害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

業界の動き

2008-10-29 17:10:00 | 自然観察

大阪市の中央公会堂にいくのなら、地下食堂のハヤシライスは必ず食べないといけない、とヨメから強い口調でいわれていたのだが、入り口付近でH社長とバッタリ出会ってシロアリ用ベイトステーションの実験の話を延々していたら、会議の時間がきてしまい食べそこねた。

幼稚園の音楽会かなんかが催されている場所の地下では、害虫駆除業者が集まって、とある会議が行われていた。みんな黒っぽい背広で、イカツイ感じのオッサンだらけである。その筋の人っぽい集団の中で、自分がなじんでいるのがなんだかなと思うが、少なくとも大学関係の研究者ばかりの学会よりは落ち着く場所として感じる。

アルゼンチンアリのスーパーコロニーと遭遇して、あの手この手で対処していった体験談を、数社の方々から聞けて有意義な会議だった。普通は会議といえば、下向いて落書き(環境調査会社に売り込むバカバカしいメカの数々とか)ばかりしているのだが、この日はガラにもなくメモをとっていたくらいである。筆記用具を持っているというのも我ながら驚異的である。

セアカゴケグモやら、アリなどの不快害虫ネタでこの業界が盛り上がることなんてないだろうと思っていたが、時代の変わり目なのかもしれない。

Amaragigantea *大阪府和泉市浦田町 2008年10月25日採集のセアカゴケグモの巣に引っかかっていたオオマルガタゴミムシの死骸。大型肉食昆虫も勝ち目ナシである。


サクラの頃

2008-10-26 23:00:30 | 自然観察

Paratrechina_sakurae_male_2  小さな黒い羽アリ(体長約2mm)と黄褐色の小さな働きアリ(約1.5mm)の相談が増える時期になった。ちいさいアリが、セロテープやらティッシュなど、さまざまなモノにくっつけられたり包まれたりしてウチの事務所にやってくる。写真のはガムテープ版である。こういうのは、たいていサクラアリで、黒いのはオスってことが多い。このアリの問題が増えだしたのは、ここ十数年のあいだと思う。新しい害虫で、一般的な害虫の解説本に載っていないこともあって、相談件数が多いのだろう。
サクラアリはアメイロアリの仲間。でも、オスの羽アリはなんど見ても、微毛に覆われた体表や頭部の形から、小型のケアリ属か?って感じで覚えられない・・・、働きアリよりチョット大きいし。アリの分類って難しすぎやな。
最近、なぜ人家で発生が目立つようになったのかは不明。チンプだけど、こいつの分布拡大も温暖化によるものかもしれない。
 家の中で働きアリを見たこともないのに、畳の隙間から多数の羽アリと働きアリが突然出たなんて話もある。家の中に一時的に群れが移動してきてる場合もあるようなのだけど、情報が少なくてなんだかよく分からないアリである。


ナニモワカラナイ ゲーマー

2008-10-21 23:43:08 | 自然観察

Ropeway 一昨日のことだが、仕事でびわ湖バレイにいった。新しいロープウェイに乗った。デカイ。速い。カッコいい。もうこれは宇宙船のブリッジである。乗っている最中は、フロアの真ん中に腕組みして艦長のつもりで立っていたのだが、前に座っている人に向って何か航法的な指示を出したくてしょうがなかった。

驚いたのは、ブリッジ内にガイドのアナウンスが入ることだった。しかも虫の話題。
コナラがカシノナガキクイムシによって枯れているということを解説していた。
しかも現在は駆除実験中らしい。

Dead_tree カシノナガキクイムシって、最初は温暖化によって高標高地に分布を拡大して、耐性のないミズナラを高率で枯らしていくという温暖化系トピックスだった。でもどうやら、それだけでもないらしい。愛知県の調査会社の知り合いから教えてもらったが、最近は低地のコナラやアベマキもボコボコにされているという。巨樹だけでなく、クワガタの森までヤバいのか?

ヒトの営為で自然が壊れるという概念は、ヒトの思い上がりかもしれない。巨樹の価値も、埋立地のゴミも「自然」には等価なのだろう。時が満ちれば別のものへ変転してゆく・・・。いろいろな自然を制御しようとしている人類だが、実はルールのことが全然わからないゲームに参加しているプレイヤーの状態って気がする。まったく勝ち負けどころか、どこに向かっているのかも分からない。さて、このカシノナガキクイムシからの一手は、先のターンでどんな展開になっていくのだろう?

Sika 


カブっている名前

2008-10-17 23:55:07 | 自然観察

涼しくなると虫が少なくなるのでヒマになってもよさそうなのだが、今年の秋も例年通り瑣末なチョイ仕事の嵐で忙しい。ライトトラップの粘着紙を検鏡している同僚のカウンター音もけたたましい。1個体同定するごとに幾らになるんだろう?1円?

害虫駆除業界全体で、計数されているムシの数は年間で合計すると何億匹くらいになるのか知らないが、環境アセス業界よりは多く数えているに違いない。量だけで考えれば、国内全域でたゆまなく実施されている害虫駆除関連の調査は膨大なものである。これらに関わる標本やデータを集中管理することができれば、昆虫学史上最大規模のデータベースになるだろう。もちろん、質が伴えばだが・・・。

急に、カウンター音が止んで「これ何だろ?」とかツブヤいているので気になってのぞきにいった、「キスイムシの一種でしょ。」と口を出すと、「少し前に聞いた時には違う科名をいってたよーな気がするけど・・・。」「ウルサイな。こんなちっちゃい奴はキスイムシ科でもムクゲキノコムシ科でもナンでもエエンじゃい!」とかいいながらも、捕虫紙の粘着剤を除去して、ガラス板にマウントされた標本を調べてみた。
見るたびに同定結果が違うと苦情がでていたムシは、コケムシ科 Scydmaenidae だった。どちらのコケムシも、コケムシらしくない体型ではあるが・・・。

Eutheia_sp

f ig.1 ホソヒラタコケムシの一種
Eutheia sp.
兵庫県西宮市(食品工場)、
調査期間2008年8月25日から
同年9月25日まで設置した
ライトトラップ(ムシペチャ)で採集

Cephennodes_sp fig.2 ムナビロコケムシの一種
Cephennodes sp.
兵庫県豊岡市(食品工場)、
調査期間2008年8月27日から
同年9月29日まで設置した
ライトトラップ(ムシポン)で採集

和名のコケムシって、コケとどういう関係?とおもうが、英名のAnt-like stone beetle にしても、アリに似てるかぁ?と釈然としないものがある。
コケムシと聞いて、水中で群体になってミヨミヨしてる微小な生き物(外肛動物)を先に思い浮かべる人は多いと思う。生物は種類が多いので、和名が他のものとカブることなんて、珍しくもなんともない。ミズムシとかキクイムシなんてのも、昆虫類と甲殻類でカブってる和名だが、名前を付け直すなんて今更ムリっぽい話である。
ラテン語の学名にも、「まったく違う生物間で名前がカブってる」問題は、広範囲に数多く存在しており、例えばツメダニ科のAcaropsisなんかだと淡水魚にも同じ属名がある。ミジンハサミムシの学名みたいに、コーヒー飲みながらググると鼻からコーヒー吹き出しそうな危険度の高いものも存在するし。

コケムシくらいのサイズになると安物の実体顕微鏡では手に負えない。いいのが欲しい。ワシが死ぬまでに早く出ないかな。メタマテリアルのスーパーレンズ付で、電子顕微鏡レベルの解像度のヤツとか(年金で分割払いできそうな価格帯希望)。
でもそういう時代になればコケムシの分類はやはり体毛表面の構造だなんて話になってて、安物のスーパーレンズはダメなんてことになったりしてて、際限がないのかも。


ドワーフ・インパクト

2008-10-11 01:29:31 | 自然観察

ヒトの活動とともに分布範囲を広げる種が増えるのは、世界的な傾向のようだ。多くの国が外来種が増えることを問題にしている。同時に語られる話題として、絶滅種の数も急加速して増加中というのもある。
たぶん人間のせいなんだろう。すべてのことが。

大きなうねりのように、世界の隅々までヒトの活動がおよび、自然が壊れていく。
ヒトは、スーパープルームやチクシュルーブ・クレーターとならび称されるインパクトを、地球の生物相に与えていることになるのかもしれない。すごいな・・・ヒト・・・。

しかし、過去の大絶滅は生物相の再編成のキッカケでもあり、厄介な恐竜たちが滅んだおかげで私などがココにいることができるのだ。
ということは、いま我々が目の当たりにしているのは、新たなる星を引き継ぐ生物相の登場の前触れだといえないだろうか?ゴミ出しまくって、森林荒しまくってということも、いやあ、人類が無茶してくれたおかげで今の私たちがいるんだよねーなんて、
未来のナメクジ人間(手塚治虫ネタ)に感謝されるってことか・・・。

などと考えながら、小麦粉とともに世界のあちこちの食品工場でみつかるツメダニを観察していた。Acaropsis sollers という種類。Acaropsis_sollers_female 我が社の激狭の営業範囲では、兵庫県と大阪で見つかっている。どうも、かなり昆虫(微小種限定)を食べているような感じの種類で、面白そうなので現在飼育中。すでに捕食者としての役割に注目した研究がいくつかあるようだ(読んでない)。

実は、このツメダニはすでに日本で記録されていて、なんと正式な報告では四国の霊場の寺の土壌中からみつかっている!!和名はヒトクシゲツメダニとなっていた。これからはこの和名で呼ぶようにしよう。


なんとなく、環境調査でツルグレン装置を手伝っていたときに、山ん中の腐葉土を放り込んだはずなのに、受け皿にタバコシバンムシが落下してもがいていたことがあるのを思い出した・・・・いや、まあウチだけのことだろうけど。

Acaropsis_sollers_female02 触肢の櫛状毛が1本なのが和名のもとになっているのでは・・・と推察する。

Acaropsis_sollers_male 異型のオスは爪の根元が1コブ。

唐突だが、知り合いが大阪湾がナルトビエイでスゴイことになっていると教えてくれたので、俳句を作ってみた。

<

<

温暖化
ヒトの営為で
エイが増え