害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

改造カメラで接写

2012-03-26 23:59:00 | 自然観察

会社の倉庫に置いてあるヤマトシロアリ飼育容器を清掃した。材は相生市から採取してきたもので、シロアリは滅びてしまって、その後にツツキノコムシsp.とトビムシ類が大量発生した。他にもイッスンムカデやら、エグリゴミムシやらが出てきたが、珍しげな虫は出てこなかった。
とはいえ、エグリゴミムシはお気に入りの虫なので、材を廃棄する前に幼虫を液漬にしておいた。

2011年は、エグリゴミムシ属の幼虫について重要な論文がでていた。
Moore W, Song XB, Di Giulio A (2011) The larva of Eustra (Coleoptera, Paussinae, Ozaenini): a facultative associate of ants. ZooKeys 90: 63-82.
論文中に出てくるEustra sp.というのが、E. japonicaに似ている。アリとの関係にも触れられているけれど、この属とアリとの関係はビミョーだと思う。
少なくとも、南大阪で普通に生息しているエグリゴミムシは、アリの巣と関係がなさそうな場所でも多く見られる。朽ち木でハリアリ類やヤマトシロアリのコロニーをつついたりしていると、巣の端っこの方でエグリゴミムシの成虫がチョロチョロしたりするのを見かけることもあるけれど、社会性昆虫が入居中の領域にまで入り込んでいるトコロは見たことがない。幼虫は林床に転がっている太い木の裏側で見つかり、好蟻性というカンジはしない。
20数年くらい前、所用で沖縄本島に行った折に、ジュウジエグリゴミムシの幼虫も採集しようとしたけれど、成虫は少なくなかったものの、幼虫採集は空振りに終わってしまった。本州のように湿った太めの朽ち木が少なかったので、もう少し深い場所かシロアリのコロニーに近い場所にいたのかも知れない。
私は別にこのグループを研究しているワケでもないのだけれど、幼虫の尾端にある分泌物で覆われた円盤が獲物のトビムシを誘引している?とか、種によって円盤の形状がどんな風に異なっているのだろうとかってことに関心がある。エグリゴミムシとオオエグリゴミムシの幼虫の円盤は記録されたので、日本の種の円盤に関しては、ジュウジエグリゴミムシだけが課題として残っていることになる。

年のせいか昔話が多い・・・。ついでに書いておくと、私が見た最初のエグリゴミムシの幼虫は、若かりし日のAcleris氏が、田舎からお土産で持ってきてくれた物である。30年くらい昔の話。ルリクワガタの仲間採ってきた!(キガシラアオアトキリゴミムシだった・・・)幼虫も入ってるで!と渡された朽ち木の中の幼虫を実体顕微鏡で見て驚いた。

当時、刊行されたばかりの「甲虫の幼虫の見分け方(林長閑著)」を取り出して、不敵に微笑みながらエラソーに同定したるわとなどと安請け合いした記憶がある。
偉大な本を活用しきれず、実は絵を見比べているだけの私には、その本のなかで近い種を見つけられなかったくせに、ハネカクシの一種であろうと意見を述べた。
「えええええぇぇぇぇぇーーー」とAcleris氏は、疑惑と不満と抗議のいりまじった反応を示していた。「ハネカクシは分からない!ゆえに分からない幼虫はハネカクシである!」と私は強弁したが納得した風ではなかった。
その後、甲虫図鑑I巻がでてヒゲブトオサムシ科幼虫の図と出会うまで、ずっとナゾの幼虫だったのである。

Shovoy_cx1_2

液漬にする前に写真撮影をしておいた。この頃、よその虫関係のブログをみていると写真のクオリティーの高さに目をむくのだが、当ブログも一眼レフレベルに肉薄すべくリコーCX1に改造を施して撮影を試みた。


一歩どころか数百歩およんでいない気がする・・・・。

エグリゴミムシ幼虫の体表によく付着している菌類。
ゴミムシ類のLaboulbeniales目なんかは複雑な形状で面白いけれど、これは単純なカタチ。同じ目なんだろうか?

Mushikabi_2

*エグリゴミムシ幼虫の写真が消えて、カメラ本体だけの画像を表示していたのを修正した。(2017/07/27)

 


つけやいば

2012-03-22 23:57:22 | 自然観察

Mandibular_appendage


おおあごが鋭い虫は、カッコイイ。クワガタとかゴミムシとか。
上の写真の虫は、おおあごだけ見せられると、肉食系昆虫みたいに思えるが、意外にもゾウムシの仲間である。

ホソヒメカタゾウムシ Asphalmus japonicus と同定した。将来的にはいくつかの種に分かれそうと図鑑に書いてあった。


先の方の長く鋭いキバは、口器付属物と呼ばれていて、成虫が老熟すると落っこちてしまい、根元のトコロだけが残る。
「付け焼刃」のつもりで誤用されやすい言葉に、「付け刃」いうのがある。
この虫の場合は、「付け刃」でokだと思う。

相生市にて、乾燥気味の雑木林で採集して保管していたコケのマットから、つい先日出てきた。まだ発育が不完全で、体表が硬化しきっていない。

他の部分はぷにぷにして柔らかいのに、クチだけは丈夫なヤツである。
口から先に生まれてきたに違いない。

Asphalmus_sp

*おおあご付属物というシロモノは、成虫が蛹室から脱出する際に役立っているらしい。
それくらいの用途に、わざわざ中歯までついている鋭いキバが必要って意味ワカラン。なんか、コッソリ変な物食べてそう。

*おおあご付属物Deciduous mandibular procesの関連情報。

1)International Weevil Community Website
Glossary of Weevil Characters
http://weevil.info/glossary-weevil-characters

2)Morimoto, K. & H. Kojima, 1994. On the systematic
position of the genus Euphyllobiomorphus: an adelognathous weevil with cylindrical rostrum (Coleoptera, Curculionidae). Esakia, (34): 131-146.


慶雲鎮圧

2012-03-17 23:59:16 | インポート

Nagare01_5


いにしえの日本人は、ユスリカの群飛を慶事として尊んだという説がある。今の、虫嫌いが多数派と思える世の中からは想像のおよばない話だ。慶雲昌光なんて熟語が挨拶状などに使われたりするが、その雲たるものが虫のコトを指すなんて知ったら、イヤな顔をする人も多いだろう。

おびただしいユスリカが棲む川は、一般的な感覚からすれば、やはり汚い。川には市民が様々なモノを捨てる。空き缶、コンビニのレジ袋、タバコの吸い殻、掃き集めた落ち葉、動物の糞、ロードキルの動物などなど。
準工業地域を緩やかに流れる川に浸かり、ユスリカの幼虫を採集していると、巨大で色鮮やかなアロワナの死骸が、目の前をゆっくり流れていくといったシュールな光景や、わずかに上流側の川縁に立つ青年が、社会に出してはいけないモノを大公開しながら放尿しているところなどにも遭遇できる。
大きなマンション群の隙間にある薄暗い河床から、狭い空を見上げていると、ココこそが文字通り社会の底辺なのかも知れないなどと、ワケも無くドン底な気持ちが胸に押し寄せまくる。
橋の下にある居心地の良さそうな隙間で、借り暮らししている方と比較しても、私の方が間違いなく一段下の位置だ。

そういえば、写真奥の橋の下で暮らしている方には、大変申し訳ないことをした。橋の下に仕掛けたユスリカ成虫調査用の粘着板に、髪の毛がべったり残っていたところをみると、かなりご面倒をおかけしたと推察する。

底質をサンプリングして驚くのは、実体顕微鏡下でみるとトイレットペーパーやティッシュ由来と思われる紙繊維の小片が多量に見つかることである。ヒトの毛も多い。貴重な森林を使って造ったセルロース製品達は、相当な部分がこのようなカタチで地球に還っていくわけである。下水に流れていくヒトの毛も、日本全国で集計してみたら、いったいどれほどの量になるのやら。

荒廃しきった環境という形容を添えたくなる川ではあるが、昆虫やその他の生き物はかなり面白い。何もいないように見えるけれど、よくみると小さなトビムシが護岸の汀線に無数にいる。トビムシの間には、カタビロアメンボ類、ミズギワカメムシ類に混じって、ミズカメムシの不明種(Mesovelia sp.)などもみられ、ゴミハネカクシの仲間っぽいのも走り回っている。これらの同定は、思いのほか簡単にいかない。こんなところに這いつくばって生きている連中をみていると、「誰も知らない」という邦画の名作をなぜか思い出した。
ユスリカたちもひっそりと暮らしていれば、誰も知らない存在であるわけだが、大量に発生するので駆除対象となる。しかしながら、成長阻害剤などでもって短期的に個体数を減少させられても、次の年には同じように発生するのでとっても逞しい。害虫の定義とか、自然保護の方向性とか、どんどん分からなくなってくるなぁ。

この川で採れた掩喉類(Phylactolaemata)の体内からでてきた未熟な休芽?(普通1mmくらいのものなのに、これは2mmくらいあって膜状部がみあたらず、紐付き構造)も貼っておこう。私は甲虫ファンなので、「コケムシ」でGoogle検索すると、コケムシ科Scydmaenidaeがなかなか出てこなくて、外肛動物のほうがトップで出てくるのがなんだか悔しい。外肛動物の方は駆除対象になっている県もあるが、甲虫のコケムシのほうは駆除対象となった事例もないので頑張って欲しい(何に?)。Phylactolaemata_2



しにまね

2012-03-11 14:58:36 | 自然観察

●それぞれの事情で上の空で歩いたり、超視野狭窄なチャリンコこぎしている若者が、町に多く見られる時期である。頭の中がバラ色の人も、灰色の人も、みんな交通事故には気をつけよう。当社でも軽い人身事故が1件発生。
害虫駆除業者は、人生のかなりの時間を自動車に乗って過ごしているのだから、おのおの方はとても気をつけなければいけない。若者にも自身の将来ある身を守るために、用心しいしい町中をさすらって頂きたい。

●近所の子が日本で最難関といわれている某大学に現役合格!うちの子らに、合格した子の頭をなでで、自分の頭をなでると御利益があるだろうからやってこいと忠告しておいた。
数年前に、昆虫学者2名とたまたま昼食をご一緒する機会があった。片方は親子2代でチョウをやってる家の御父君のほうで、別の一人は親子2代で水生昆虫をやってる家の御子息であった。で、どちらの父子も凄い難関大学出。
チョウ家の御父君の方に、かねてより抱いていた疑問をぶつけてみたことがある。「どうやったら、子供を賢くてムシ好きにできるんですか?」
静かにほほえみながら「親が節度あるムシ採りをすることでしょう。」とお答え頂いた。
水生昆虫家の御子息のほうに視線をむけると、やはり頷きながらほほえんで居られた。

うーむ。参考になりまへん。おとんが無節操なムシ採りをしたくとも、経済的に困難な我が家であるが、ウチの子達がムシ嫌いで、定期テストのたびに残念な結果を持ち帰るのはどうしたわけか?

Microchaetes
●今年も、此花区の道ばたコケからミクロカエテスの成虫を採集した。
つつくと、いつまでも擬死行動をしている成虫を撮影してみた。生きた個体なので、体表のゴミ取りが十分にできなかった。それにしても見事な死にマネだ。強い光線を浴びながら、無冷却で生きたまま焦点合成撮影の被写体になってくれる甲虫なんてあんまりいないと思う。15枚くらい撮影した時間を含めて、40分ほどゼンゼン動かなかったが、その後ピクっと後脚片側を動かしたかと思ったら、やにわに歩き出した。
擬死は面白い研究テーマだと思う。ハッキリ覚えていないがファーブルもヒョウタンゴミムシの一種とかで、擬死の時間が繰り返すごとに短くなるみたいな観察をしていたような気がする。
こういうことは、いまでも遺伝学とかも交えて、様々な方面から研究されているらしいが、ミクロカエテスも面白い素材だと思う。
写真を見ていると毛の生じ方がとても複雑で、色彩などに雌雄差があるような気がする。乾燥標本から交尾器出して確認してみたい。属名のMicrochaetes は「小さな、流れるような毛」という意味のラテン語らしい。
昆虫学では小剛毛という意味で、形態学的な用語として使用されているようだ。ググると、マルトゲムシのほうがあんまり出てこないのに、ショウジョウバエの絵がやたらとでてくるのは、そのせい。


同定してみた(ハナノミダマシ編)

2012-03-03 15:35:57 | インポート

Anaspis_luteola01
Anaspis_luteola02
はるかな昔の採集品を、標本箱をあさくって探してみた。
前回の記事で触れていた狩り蜂の泥巣からでてきたハナノミダマシの一種。
大阪府和泉市信太山,1979年3月19日に蛹で採集。ヒメベッコウ(近頃ではクモバチというらしい)の一種の古巣を壊して得た。

「絵解き検索 ハナノミダマシの見分け方(初宿, 2011)」を使用して同定に挑戦してみた。日本語で書かれているってだけでもウレシイ検索表だが、加えて絵解きとくれば、親切な大人に導かれる迷子の3歳児のごとく感謝の気持ちでイッパイになろうというものだ。
分類学の論文は、一般的に図が少なくて難解なモノが多い。専門家の負担を考えると、いちいち誰にでも分かりやすくなんてやってられないのは同然だろうけれど、たまに全体図や部分図がたくさん示されている論文をみつけると、知識量少なめ読者としては大変読むモチベーションが上がる。

ハナノミダマシの絵解きは、シンプルな図で分かりやすく作られていた。
読み手が簡単に感じるモノには、えてして作り手側のオソロシク大変な労力が注ぎ込まれている。まあフツーに正座して読むのが基本だろう。
読み出して、ものの数分もたたないうちに種にたどりつけた。

キイロフナガタハナノミAnaspis (Silaria) luteola Marseul, 1876
本州、四国、九州、朝鮮半島に分布。山地から平地まできわめて普通。

であるとのこと。「なんじゃこりゃ?」とかいいながら興味津々である採集者に、最大限のダメージを与えるのが、この「きわめて普通」という言葉の矢である。

このハナノミダマシが、狩り蜂の古巣に紛れ込んだのは、おそらく偶発的な出来事だったのだろう。 
先日採集した幼虫と同じ科だが、こちらのAnaspisの幼虫には、あのタヌキみたいなシッポが無いようである。

*注:この絵解き検索は環境動物昆虫学会から発行されている講演会テキスト「環境アセスメント動物調査手法21」に収録されている。コレを書いている時点では「六本脚」で扱っている。って学会のHPで、この冊子の案内をみつけられないのはナゼ?!

*ビビッたのは前記事で、てる氏から頂いたコメントにある、ハナノミダマシ亜科の幼虫は尾端付属物を自切するという話である。
再度BugGuide.Netをみなおしてみると、たしかにスジアシハナノミダマシ(Canifa)の一種の幼虫で、シッポがない個体の写真があった。
1,2,3・・・と腹節を数えていくと普通に9節目にみえるので、お尻がなくなったらウンチどーすんねん?と心配したが、あたりまえながら真・お尻が切り離し可能な付属物の基部に隠れているのだろう。
ハナノミダマシ科という和名も、記憶の中で整理に困る。マルハナノミ科、マルハナノミダマシ科、ナガハナノミ科、ナガハナノミダマシ科、ハナノミ科、オオハナノミ科・・・(タメイキ)。
最近の学名は分かりやすく統合されてたりするのかも知れないと思い、Family-group names in Coleoptera (Insecta), 2011のpdfをみてみたら、ハナノミダマシ科にワケのワカラン亜科が+3くっついていた・・・(タメイキ)。
甲虫は大好きだが、いろいろな情報に触れるにつれ、ニガテ分野になりつつなるのはナゼだろう?