暖かくなって、業務対象のムシたちが活躍してきているが、ケナガコナダニ類の観察は断続的に実施中。
ケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae は、とても小さくて柔らかく、ドコが害虫なのか分からないくらい弱々しい。
刺すわけでもないし咬むこともない。アレルゲンっていっても、一般的な日本の住環境であれば、一時的にしか発生しないので、医学的な問題の原因として重要ってコトもない。
それでも、過去には人体内から検出例が多かったり(そのほとんどは検査器具の汚染と今では考えられているけど)、鉄筋コンクリート集合住宅が流行りだした昭和時代後期には、畳が動くコナで覆われるなんて問題が続出したので、旧厚生省が昭和63年に殺ダニ剤の供試虫として通知を出したりしている。つまり、衛生害虫として公認されたのは割と最近である。
ダニ類はプレパラートにしないと特徴が観察できないけれど、薄膜の袋に脚と毛が生えて歩いているみたいな種が多いので、処理の仕方しだいで色や形がずいぶん変化してしまう。
不出来な標本になってしまうと、まったくナゾの生物に見えたりする。何でもない種をコレは珍しい種か!などと勘違いしたりして始末が悪い。
偉い先生の記載でもシノニムが多かったりするのが、ケナガコナダニの特徴の一つになっている。
そういうわけで、オオスズメバチの巣から現れた(らしい)ケナガコナダニ属の一種(以下ケナガsp.と称する)が、どこか違って見えたという件も、我ながらきわめて疑わしいといわざるを得ない。
そもそも、なにを根拠に違ってるなんて思ったのかというと、脚が暗い色をしているような・・・というくらいのとても曖昧模糊とした印象があっただけだ。
さてケナガコナダニ属の種までの検索は、
1.眼斑(胴体の先端近くの背面側方に一対ある暗色の丸い模様)の有無、
2.背中側の毛の長さ
3.一番前にある脚にある第1感覚毛(ω1)というチョット変わった毛の形
・・・etc.
というあたりで区別するようになっているので、それらの特徴を確認してみた。
とりあえず、背中の毛の長さを測ってみた。ナガコナダニ属の場合は、特に第2背剛毛(d2)が第1背剛毛(d1)の何倍くらいかということが区別点として重視されている。
写真を撮って、定番フリーソフトのImageJを使用して、背中の毛をカチカチと地味にマウスでなぞっていくという作業。
ケナガsp.の雄はこんな感じ。
ケナガコナダニにソックリというと、オンシツケナガコナダニT. neiswanderiがいて、d1とd2の比が 1.4-2.1らしい。ケナガコナダニは1.9-3.4。
ケナガsp.は2個体計ったが2.8-3.5だった。ケナガコナダニの範囲内。
念のためにケナガコナダニの雄も1個体計ってみた。
だいたい3.0くらいで、ちゃんとケナガコナダニだ。コレが変だったら、過去におこなった生物試験は何だったのかってコトになるので、ホッとした。
他の形質も順次みていくことにしよう。