研究や業務目的で、昆虫その他節足動物を飼育しなければならない場所においては、重要な種ほど様々なトラブルに見舞われて滅びやすいが、どうでもいい種は良く増えるという謎の法則が存在する。昆虫の蒐集家を悩ましてやまないヒメマルカツオブシムシは、衣類の防虫性能試験などの分野で大切な実験動物であるが、いざ大量増殖させるとなるとなかなか難しい。実験動物の条件として、いつも一定のコンディションが保たれて、多数の個体が利用できるということが重要だけど、簡単なようで簡単にはいかない。
今日、事務所の恒温器のなかを覗くと、全く需要の無い妙なチャタテムシ( Embidopsocus sp. )は、法則どおりとても良く増えていた。この方々は和名がなく、ここ5年ほどのあいだに近畿地方のあちこちで気がつくようになったので、おそらく外来種なのだろう。ライトトラップにはハネが生えた個体が飛来するが、飼育していると無翅の個体ばかりになる。大体、日本のコナチャタテ科の仲間で飛翔できる種類なんて、他にいるのだろうか?
Embidopsocusは、始新世後期(4000万年前くらい前)のコハクからも同属の種がみつかっているので、ヒト属よりは大先輩。始新世後期といえば、ちょっとしたことがあった時期だ。シベリアと北米東海岸に直径5キロの天体(富士山よりも少し大きい程度なので大した事ないが)が、続けさまにポトンと落ちてきたってことが知られている。この先輩方のご先祖は大きな流れ星を見ている可能性があるわけだ。なんかうらやましい。
夜空の星を見上げて考えることの一つに、地球以外に文明があるとして、そこにはどんな分類学があるのだろうかということ。異星人とコンタクトして、数学者、物理学者、化学者はコミュニケーションがとれそうだが、生物の分類学者はどうなのだろう?種の概念に宇宙共通の法則性が見つかることはあるのだろうか?
アニメに出てくる長門有希さんのような異星人が、本当に地球にいたらぜひお伺いしてみたいものである。私は「長門有希の100冊」のうち12冊を遥か昔に読んでいるが、最近はSF小説などを全く読んでいない。でも、昆虫の記載論文の一部については、私にとって恐ろしく難解なので、ある意味、思弁的なSFを読んでいるような気になる。そういえば、昆虫の研究している人って、他の人から宇宙人扱いされている方が多いような・・・・(俺もやけど)。