フトフタトゲホソヒラタムシ?(変!)ハバビロフタトゲホソヒラタムシ?(長っ!)

参考文献)RATTI E., 2007 - I Coleotteri Silvanidi in Italia (Coleoptera Cucujoidea Silvanidae). Boll. Mus. civ. St. Nat. Venezia, 58 2007: 83-137, ill.のPDF


殺虫剤はいつも悪者

2008-02-15 13:10:45 | 日記・エッセイ・コラム

中国製冷凍食品の殺虫剤混入問題が、新聞で連日取り上げられている。国内で殺虫剤が付着した事例も出てきて、かわいそうなことに大手の害虫管理会社が、悪者にされているようだ。ウチような小さな害虫屋にも、電話がかかってくる。「お宅でも使ってる?メタミドホスとかジクロなんとかとか?」
「メタミドホスはみたこともないですが、ジクロルボスは日本の害虫駆除業界では、かなり普通に使用されてますよ。」と返事をしている。ジクロルボスという薬剤は恐ろしい面もあるが、虫が嫌いなヒトを安心させるためには便利な薬剤なのである。

よく言われることだが、安全な薬剤は存在しない。ただ安全とおもわれる使用方法があるだけである。

なんだか急に関心が高まっているジクロルボスは、年間何トン程度使用されているかなんて調べたことがないが、大量に消費されていることは間違いない。特にプレート剤(樹脂蒸散剤)は普通に使用されていて、身の回りをみても、浄化槽や汚水槽といった排水処理設備には、たいてい管理業者が槽内に吊り下げている。
これは、チョウバエ類という汚水で発生する不快害虫を抑えるためである。プレート剤は蒸散性があり、比較的長期間効果があるので、チョウバエ対策には適している。浄化槽のフタなんかを頻繁に開けてみたいなんて、誰も思わないから手間がかからない方法が好まれるというわけだ。チョウバエ類を家屋内でみかけることは許せん!というヒトが多いおかげで、プレート剤の重要は絶えることがないだろう。私はチョウバエ対策として、最も強く勧めるのは浄化槽や排水管の清掃で、その費用が出せない感じの場合はプレート剤の使用を勧めることにしている。一般家庭では、日に数個体みかけるというレベルであれば、完全に放置しておくことなどもお勧めである(というと大抵の奥様は気を悪くするが)。あまりにも多いということであれば、それは家の配水設備のどこかにドンデモナイ問題が生じている可能性があるので、有効な対策は配管工事屋さんの領域になる。

 さて、問題はこの便利なプレート剤が、有人の室内でも使用されている事があるということだ。最近でも、たくさんの作業員が働いている食品関連施設の生産ライン、倉庫、売り場などでプレート剤が使用されている現場に遭遇することがある。使用されている理由は、浄化槽の時と同じで「手軽に」虫がいない室内にできるということだ。責任者に、労働環境の悪化と商品で問題が起きる可能性があるので、有人の室内からは撤去することを勧めるが、明確に取り締まる法律があるわけでもないので、そのままの場合が多い。「自動害虫駆除機」も結構みかけるが、やはりジクロルボスを使用しているものが大半である。手軽さを追求するのであれば、これらの薬剤に頼るのは仕方ないことである。

商品は安くしないといけない。そして虫もゼロにしておきたい。

大手の害虫駆除会社も、これらの需要に対応して業務をおこなっているだけである。ウチの害虫管理のように、みんなで掃除をしましょうなどという、人的コストがかかる方法を採用していては儲からない。でも、儲かって大きな会社になった後は、ヒトの健康や環境問題に取り組むってのが先進国の企業のトレンド(発展途上国からは嫌われるトコロ)なんだから、何とかしてほしいものである。製造環境の昆虫の発生状況を調べたり、こまめな清掃を実施することがコスト高に結びつくとしても、長い目で見れば総合的なコストは高くならないと思う。なので、管理費用が安い大手害虫駆除会社ばかりでなく、見積もりが中途半端に高いウチの会社にも、防虫管理の仕事が回ってくる世の中になってくれるよう願ってやまない(って我田引水やな)。


豪州あたりからのコケのムシ 其の三

2008-02-06 23:35:00 | インポート

其の一ってのは、少し過去に書いた、西宮市で「投光器に集まって焼かれていたヤツラ」のネタのことで、そのときは、ずんぐりむっくりのクセにずいぶん飛ぶらしいってことに注意を引かれた。
Microchaeteslarva01とりあえず、今後はミクロカエテス(Microchaetes sp.)と呼ぶことにする。
幼虫が潜り込んでいたコケを調べてみた。どうやらホソウリゴケというド普通種らしい。この手のコケは何でもかんでも「普通のギンゴケ」と呼んでいたが、似たような別種(しかも普通に生えているらしい)がいくつかある。この星の生き物を調べるのは、本当に大変だ。誰でも「普通の○×△」という常套句は多用しがちだが、実際には、どの種類をさすのか厳密でないことが多い。まあそれでも日常生活に困ったりすることはあまりないが。
ミクロカエテスが、こういう「蘚類」を利用するということは、チョット面白いと思う。大阪市内でみたシラフチビマルトゲムシはゼニゴケ類である「苔類」の方にいた。郊外でみられるドウガネツヤマルトゲムシも「苔類」にいると文献で読んだことがある。舗装された道路の隅などに形成される蘚類マットには、競合する在来種がいないため、ひっそりと速やかに分布の拡大ができたのかも知れない。

昨日の成果をまとめると、

・成虫3個体(雌雄は今のところ不明)

・蛹2個体

・幼虫多数

成虫が変わった形をしている割に、幼虫は地味めな感じ。

*参考文献)Lawrence, J.F. & Britton, E.B. 1994. Australian Beetles. 192
pp. Melbourne University Press. (本種の成虫と幼虫の図が載っている)Microchaetesventral

*文献に載っていた線画と同じように、成虫の腹面から写真を撮ってみた。